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亜早紀との試合



 朝食後、食堂にいた頼人、亜早紀、保乃の三人は邸宅の端に設えられた武道場にいた。



 朝方の武道場はひんやりとした空気に包まれ、採光窓からは日光が射し込み、板張りの床できらきらと反射している。

 頼人と亜早紀はすでに道場着に着替え済み。竹刀を持ち、板張りの室内の中心に立っている。一方、黒スーツ姿の保乃は壁に寄りかかり、腕を組んでそぞろな視線を向けていた。



 頼人と亜早紀が竹刀の握り具合を確かめていると、不意に道場の出入り口から伸び上った影が入ってくる。

 神棚をしっかりと拝んで、保乃の元へ歩いて来たのは大森七彦であった。



「おーおー、なんっすかこれ? 朝から道場になんか集まっちゃって? バトルイベントなんてオレっち聞いてないっすよー」



 軽いノリの七彦に対し、保乃は視線を二人に向けたまま答える。



「今朝唐突に決まったからな。これから亜早紀と水下が手合せする」


「水下って……あれ? 昨日あさっちがなまなりから保護してきた真っ白頭のイケメン君っすよね? なんでまたそいつとあさっちが竹刀でバトルなんて……」


「水下が四方市で囮役をしてくれることになってな」


「あらま。そいつはまた命知らずも甚だしいこって。でもそれがあさっち対イケメン君のバトルに発展するのはお兄さん頷けないっすが」


「水下は剣精を呼び起こせる」



 その言葉に、七彦の目が点になる。



「は? え、なにそれ? 彼ってばご同類だったんすか?」


「それがな、どうも違うらしいんだ」


「じゃあ剣の天才とかそんなのなんで?」


「それは、これからわかることだ。もしかしたら面白いものが見られるかもしれん。ほら」



 保乃と七彦が視線を向けると、ちょうど頼人が軽く素振りをする。その動きはなかなかどうして、堂に入ったものだった。


 七彦はいまの一振りでただならぬものを感じ取ったらしく



「――俺も見学させてもらうっす」



 そう言って、七彦は保乃の隣にどっかりと胡坐をかいて座り込んだ。



「で、正直なところ何なんっすっか?」


「何がだ?」


「とぼけないでくださいよ。まさか平井隊長が、剣の腕が立つからとか、剣精が呼び起こせるからとかの理由だけで、あの青少年とあさっちとやらせるわけないじゃないですか」



 意図の真ん中を射ようとする七彦に、保乃はどこか遠い目を頼人に向け、



「少し、知っている奴に似ているような気がしただけだ」


「知ってるやつ? てことは転生者ってことっすか?」


「似てるだけさ」


「ほほう。じゃあもしかしたらあの真っ白頭のイケメン君、平井隊長の前世でのお知り合いで、転生者ってわかってないのは単に思い出してないだけだと?」



 驚き交じりの七彦の訊ねに、しかし保乃は首を横に振った。



「他人の空似かもしれんのは否めんがな。雰囲気が似ている奴なんていっぱいいるよ」


「だから、やらせるんすか?」


「まあ、そんなところだ」



 頷く保乃に、確信はない。ただ剣を振らせれば何か共通するものが見えてくるかもしれないと踏んだが、正直これでな本当にわかるかと問われれば、首を横に振らざるを得ないのだ。転生者が本人かそうでないかを確かめる術は限られており、ほとんどは本人の記憶頼りなのである。



 だが、七彦はノリノリらしく、



「平井隊長の時代とすると、安部のあきっちと同じ平安中期……神代に次いで化け物揃いの時代っすからね。だれっすか? 同じ四天王のお仲間で?」


「だから似ているだけだと何度言えば……」


「するってーと」


「七彦、もう憶測はよせ。立ち合いが真っ当に見れなくなるぞ?」


「それもそうっすね」



 保乃の窘めで、やっと大人しくなった七彦。にやにやとした顔を真剣なものに変え、腕を組んで板張りの床に腰を据えた。



 すると、小さな影が武道場にちょこちょこと入ってくる。見えるのは、金の髪と銀の髪。



「しょうぶしょうぶ~」


「お兄ちゃんと亜早紀がしょうぶ~」


「亜早紀がんばれ~」


「お兄ちゃんもがんばれ~」



 今日も水干を着た金陽と銀陽はひとしきりはやし立てると、武道場の隅にちょこんと仲良く座る。そしてにこにことしたまま、頼人と亜早紀に視線を送った。


 一方、立ち会う二人は準備が整ったか。竹刀を構え、向かい合う。



 そして、頼人が、



「悪いけど、ちゃんとした剣道はできない。それでもいいのか?」


「ええ。別にこれは剣道の力量を試すためのものじゃないから」



 そう言ったあと、亜早紀は武道場の隅に用意された包みに視線を送る。



「水下くん。あそこに防具もあるけど、着けなくていいの?」


「ああ、大丈夫。坂村の方はいいのか?」


「転生者は身体能力も高くて身体も頑丈なの。大抵のことならへいっちゃらよ」


「そうか」



 亜早紀の笑みに頼人も笑みで応じる。すると彼女はその笑みをすぐに不敵なものへと変え、



「だから、遠慮しないで打って来ていいわよ? もちろんまともに当たってあげる気なんてさらさらないけどね」


「お手柔らかにたのむよ」



 そんな風に、会話が終わる。それで、もう訊ねることもなくなったか。黙って位置につく二人。



 そして、一瞬武道場が静謐な雰囲気に包まれたあと、



「やぁあああああああ!」


「セイっ!」



 亜早紀、そして頼人の気合いの声が、朝方の道場に響き渡った。





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