1話 大切な本①
第七特別地区、通称・禁忌の街
名前のように危険な街では決してない。犯罪率でいえば一般地区の10分の1以下だろう。住民のほとんどが学者で犯罪に手を染める暇があるなら研究に勤しむと皆が答えるだろう
しかし、学者たちはある一つの法に触れた。正確には数世代も前の先祖、火星に移住してきたころの人だ。もう二百年ぐらいになる。その罪は末代まで続くのだ
地区への出入りは法で禁じられているが、実際にはここに入ろうと思う人などおらず、また出ていく必要もないため出る人もいない。なので門番もいない
それ幸いと俺は地区へ出入りしていた。理由は禁忌の内容を調べるためである。そして、少女を助けて以来その家の書物を調べている。
「雄大、必要な本は見つかった?」
助けた少女・エーラがお盆にコーヒーを乗せ運んできた。丁度休憩しようと思ってたところ、これも阿吽の呼吸と言えるのだろうか
「いや、今日もダメだね。おじさんの本ってこれで全部?」
実際、『これ』といっても部屋の壁一面にある書棚にぎっしり詰められていて千冊以上は越えているだろう
読んでいた本を書棚にしまい、コーヒーにてをつけるとブラックであると分かりエーラの方を見る
「ごめん、ミルクと砂糖だよね。大丈夫、持ってきてるから」
お盆の上にあった二つを持ち、俺の欲しい量を適当に入れスプーンで混ぜる。熱いのもダメなのを知ってるので最後に「フーフー」と言いながら冷ましてくれた。
「ありがと」
さすが俺の嫁!と叫びたくなった衝動を抑えコーヒーを飲む。
「さすが嫁だろ?」
しっかり分かっていたようだ