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四章 実戦演習



 黒芯を紙から一度離し、全体像を確認する。

 ボサボサの黒髪に精悍な輪郭、シュッとした鼻。人懐っこい微笑みを湛えた分厚い唇と、好奇心の強さが溢れ出した黒い瞳(まあデッサンだから元々白黒なのだけれど)。メモリーよりは大分劣化するが、大好きな家族の正面を写し取った肖像画だ。

「この人がいつも言ってるディーさんか?」覗き込んだ友人が尋ねてくる。

「はい」

 興味津々な他の友人達も集まってくる。

「へえ、結構イケメンじゃないか。エレミアではさぞやモテたんだろ?」

「そうですね……想いを寄せている女性は一人いました」

 ルウさん……また、会えるかな。今度はもっと色々な話がしたい。こちらでの生活やエリヤさん、他に同居する家族の事等。お茶でも飲みながらゆっくり聞きたかった。

「一人?嘘だろ?」

「エレミアの人口はシャバムよりずっと少ないですから」

 恐らく百人にも満たないはずだ。流行病や自殺に因り、僕が目覚めた時には既に街の建物の半分近くは無人だった。

「OH、NO!何て絶望的な世界だ!」大袈裟な仕草で顔を覆う。

「いえ、人がいないだけで面白い事は沢山あるんですよ。景色も綺麗ですし」

 弁解しつつ、自分でも多分この宇宙の方が楽しいと思った。滅びの日も無く、望めばこうして学び、或いは労働に因って貢献出来る世界。もし技師の母が自ら命を絶たずここに来ていれば、きっと魔術機械の技術に多大なる興味を示しただろう。


 ガラガラ。「ほう、もう出来たのか」


 トイレから戻って来たシルクさんがデッサンを眺め、素晴らしい!まるで目の前にいるようだ!手放しで絶賛してくれた。

「あ、ありがとうございます……」

 気恥ずかしさにエンジンが沸騰しそうになりながら応える。

「そうだシルクさん、演習の時間は?そろそろ政府館へ向かった方がいいのでは」

 教室に来て既に二時間近くが経過していた。移動距離を考えればぼちぼち出ないと。

「そうだな。ではキリが良ければ行こう」

「はい」

 スケッチブックを個人の棚に片付け、職員室から戻って来た熊髭先生に退席を告げて大学を出た。



 演習は政府館の玄関前、普段はサッカーをやっている開けた場所で行われるらしい。向かうと、成程。体格の良い制服姿の男性達が武器を手に整列していた。……と言うか、まさか女性はシルクさん一人?恐る恐る尋ねると、そうだが、どうかしたのか?至極あっさりした返事。

「ええっ!?あ、あんな汗臭いマッチョばかりの所に、シルクさんみたいな素敵な女性が……ど、どうしてです??」

「?いや、単に多少身元が怪しくても入れそうだったからだが。丁度欠員が出たばかりで、給料も他より良かったのでな。―――ん?いや、あれは実働部隊だ。政府館内の司令室にはちゃんと女性もいるぞ。私と違って華奢で可愛らしい、な」

 僕等の存在に、列の先頭で話していた初老の男性が気付いて振り返る。

「おや、我等が戦乙女の御登場だ」

 一斉に上がる野太い歓声と口笛。紅一点でも好意的に受け入れられているようで一安心だ。

「やあ団長。職務中の負傷とは言え、長く休暇を取って済まなかった。明日にも復帰して挽回するつもりだ」上司達に朗らかな笑みでそう言った。

「そんなに急がんでもいいぞ。まだ本調子じゃないんだろう?上からも後一週間は休ませろとお達しが来ている」

「一週間もだと?冗談は止してくれ。身体が鈍って仕方ない。それに収入が無いのは」

「傷病休暇を使っているから給与に関しては心配するな。大体お前は働き過ぎだタイナー。幾ら妹の治療費のためでも、自分の身も顧みないで……良い機会だ。大人しくゆっくりしていろ」

 納得するかと思いきや、彼女は形の整った胸を反らした。

「団長。今日の演習だが――私一人でやらせてもらうぞ」

「!?」

 あんまりな余裕宣言に、団全体が動揺に包まれる。

「嘘だろ?」「幾ら強くても全員抜きは」「しかも全治してないんだろ?」「無謀過ぎる」

 僕も意図に気付き、慌てて止めに入る。

「駄目ですよシルクさん!この人達皆を相手になんて!!またリサさんを悲しませるつもりですか!?」

「心配するなクレオ殿」耳元に唇を当て「この程度の連中、正直ものの数ではない。すぐに終わらせてやるさ」

 サラリと言い放って身体を離し、ブンッ!ハルバートを構える。

「さ、何処からでも掛かってこい」

「本気かよ」「どうします団長?」

 初老の男性は目頭に指を当てて考え込んだ後、徐に口を開いた。

「仕方ねえ……手前等、手加減無しで行け」


 命令を受けた瞬間、おおーっ!雄叫びと共に武器を取る。有り得ない!怪我人相手に凄く乗り気じゃないか!

 

「クレオ殿、下がっていろ。危ないぞ」

「でも……分かりました」

 政府館玄関、その階段の上へ行きつつ、何時でも加速装置と氷の弾丸を使えるよう心の準備をした。いざとなったら、僕が身を挺してでも止めないと!

 が、そんな心配は一分も経たない内に不要となった。


「え?」

 バシッ!ガンッ!ドンッ!!「ぎゃあっ!」「ぐあっ!!」「げっ!!」


 屈強な男達が次々吹き飛ばされ、地面や草叢とキスを交わす。わ!慌てて飛んできた団長さんを避けた。うわ、頭打って気絶してる……まあ、あの暴れ振りを考えれば、これでもまだ軽い方か。

 十分もすると、地面に立っているのは彼女ただ一人になった。まだ物足りないのか、やや不服そうにハルバートを振り回す。

「何だ情けない。幾ら本気を出したとは言え、まだまだ鍛錬が足りんな」

「シルクさん、怪我は?」

「見ての通り掠り傷一つ無いぞ。驚かせて悪かったな。さ、ランチに」




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