あれは誰だったのか
「君とは何年ぶりの再会になるのかな」
座椅子に体を預け、神経質そうに白い髪を弄りながら目の前の青年はそう聞いてきた。
「六年よ」
微かに自分の声が震えていた。
「会えたら聞こうと思ってたことがあるの」
青年は何も言わなかったが、先を促すように首を傾げた。
「あの日、私のことを愛してるって、そう言ったの?」
声が震えないように、ゆっくりとそう言った。
「うん」
「知らなかったわ」
「そりゃあ、言わなかったからね」
唇が震えるのをもう止めることは出来なかった。
青年が身を乗り出して顔を近づける。
「君はどうなの?」
青年の柔らかな手が目許を擦ってきた。
「愛してるわ、あなたのこと」
唇が雫で湿ってから、ああ、私は泣いてるのかと気付いた。
青年の手が、目許を、涙を拭う。
「でも、あなたを愛するのと同じくらい彼のことを愛してるの」
青年は手を放し、上体を戻した。
青年の顔が離れていくのを見ながら、私たちはもう駄目なんだと思いしった。
「それでも僕は君が好きなんだ」
「けれど、あなたは私を縛れない。もう、終わったのよ、私たち。
これから私はあなた以外を人生で何度も愛するのよ。だって、私ってまだ16歳なんだもん」
涙が頬を伝って流れ落ちた。
「うん、わかってるよ」
「ごめんなさい」
「うん」
青年の顔を白い髪が隠した。
「僕は変わらず君を愛してる。
だから、僕は君を赦すよ」
青年は顔を上げると、笑った。
私はぼんやりと座椅子のアーモンドの花模様を眺めた。
アーモンドの花は、誰よりも早く咲き、桜が満開になる頃には散っている。
花言葉を思い出し、消えた青年を想い、止められない涙で頬を湿らせた。