八話
あの後、ユウジとミッチーのヒッポグリフをテイムし、ココに発掘出来る場所を聞き、これからの行動について話し合った。
カズヤは引き続き称号"聖観音の加護"の取得方法を探るらしい。今の所、何か特殊なイベントや、報酬は確認出来ないとの事だ。
それについて、ユウジが気になる事を言っていた。
実は今日の朝に、ギルド員の友人が初インして初心者クエストをやると言う話を聞いたユウジが、真言を試させたそうだ。
結果、称号取得ならず。
まだ一人しか検証していないが、何か、特殊な条件が必要なのでは? とユウジは言っていた。
ユウジはおかしいとも言う。別に特殊な創作真言ではなく、正直に言えば、ちょっと厨二……多感な年頃であれば、知っていてもおかしくない真言である。
中には本職の方もいる筈なのだ。
今迄誰も試さなかったと言う事はあるのだろうか? 自分達が知らなかっただけで、実は試している人がいたのでは? と。
言われてみると、確かに納得出来た。
その人達が称号を秘匿しているのか、そもそも取得出来て無いのかは分からないが、草原に出ただけで寄ってくるウサギに、テイム出来ると気付かないものだろうか? となれば、何か、特別な条件があるのかも知れない。その条件が分からないのだが。
それならそれで好都合であるともユウジは言う。後続の称号取得者が現れないなら、グリフォンイベントも起きない。"狂気の鎖"の作成法も出回らないと。
そうだろうか。態々用意した魔物の反抗イベントを発生させずに終わらせるだろうか。俺達が製法を伝えなければ、他から誰かが伝える様に仕組まれていないだろうか。一抹の不安を感じつつ、最後カズヤに優先順位を下げて良いと言い、ユウジの話は終わった。
ミッチーからは始まりの草原でのイベントが発生するかの報告があった。かなり色々歩き回ったらしいが、発生しないとの事だ。ウサギの従魔化がキーでは無いらしい。
確かにそれがキーなら、ナナクサと一緒にいる時に発生しなかった理由が分からない。称号持ちで一人きりの時に発生する様なキーなのかも知れない。
しかし、次のグリフォンイベントは仲間がいる状態でも発生している。何か意味があるのだろうか。
ミッチーには、引き続き従魔の調査と、街で何が買えるのかの調査をお願いした。
それと、『従魔の絆』関係だが、ハリス君なる人物は平日の早い時間だと言うのにインしていたらしく、早々に試したそうだ。
アイテム製造とテイムの両方に成功したらしい。
今は、報告書の作成途中との事だ。
これで、一番の危機は去った。ユウジもギルド内で報告出来るし、ナナクサが非難される心配も無くなった。
『白竜』に報告を上げるかどうかは後で考えるそうだが、ユウジはすぐにでも漏れると思っているみたいだった。
最後に、次の街、『久遠』の魔物を檻に入れているNPCについてはまだ何も調査していないらしい。まあ、これは俺達の次のイベントに関わって来そうなNPCなので、俺達が調査する事となった。正直に言えば、そんな怪しげなおっさんと関わり合いになりたくないのだが、こればかりは仕方が無いだろ。
そんな報告会が終わると、俺達はまた別行動だ。カズヤとミッチーはそれぞれの作業に移る為にヒッポグリフに乗り込んだ。ミッチーが前に乗り、カズヤが後ろだ。ヒッポグリフの頭には二人のウサギが仲良く並んでいる。
「は、はは、は。恐い訳無いだろ。よゆーよ、よゆー……」
とか、顔を引き吊らせながら飛び立って行った。
それを見てユウカも盛大に顔を引き吊らせていたが、ユウジが一言二言ユウカに呟くと安心した様にユウジの後ろに乗っていた。ユウカのウサギのリックはユウカにくっ付きたがっていたが、ヒッポグリフの頭で我慢している。そんなリックにぴったりと寄り添うユウジのウサギ、リーナ。カップルのウサギはやっぱりカップルなのか? つーか、性別あるのか?
ユウカとは今日、今後も一緒に行動する為に始まりの草原で待ち合わせだ。
本当なら一緒に行動するナナクサの後ろに乗れば良いと思うのだが、それを言うのは野暮である。
初フライトはユウジと感動を共にしたいだろう。
それでもやっぱり恐いのか、ユウジの背中にぴったりと収まり小刻みに震えたまま崖の下にテイクオフしていった。
ナナクサは乗った経験はあるものの、一人で乗るのが初めてだからか少し緊張していたが、ナナクサのヒッポグリフ、はねまるに色々話し掛けていた。
「ギューンって飛んじゃダメだからね。ゆっくりで良いんだからね。ち、宙返りとかもしちゃダメ。後でお肉買ってあげるから言う事きいてね」
それはやってくれって言うフリなんじゃないか?
ナナクサとつのまるを乗せたはねまるは、助走をつけて飛び立って行った。急降下で。あ。旋回してループ。ネタのわかるヒッポグリフだ。プログラマの底意地の悪さがよくわかるな。
最後に、俺も飛び立つ。ココはデリスの頭の上だ。気に入ったらしい。一回崖の上空で、旋回した。
神木にグリフォンの姿は無かったが、その周りでは大勢のヒッポグリフがこちらを見上げている。この魔物達と敵対などしたくない。
変なイベントが起きない様にと俺はお菊ちゃんに願った。
そして今、俺はお菊ちゃんの前に立っている。
時間は午前一〇時五分。
従魔は二匹とも、始まりの草原でナナクサとユウカが見ていてくれている。
『従魔の絆』を報告する迄は、あからさまに従魔を連れて歩かない様にしようと決めたからだ。
俺は初心者クエストを終わらせる必要があるので単身街に入ったが、クエストを終わらせてガチャを引いたら草原に戻り、そのまま皆で『従魔の絆』が報告される迄、ログアウトする事にしている。
この時間になると、早朝よりは人が増え、お菊ちゃんの周りにも少なくないプレイヤーが屯している。この状況ではさすがにお菊ちゃんに話し掛ける訳にも行かず、すぐに思考選択でクエスト処理を行った。
『『ゴブリンの耳』を10個渡しますか? Yes / No』
"Yes"を選択する。
『クエストが完了しました』のポップアップが表示された。
『『討伐してみましょう』が完了しました』
『クエスト報酬: ガチャポイント5P、10000G』
『『初心者クエスト』を完遂しました』
『おめでとうございます!! これでリョウさんも一端の傭兵ですねっ!! 』
『これは細やかな私からのプレゼントです!! 受け取って下さい!!』
『聖観音様の加護を持つ者として、これからの旅路は大変だと思いますが、これからも精進して下さいね!! これは貴方の行く末に少しでも光があります様に、聖観音様からの贈り物です!! 受け取って下さい!!』
『初心者クエスト完遂報酬: ガチャポイント25P』
『聖観音様からの贈り物: ガチャポイント25P』
は? あれ? 初期時ガチャポイントは総計で五〇ポイントじゃなかったっけ?
たしか、お菊ちゃんに初めて思考選択した時に、二五ポイント。
次はクエスト報酬で五ポイントが五回で二五ポイント。
で、今貰ったのが、初心者クエスト完遂報酬で二五ポイント。
聖観音の加護関連で、二五ポイント。
聖観音の加護を持っている事でガチャポイントが貰えるのは納得出来る。初心者クエスト完遂で貰えるのも不思議じゃない。
よく考えたら、このお菊ちゃんを選択しただけで貰えた二五ポイントがおかしいんじゃないか?
何でた? と、お菊ちゃんを見ても、お菊ちゃんはただ、NPCを演じている。
「まあ、良いか。お菊ちゃんの好意と考えておこう」
ガチャポイントは総計で一〇〇ポイント。一〇連ガチャを二回引ける。一〇連ガチャだと一回おまけでお得なので、大概のプレイヤーは一〇連ガチャをするのだ。
早速俺もガチャ店に来た。
初心者クエストでやった一回ガチャ台と一〇連ガチャ台が並ぶ店内、様々な格好をしたプレイヤーが入り乱れ、欲望が渦巻く混沌とした世界。今日も喜びと悲しみの悲鳴をBGMに、運営があざ笑う空間。それがガチャ店だ。俺の前にいた少年も、あまりの悲しさからか、崩れ落ちて地面を叩いている。
まあ、俺の場合はユウカに貰った帝釈天セットがあるので気楽なものだが。
「それはそれとして、ガチャガチャー」
崩れ落ちていた少年が横に退き、俺の順番になった。ガチャ台の隣に積まれた籠を持つと、一〇連ガチャ台を思考選択する。
『ガチャポイント: 100』
『ポイント(50P)を投入しますか? Yes / No』
"Yes"
『矢印に合わせてレバーを回して下さい』
籠を取り出し口の下に置き、ガチャガチャとレバーを回すと、取り出し口からカプセルが次々に出てくる。合計で一一個。ここで確認しても良いのだが、俺は横に退いて次のプレイヤーに場所を開ける。
連続ガチャは混んでいる時にやると迷惑なのだ。
籠をもったまま、後ろに並ぶ。
そんなルールがある為か回転は早いので、すぐにまた俺の番になった。
『ガチャポイント: 50』
『ポイント(50P)を投入しますか? Yes / No』
"Yes"
『矢印に合わせてレバーを回して下さい』
籠にカプセルが溜まり、合計で二二個だ。
すぐに退いて、テーブルの並んだフリースペースへ行く。今度は並ばすに空いたスペースに座り、カプセルの内容確認である。
一つカプセルを取り、カプセルを開けると、光が溢れ、視界にポップアップが表示された。
『弁財天の上衣(女性専用)(R)をガチャで入手しました』
なんか、女性専用に縁があり過ぎないかな?
まあ、次々いくか。
『広目天の革鎧(腕)(R)をガチャで入手しました』
『弁財天の衣鎧(女性専用)(胴)(R)をガチャで入手しました』
『不動明王の両手剣(SR)をガチャで入手しました』
『マウザー カラビナー98k (SR)をガチャで入手しました』
『毘沙門天の重鎧(足)(R)をガチャで入手しました』
『増長天の衣鎧(腕)(R)をガチャで入手しました』
『大黒天の片手剣(SR)をガチャで入手しました』
『吉祥天の衣鎧(女性専用)(足)(R)をガチャで入手しました』
『梵天の衣鎧(胴)(SR)をガチャで入手しました』
『韋駄天の手甲(R)をガチャで入手しました』
『聖天の重鎧(胴)(R)をガチャで入手しました』
『弁財天の衣鎧(女性専用)(足)(R)をガチャで入手しました』
『増長天の衣鎧(頭)(R)をガチャで入手しました』
『増長天の衣鎧(足)(R)をガチャで入手しました』
『千手観音の長弓(SR)をガチャで入手しました』
『毘沙門天の帷子(R)をガチャで入手しました』
『阿修羅の双剣(R)をガチャで入手しました』
『大黒天の重鎧(腕)(R)をガチャで入手しました』
『金剛力士の褌(男性専用)(R)をガチャで入手しました』
『韋駄天の衣鎧(足)(R)をガチャで入手しました』
『聖観音の法衣(女性専用)(SR)をガチャで入手しました』
おお!! スーパーレアが六つも出た!!
このカラビナーとか言うライフル銃はナナクサに上げよう。
弓はユウカかな? しかし、今持ってるのより良いのか分からないしなぁ。まあ、欲しがったら上げれば良いか。
片手剣と両手剣が出たけど、この片手剣は押切用みたいだ。柄は長くて両手でも使えそうな剣だが、俺には振れないよなぁ。まあ、持っていれば良いか。使うかも知れないし。
聖観音シリーズが一つ出たが、これもナナクサかな? 世話になってるし。自分の狩りも出来ない様な面倒に巻き込んだしな。
後は良くわからないからユウカに聞いて合成に使うか交換しよう。
「すみません。隣良いですか?」
視線を上げると、中学生位の少年がいた。ちょっと痩せぎみな体型の少年は、身長一六〇センチ。いや、ユウカより目線が下なので一六〇はないかもしれない。髪の毛を耳に懸かる位の長さに揃えた少年の顔は、ユニセックスな眼鏡によってか中性的で、少し俯き加減に俺を見ていた。見習いの革鎧を着けた少年の左腰には剣を履いている。見たまま初心者クエスト終わった直後と言った様相だ。てか、この子、俺の前で跪いてた少年じゃんか。
どうしたのか周りを見ると、俺の持っていた籠が隣まで出てしまっている。急いで籠を退かして、謝る。
「あ、ごめんな。どうぞ」
少年は空いた隣に座るとまだ変声期が来ない高い声で、静かに──。
「ありがとうございます」
と、礼を言うと、自分の籠を目の前に置いて一つ一つ手にして開けていく。一回一回、ガクリと、肩を落としながら。
「君、大丈夫?」
あまりにも落胆したその表情に、思わず声を掛けてしまった。
少年はキョトンとして、俺を見た後に自分の行動に気付いたのか、真っ赤になっている。
「……だ、大丈夫です。えっと、全然付けられる武具が出なくて……、もうお小遣い全部使っちゃったのに……」
そう言ってまた肩を落とす少年。
「あー。そればっかりはどうにもなぁ……。何か欲しい物があるのか?」
「いえ……。防具も何故か革や重のレアしか出なくて着られないし……、装備出来ない武器しか出ないんです……」
あー。完全にガチャの罠に嵌まってるな。
「誰かと交換して貰えないのか?」
一層暗い顔になる少年。ヤバい、鬼門だったか。
「……さっき、外でレア五個とスーパーレア一個を交換して貰ったんですけど……、それも重鎧で装備出来ないんです……」
撫で肩がさらに落ちる少年。
「……その人は売るかまた交換して貰えば良いって言ってたけど、ボク……、昨日始めたばかりで友達いないし……」
それ、詐欺じゃね? と、交換して貰ったと言う防具を見せて貰えば、それは掲示板でも重くて使えないと有名な防具だ。これならまだ、レア五個の方がセットを揃えて売れば金になる。レート詐欺か。こんな詐欺に引っ掛かるとは……。通報しとくか?
「こんにちは。さっきの子だよね。また、交換する?」
俺が通報するか考えていた時、少年に話し掛けてくる二人組がいた。金色の鎧をきた二人組は少年にニヤニヤと笑い掛けながら近付いてくる。
金色? 『金色の世代』のギルド員がこんなちんけな詐欺? あり得ないだろ? 俺は二人組のスクショを取り、ユウジにメールした。
もし、本当に『金色の世代』の人間ならかなりのイメージダウンだ。
「あ、こ、……こんにちは」
少し萎縮した感じで挨拶する少年に、二人組は少年の肩を叩いて言う。
「またなんかレア出た? 交換するよ?」
それは威嚇してるのか? ここは、俺も乗っておくか。逃げられても面倒だしな。
「へー。レアとスーパーレアを交換してくれたってこの人ら? 何と交換してくれるんです?」
「あ? ああ、レア五個よりは良い武具だぜ?」
俺の格好を見て、少し訝しげにしている二人組の一人、金髪が、少し言い澱んでいる。
「へー。ところで貴方達はあの『金色の世代』の方なんですか?」
話が変わった事に都合が良いと言うかの様に、もう一人、坊主頭のニヤニヤ顔が戻った。
「ああ。そうだぜ。入るのも紹介がなけりゃ入れないギルドだけどな」
「俺達はそこの上層やってるんだ。紹介して欲しいならしてやっても良いぜ」
「え?上層って言うと──」
上層部と来たか。上層部が詐欺やってたら大変だな? おい。少しギルドの事を聞きながら、時間稼ぎをしておこう。少年はビックリした顔で二人を見ている。まさか信じたのか?
「へー。是非紹介して欲しいですよ。俺も」
一〇分程も話した後、エサを撒く。良いカモだと判断したのだろうか、金髪のニヤ付きが深くなる。
「じゃあ、紹介しても良いけど、お前の着てる防具良い装備だな? それくれるなら良いぜ」
ま、目を付けるとは思ってたが、随分と直接的に要求したなぁ? しかしユウカから貰った大事な防具だ。やらん。
「あー、それは無理ですね。残念ですけど」
「あ? 紹介してやるのに正当な報酬じゃね? いいから渡せよ」
俺が断ると、更に直接的に強要してきた。本気でこいつら行動査定値知らないのか? しかし、まあ、もう良いだろう。だって──。
「無理だっつってんだよ、このチンケな詐欺野郎が」
「あぁ!? てめぇ!! ふざけてんのか!?」
「リョウタはふざけてないよー。ふざけてるのはお前らだよな? あ?」
「こいつら、誰っすか? 見た事ねぇけど」
後ろに恐いギルドマスターと、双剣使いが居るから。
後ろから二人組の肩に手を置いて二人を見据えるユウジと、鋭い目で威嚇するカズヤ。
「ひっ!?」
「アンタらは!?」
完全に怯えている二人組を尻目に、俺にちわーすと声を掛けてくるカズヤと、更に追い打ちを掛けるユウジ。
「僕はギルドマスターだけど知らないな。名前も見えないし。色詐欺に、レート詐欺? ショボいなー。でも、うちの名前を出してやった詐欺なら、うちが方を付けないとねー」
顔は笑っているが、目は笑って無い。
今、大変な時期だから、冗談事では済まされないのだ。
「え、え、本物っ!?」
少年はユウジを見て驚いている様だ。まあ、ODOでは有名人だもんな。
「いやっ!! 俺達そんなつもりは──」
「つもりは無くても、うちの名前出したでしょ? 聞いてたよ? じゃあ、本部に行こうか」
「バカやったな、おめぇら。行動査定値知らねぇの?」
有無を言わせずにカズヤは二人組を連れていく。
ユウジは少年に頭を下げている。
「ごめんねー。一回取引が成立しちゃうとそれはもう無理やり取り返したりは出来ないんだよ。返す様には言うけど、強要は出来ないし」
「い、いえ…… 良いです……あ、あの、迷惑掛けてごめんなさい…… 」
スゴく恐縮してガチガチになっている少年。しかしこの少年、一人で大丈夫だろうか。あんな見え透いた詐欺に引っ掛かってしまう素直さは、美徳以前に危うい気がする。
「なあ、君、ギルドとか興味ある? 良かったら俺と一緒に入らね? 『金色の世代』に」
誘いの意味が分からなかったのか、キョトンとしている少年。ユウジは頷いているから賛成している様だ。
「え、あ、え? ええ!? ボクですか!?」
やっと活動を再開したのか、驚く少年。いや、俺だってまだ入ってはいないが、ギルド員予備軍だ。紹介くらい出来るぞ。
「良かったら、だけどな」
俯いてた顔を初めて上げた少年は、戸惑い半分に決意半分といった表情で──。
「お、お願いします。……ボクもギルドに入れて下さい」
と、小さな声で言った。
じゃあ早速とばかりに、俺と少年がユウジにギルド入会申請を出し、それを許可して貰う。
実に簡単な作業だが、これで俺も少年も、『金色の世代』のギルド員だ。俺の場合は何故か上級管理者権限も付いて来たが。
ユウジは、あとよろしくー、とか言って去っていった。
上級権限とか、要らんのだけれど。
少年のカプセルを全て開け終わった後、俺達は始まりの草原に行く事になった。
少年は相変わらず、良い武具が出ないらしい。たまにいるよな。こう言うガチャ運が異様に悪い人って。
少年に戦い方とか、色々聞きながら草原に出ると、ユウカとナナクサが従魔達と一緒に寝転んで話をしていた。
「……え!? な、な、な!?」
絶賛混乱中の少年。そう言えば名前を聞いてない。いや、上級権限を貰ったから、思考選択すれば名前は分かるんだけど、それも失礼なきがするのだ。
「ところで君の名を教えてくれるかな? 俺はリョウ。こっちはユウカとナナクサ、アンド従魔ズ」
「あ……、ミチルです……。え、従魔……?」
うん。未だ、混乱中らしい。
ユウジから聞いていたのか、ユウカとナナクサは動じずに挨拶する。
「私はユウカよ。ギルドの副マスターをやってるわ。よろしく」
「ナナクサだよ。よろしくね」
「あ、よ、よろしくお願いします……」
無事、挨拶も終わり、今は午前一〇時四〇分。
そろそろ、一旦ログアウトしなければいけない時間だ。まだ、正式に『従魔の絆』の報告は上がっていない。多分今日の午後一時位になるとユウジが言っていたので、それまでログアウトして、コンビニに飯を買いに行くつもりだったのだ。
ミチル君にイン時間を聞くと、九時位から入ったと言うので、まだ少し時間はある。
どうするか聞いてみると、自分も一回落ちると言うので一三時に待ち合わせとして、俺達はログアウトした。
ミチル君に従魔の事は後で教えると約束して。
//-------------
本日、三回目のログアウト休憩。
俺はゆっくりと体を伸ばすと、立ち上がる。ふらつきも無いし、感覚の擦れも無い。トイレに行く為に歩いてみても、変な感覚も無い。
大丈夫か。ではコンビニ……の前に、シャワーを浴びよう。脱衣所で服を脱ぎ、気になって背中を確認する。
傷はない。赤く腫れてもいない。アレはVRの中の出来事で、リアルではない。
そう、自分に言い聞かす。
シャワーを浴びれば、きっと忘れる。
本当は一眠りしたい所だが、今寝たら二時間で起きられる自信が無い。
頭から熱いシャワーを浴び、体を洗う。違和感なんて無い。ゴシゴシ洗えば、少し落ち着いた気がする。
服を着て、財布を尻のポケットに入れる。
鍵を持てば準備万端だ。コンビニまでは一キロメートル程離れているが、態々バイクを出す必要も無い。
歩いてコンビニに行こうと、家の鍵を掛ける。
最近はどこの家でもカードキーだが、家は未だにディンプルシリンダー型の鍵だ。父がどうしても電子制御キーを信用出来無かったらしい。
父が死んだ後、鍵を変える話も出てきたが、別に不便は無いし、結局そのままだ。
コンビニまでの道を歩く。
見慣れた風景だが、何故か新鮮に感じる。ずっとODOの世界観に浸っていたからだろうか。
閑静な住宅街を抜けると前方からの車の排気音やロードノイズが次第に大きくなってくる。この県道は我が県の昔ながらの産業道路で、それなりに交通量も多い道だ。排気の臭いがこびり付く県道との交差点に入れば、少し空気の澱みを感じる。まあ、俺もエンジン音や排気では人の事は言えない。
左折して県道に入る。
暫く歩いた先にまた交差点。家の前と同じ位の道と県道の交差点で、中学時分の友達の家があった為によく利用した交差点だ。
信号待ちをしていると、小さな少女がこちらに向かって走って来た。その前には中型犬が元気に走っている。って、あれ、リード離してないか?
「まってぇー!! まってよー!! 」
グスグスと鼻をすすりながら走ってくる女の子。まだ、小学校一年かそれ以下位の女の子だ。散歩中に多分引き擦られてリードを離してしまったのだろうが、犬の向かう方向はこちら、県道だ。いくら田舎だと言っても、この県道は道幅も大きく、複数車線ある為に車の通りも激しい道だ。飛び出したら一発で牽かれてしまう。
「コロンー!! まってぇー!!」
捕まえた方が良いだろう。
俺は犬の軌道を予測する。県道と交差するこの道は住宅街前の町道だからか、センターラインは引かれておらず、道幅は六メートル。県道側から曲がってくる車は今の所いない。
ゆっくり犬に近付けば犬は俺を避けて県道に出てしまうから、素早く確保しなければならない。
呼吸を整える。
息を鼻から吸って、口から吐き出す。
四秒吸って、四秒吐き出す。
良い気を吸って腹に溜め、悪い気を体全体から絞り出す。
クリアになる視界。犬の動きの一つ一つが見える。犬が俺に気付いて走りながら警戒している。あ、軌道変更。犬は俺の横三.五メートル辺りを通り過ぎようとしている。
「こうさてんだよー!! あぶないから……、コロン!!」
通り過ぎる迄、あと、四、三、二、……今!!
横目で確認した犬に横っ飛びて近付き、犬の腹に手を添えると一気に抱き上げる。
犬は何が起きたのか分からないと言う風に足を二、三回泳がせたが、抱かれた事に気付くと唸り声を上げた。
そりゃ知らない奴にいきなり抱かれたら唸るか。それにしても、中型犬って抱いてみるとデカいな。
苦笑しつつ、少女の元に犬を抱いたまま歩くと、少女は立ち止まって呆然としていた。
少女に近付けば、かなり激しく転倒したのか、両膝の擦り傷だけでなく肘や掌にも擦り傷があり痛々しい。
ヒラヒラした可愛い服も汚れが目立っている。
これで犬を追ってここまで走ったのだから、責任感の強い子なのだろう。
少女の頭に手を置く。
「犬は無事だよ。君は大丈夫?」
俺の顔と、犬の顔を見た少女は安心したのか、気が抜けたのか、途端に泣き出した。
ヤバい。これでは俺が泣かせたかの様に思われてしまう。犬を抱いたまま困っていると、騒ぎを聞き付けた近所のおばさんが様子を見に来た。
俺を警戒するおばさんに事情を話すべく声を掛けると、納得したおばさんが少女に話をしてくれた。
どうやら少女は近くに住んでいるらしい。この辺りなら同じ町内なので名前を聞けば家が分かるかと思ったのだが、最近引っ越して来たアパート暮らしらしく、おばさんも俺も全く聞いた事が無い名字だ。
取り敢えず傷の手当てをと、おばさんが救急箱を持って来たので任せると、俺は犬のリードを近くのポールに括り付けた。警察を呼ぶべきかも知れないと思い始めた頃に、必死な形相で辺りを見渡して叫ぶ女性がこちらに向かって来た。
「香菜っ!! 香菜っ!?」
「あっ!! ママーっ!!」
泣きながら娘を叱る母と泣きながら母に謝る娘。クーンと、弱い鳴き声を発する犬。悪い事をしたとでも思ったのか、犬が小さくなっている。
どうやら、カナちゃんという少女は、来年小学校の幼稚園児で、忙しくしているお母さんのお手伝いのつもりで犬のコロンの散歩に出ようとしたらしい。
しかし、中型犬のパワーに幼稚園児の女の子が対抗出来る訳も無くなく、家を出てすぐに引き摺られ、我慢出来なくなって手を離してしまったらしい。
お母さんに事情を話すと、スゴい勢いで感謝され名前を教えて欲しいと言われたが、大した事はしていないのでと、その場を辞する。女の子にもお礼を言われ、軽く手を振ると、俺はやっとコンビニに着いた。
しかし、犬を捕まえた時の動き、あんな動き方を俺、出来たっけ?
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コンビニで飯を買い、同じ道を通ってあの親子に遭遇したら何と無くカッコ悪い気がして、態々大回りで帰った俺。
折角カッコ良く決めたのに、二度会ってしまったら台無しである。ヒーローは一期一会なのだ。
時間を見れば一一時三〇分を少し過ぎた位だ。
コンビニ弁当を食べて、一緒に買ってきたお茶を飲み終わっても、まだ時間は一二時にもならない。あと一時間が長い。ベッドに横になれば寝てしまう気がするし、このままなにもしないで一時間と言うのも飽きてしまう。
軽く運動でもするか。何か無いかと探してみると、男子厨学生の修学旅行お土産ナンバーワン、観光地銘入り木刀を発見した。
そう言えば、ユウジに呆れられながら買ったなぁっと、暫しノスタルジックな気分に浸る。これで良いか。ユウジやカズヤに言わせれば、土産の木刀は色々ダメらしいが、素人の俺が本格的な木刀を振るのも烏滸がましい。
……部屋の中でこれを振るのか? いやダメだろう。庭に出よう。
庭に出ると、木刀の根本付近を左手に持ち、軽く袈裟懸けに振ってみる。ヒュンと風を切る音が気持ち良い。左肩を前に出し、木刀の背と左手の合谷、手首、肘、肩までが一直線になる様に構える。体は苦しく無い程度に横を向き、肩幅の倍位に足を開いて腰を落とす。軸足である右足に体重を載せ、木刀を振った瞬間だけ左足に体重移動。
袈裟懸け、下段突き、斬り上げてまた袈裟懸け。暫く続けると息が上がった。基本体力が無い俺がODOで動けるのは、疲れ知らずのVRだからだろう。瞬発力は良い感じなのかも知れない。リアルではすぐに疲れるけどな。
さて、もうそろそろ良い時間だろう。
家の中に入ると一二時四〇分。
少し早いが遅れるよりはいい。
俺はVRギアを被り、もう一つの現実にログインする。
ログインして周りを見れば、俺と一緒に顕現した従魔達が横になり、ミチル君が座って俯いている。
「ん? どうした? また俯いて」
顔を上げたミチル君は取り繕う様に引き吊った微笑を顔に張り付け、何でも無いと言うが、そんなのは逆に気にしてくれと言ってるのと同じだ。ミチル君の両肩に手を置いて、ジッと目を見る。
「で、どうしたんだ?」
暫く目を泳がせていたが、観念した様に言う。
「貯金箱に入ってたお金で……もう一度ガチャをしたんですけど、やっぱり装備出来る武具が出ないんです」
またガチャやったのか。しかし、そんなにガチャ運が悪いのか? 今日はもうガチャしない方が良いと思うが。
「ボク、体も小さいし体力無いから、衣鎧じゃないと装備出来そうに無いんです。でも、出るのは革鎧と重鎧で……。剣も見習いの剣ですらまともに使えないし」
言っている内にどんどん落ち込んで行くミチル君。
「折角憧れてた『金色の世代』に入れたんだから、装備だけは笑われない様にしようと、思ったのに……」
目も少し潤んできた。
「あー。ところでミチル君は、今なに持ってる? 俺の持ってるレアの衣鎧と、革鎧を交換してくれないか?」
え? と、潤み出した目を丸くするミチル君。
いや、同じギルド員だし、基本だろ? 合成素材欲しいし。
武具箱から、衣鎧系の武具を出して並べる。
『弁財天の衣鎧(女性専用)(胴)(R)』
『増長天の衣鎧(腕)(R)』
『吉祥天の衣鎧(女性専用)(足)(R)』
『梵天の衣鎧(胴)(SR)』
『韋駄天の手甲(R)』
『弁財天の衣鎧(女性専用)(足)(R)』
『増長天の衣鎧(頭)(R)』
『増長天の衣鎧(足)(R)』
『韋駄天の衣鎧(足)(R)』
一部、女性専用もあるが、素材として使えば良いし。あ、でも、ナナクサが欲しがるかな? まあ、良いか。
「俺が出せるのはこれだけだ」
ビックリしているのはやはり梵天の衣鎧のせいだろう。スーパーレアだし、かなり人気があるシリーズだ。
「い、いや、これは、釣り合う物が無いし……」
「スーパーレアはレア五個で良いぞ? 全部で一三個。出来れば革鎧が良いな。帝釈天シリーズがあればなお良い」
諦めようとするミチル君だが、俺の言葉で目が輝く。
「あ、じゃあ、これと、これと……」
武具箱から色々出し始めたミチル君の手は止まらない。おいおい、どんだけあるんだ?
全て革鎧と重鎧。たまに手甲やら、脛当てやらが混じっているが、全部で三〇個は優に越えている。そして全部レアだ。武器系は抜いているのだろうから、五回か六回は一〇連ガチャをやったんじゃ無いか? 一回はタダになるとはいえ、五回やったら二五〇〇〇円だぞ。小遣いを使い果たしたって言うのは本当らしい。
俺は一つ一つ、ミチル君が出した武具を見ていく。
「なあ、何でこんなにガチャを回しちゃったんだ? 自制が効かなくなる様な性格にも見えないけど」
お、帝釈天の下衣(R)発見。これは確保だな。
「あの、ボク、『金色の世代』に入りたくて……。でも、体力も武道の心得も無いから、きっとダメだって……。でも、もしかしたら良い武具を着けていればって……」
あー。で、負のスパイラルか。俺もユウジと友達じゃ無かったら同じかもしれないしなぁ。
あ。また、帝釈天シリーズ……。ん? 帷子か。まあ、確保。
「俺達はもう同じギルド員だし、ユウジは装備でどうこう言う奴じゃない。だから、無理すんなよ。どうすんのこの量?」
革鎧はまだ、ギルド内で交換してくれる人も居るだろうが、重鎧はなぁ。槍か剣の盾役志望以外使わないしなぁ。あ、でも、騎乗出来る従魔が居れば話は変わるのか?
「え? いえ。全部差し上げます……」
「いやいや、流石に貰い過ぎ? でもないのか? いや、一三個で良いよ。さて、こんなもんか。こっちに分けたのを貰いたいんだけど良いかな?」
俺は数多い中から革鎧系一三個を選んでミチル君に確認する。
「は、はい……」
「他のは交換したり、合成に使った方がいい。じゃあ、そこにあるのは君のだから、仕舞ってな」
「ありがとう……ございます」
またウルウルし始めた。しかし、武具を出しっぱなしという訳にもいかない。急いで回収させる。
「あ、そうだ。剣を構えて見せてくれないか?」
なんか、武具を仕舞いながら本格的に泣き出しそうだったので、話を変える。ミチル君の戦うスタイルを見ておきたかったのだ。
「はい!! えっと、こう構えて……」
ミチル君は、思っていた通り、片手剣を両手で握って構えている。体から多分、片手では振り回せないだろうと推測していた。うーん。
「なあ。スーパーレアの武器、何でも良いから持ってないか?」
すると、剣道の様に素振りをしていたミチル君が止まる。どうした?
「持ってるんです。剣を……」
え? そうなの?
「何で使わないんだ?」
「あの、ボクには使えなくて……。両手剣なんですけど、ボクの身長と同じ位長くて……」
あー。そりゃどこぞの狂戦士だな。
「見せてくれない? 俺もスーパーレアの片手剣を持ってるから、もしこっちのが使えるなら交換しても良いし」
「でも、リョウさんも片手剣ですよね?」
俺は『大黒天の片手剣(SR)』を出して言う。
「これ、俺には柄が長過ぎるんだ。持ってみ?」
鞘を俺が持ったまま、柄を差し出すと、ミチル君が恐る恐る手に持って抜く。両手で確りと握り、振る。
「これ、軽く感じます……。見習いの剣よりずっと使い易そう……」
「柄が長いから、重心が違うんだろうな。右手と左手に間隔を取れるから小回りも効くし、そっちのはどんなのなんだ?」
言われて慌てて取り出した剣は、デカかった。
長さは言っていた通りミチル君より長く、一五〇センチを越えている。柄の長さが三〇センチ位だと言う事は刀身は一二〇センチを越えているのだろう。鞘から抜くと、刃の幅は鍔元で八センチ程で、厚みもある。両手で持ち、剣道の授業を思い出しつつ構える。重さは六キログラム位だろう。少し足を開いて構えないと剣の重みでバランスが崩れてしまう。
『軍荼利明王の両手剣(SR)』
正直、俺には使えない。つーか、一番最初に今の剣の使い方を覚えてしまったからか、違和感がスゴい。
剣としてはこの振り方の方が正しい筈なんだが。
まあ、元々使えると思ってした交換じゃないしな。
ミチル君をみれば、大黒天の片手剣が気に入っているみたいだし、良いだろ。
「じゃあ、交換して貰えるか?」
「是非、お願いします!!」
じゃ、交換だ。鞘を渡すと、ミチル君が武具箱に入れ、早速装備して腰に穿いている。俺はそのまま武具箱に入れる。
これでミチル君の装備は殆どレア以上だ。
「課金は適度にやった方が良いぞ。出ない時は本当に出ないし。別ゲーの話だけど」
はい……と、情け無さそうな顔で返事をする。
「それから、装備を変える時は絶対に全部外しちゃダメだぞ。絶対だ」
ミチル君はキョトンとしていたが、次第に意味が分かったのだろう真っ赤になって焦り出した。
「や、やってないです……し、やりませんよ!!」
「俺はやって、ユウカに怒られたがな」
えぇっ!! と大層ビックリされた。
ユウカの話によると、割りとメジャーな失敗らしいのだが。
あ。そうだ。ビックリついでにもう一つ。
「すっかり紹介を忘れてた。ココ、デリス、おいで」
横になり眠っていたのか、呼ばれた二匹はのっそりと起き上がり、こちらに歩いてきた。
「こいつら俺の従魔な。ウサギがココで、ヒッポグリフがデリス。ココ、デリス、この子はミチル君だ」
やっぱり驚いている。まあ、驚くわな。
ココとデリスは挨拶なのか、ミチル君に擦り寄っている。もしかしたら、匂いを付けているのかも知れないが。
最初、擦り寄られて戸惑っているミチル君だが、次第に慣れたのか、デリスを軽く撫でるまでに至っている。
しかし、ユウカとナナクサは遅いな。どうしたんだ?
「あれ……? ユウカさんならさっき街にいましたけど……」
「え? そう?」
そんな話をしていたら、街の方からウサギを連れて歩いてくる女の子がいた。ユウカだ。
「お待たせ。ちょっとギルドの仕事で遅れたわ」
片手を挙げて謝るユウカ。仕事なら仕方無いわな。
「いや、お疲れ。あ、ユウカプレゼント。使えるかどうかは知らん」
ユウカにあげようと思っていた『千手観音の長弓(SR)』をぽいっと渡す。
「うわっ!? ちょっ!? って、これ、オーバースーパーレアじゃない!! ガチャで出たの!?」
「オーバー? よくわからんが出たぞ?」
そんなに良い武器なのか? 和弓っぽいからユウカに渡しとけば良いか? ってだけだったのだが。
「オーバーっていうのは、スーパーレアを越えるスーパーレアって意味よ!! しかも和弓……。和弓の矢って何処かにあったっけ?」
まあ、喜んでくれて大満足だ。しかし、ナナクサ遅いな。
「なあ? ユウカ──」
「いやよ!? 返さないわよ!?」
そこまで気に入ったのか。しかし、ちょっと必死過ぎてイメージ崩れてるぞ。主にミチル君辺りの。
苦笑して見てるミチル君。
「いや、ナナクサ知らない? あいつにもプレゼントがあるんだが」
「へ? あ!! そうだった。いま、あの子は街の中よ。ほら、例の『従魔の絆』関係で。すぐ来るわ……って何あげるの? 見せて」
あー。別に秘密にしなければいけない訳でも無いし、見せるのは構わんが。ミチル君も興味があるみたいだし。
俺は武具箱から、ナナクサにあげようと思っていた武具を取り出す。
『マウザー カラビナー98k(SR)』
『聖観音の法衣(女性専用)(SR)』
「……。兄さん、相変わらず引きが良いわね。そう言えば、駅前の福引きも温泉旅行とか当ててたし」
「ボクにも梵天の衣鎧の胴をレアと交換してくれたし、この剣も交換して貰ったんです。少し運を分けて欲しいです……」
え? 待ちなさい。自分で使えそうな武具は出ていないんだから、ミチル君と立場は一緒だぞ?
「兄さん。一回の一〇連ガチャで、スーパーレアなんて一つ出れば良い方なのよ?」
「ボク、課金して今日、八回回して、スーパーレアは一つでした……使えない両手剣ですが……」
いや、今回は上手く行っただけじゃね?
「ライフルは大体オーバーよ。あと、法衣って、鎧の上に着る着物よね。あれ、すごく取引値段高いわ」
へー。そうなんか。
「まあ。聖観音の女性専用は全部ナナクサに上げちゃえば良いかと」
「そんなに見たいの? ビキニアーマー」
「ビビっ!? ビキニアーマー!?」
ち、ちがいますー!! 間にシャツとズボン着れば良いじゃない!!
「まあ、これならナナクサも喜ぶと思うわ」
「私がなんです?」
って、ナナクサさん、いつの間に居るんですか?
まあ、丁度良いんだけど。出してあったライフル銃と法衣をナナクサに渡す。
「ほい。ナナクサにプレゼント」
「えっ!? これ、く、くれるんですか?」
狼狽えるナナクサに、迷惑料だと付け足した。
「でも、これ、凄く良い銃じゃないですか。Kar98kとか、ボトルアクションの名銃ですよ!?」
「いくら名銃でも使わなくては意味はないからな」
嬉しそうにライフルを抱えるナナクサ。クリップ買わなきゃとか言いつつ武具箱に仕舞っている。同じマウザーだし、クリップ装填とかが関係しているんだろうか。
「あ、ありがとうございます。あと、これって……」
「兄さんが是非、ナナクサにビキニアーマーやって欲しいんだってさ?」
「えぇっ!? 」
「いや、違うからな!? 本気にするなよ!?」
本気にされても困るので、慌ててフォローするが、ナナクサは、サイドテールをブンブンと振りながら顔を手で覆っているし、ユウカは口角を上げて笑っている。ミチル君は我関せずとユウカのリックを撫でている。く、味方がいない。
結局、まあ、揃ったらいずれ、と言うナナクサの締めで収まったが、揃ったらやるのか? って、ちょっと待て。
「その武具、よく考えたらビキニアーマーの上に着る武具じゃねぇか!? それ着て隠せよ!!」
やっと気付いたのかとでも言いたげな皆の視線に傷付いただけだった。
ナナクサは、早速武具を着けてみた。ナナクサの肩にパッドが入った衣鎧の上に着ると、少し錨肩になるが、銀糸で織られた布地は胸元まではだけ、中に着た衣鎧の金色を強調する。本来は法衣とは袈裟であり、腰巻きの上に一枚の布を纏っている様な作りになっている筈だが、動きを阻害しない為か和服の様な前重ねのコート風になっており、折り重ねられた衿やゆったりと広い袖、両肩を被う刺繍された肩掛けが法衣のイメージを残し、神秘的な装いを醸し出している。
「えっと……。似合いますか?」
赤くなったナナクサが俺に問うが、この感想は一口では言えない。だから、安直な感想しか口に出せなかった。
「なんか、神秘的な感じ? 似合うよ」
嬉しそうに微笑むナナクサ。少し小首を傾げてサイドテールが揺れる。
「あー。この法衣着ると、確かにあの像の装備ね」
「すごくきれい、です……」
ユウカとミチル君も感想を言う。ミチル君真っ赤だけど、大丈夫か?
ま、なんにせよ、皆が喜んでくれて良かった。要らんと、返されたらかなりショックだしな。
「じゃあ、この後どう動くんだ? 俺としては、南に行く訳だが」
さて、武具の交換も終わったし、これからどうするかを話して行動に移そう。
「あー。その事だけど、取り敢えず、『従魔の絆』については片付いたわ。既にウィキにも掲示板にもアップ済み。もちろんうちのギルドの検証込みでね。お蔭で批判が反転して称賛に変わったわ」
「じゃ、ユウカが俺とナナクサに付く必要も無くなったか?」
なるほど、じゃあユウカに護衛して貰う必要も無くなったし、別々になっても良いのか?
「私は兄さんと称号イベントの検証。今、ミッチーがギルド員数人と『従魔の絆』でのテイムに関して検証を始めてるわ。アクティブをテイム出来るのかとか、エサを使えばどうかとか、そう言う検証ね。カズ君は従魔がいる事で変わる部分の検証。街の中で何が売買出来るのか、従魔イベントが起きるかとかね。ナナクサはどうする?」
「私もこのままリョウさんと行動したいです。イベントの続きが気になりますし」
あー。確かに称号の関係で誰か俺に付いてた方が便利なのか。複数で検証した方が正確だしな。ナナクサは興味みたいだけど。
こっちをチラリと見て、ニッコリ笑うナナクサに手を挙げて了承する。
おっと、ミチル君はどうしたいのか聞いてない。俺がギルドに引っ張ったのだから、やりたい事が無いなら一緒に行動するべきだろう。
「ミチル君も一緒に来ないか? 良かったらだけどな」
俯いていたミチル君は、顔を上げて俺を見る。誘われると思っていなかったのか、暫くしてから目を丸くした。
「……い、良いんですか? なら…、お、お願いします。……それと、君付け……いらないです……」
あー。もう仲間なら、君付けもおかしいよな。しかし、何でそんなにキョドってるんだ? じゃあ、南に行くのはこのメンバーだな。
「じゃ、早速南に行く──」
「あ、そうそう、従魔関係での食料品、肉と魚と野菜に果実。大量に買っておいたわ」
「リョウさん、魔法買い直しました? 買ってないと思って、ウォーターボールと水の魔法障壁買ってきましたけど」
言われて思い出した。確かに従魔達の食料は必要だし、魔法も買ってない。
「ぐ、確かに必要だった。すまん」
全く兄さんは浅はかねーと言いながらナナクサとはねまるに向かうユウカに、あははと苦笑いのナナクサ。
俺もミチルを連れてデリスの元に行く。
「え? え? まままさか、この子に乗れと? ボ、ボクは動物に乗った事無いんですけど……」
平気だ。ここにいる俺もアイツ等も今日初めてだ。
「でも、落ちたら……」
魔法障壁があるから基本平気みたいだぞ。
俺はデリスにミチルを乗せ、ベルトを掴ませる。
「じゃ、太股でしっかり支えろよ、ミチル。じゃ、デリスいくぞー」
「はっ!? いや、どうすれば!? ああっ!! 飛んでる!! 飛んでる!?」
ミチルの悲鳴と共に、俺達は始まりの草原から南の街道へ。そして更に南へと向かうのだった。