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終章 甘苦い一粒の謎



『あれ?』

『どうした?』

 住居の寝室へ戻った僕は、ベッドに横になりかけて立ち止まる。

 枕の上にある、焦げ茶色の小さな四角を摘まみ上げる。透明なビニールで包まれた一口チョコレートには、つい最近見覚えがあった。

『変ですね。この前貰った分は、二人ですぐに食べたはずです』

『確かにあの時と同じ包みだな。三つあったんじゃないのか?』

『いいえ。それが……』

 数日前、一人で散歩していた時の事を思い出す。路地を歩いていて偶然、チョコレートの大袋を持ち、母親と手を繋ぎながら道行く人々に配り歩く坊やと遭遇したのだ。

『おにいさん、どうぞ』

 僕の家族はディーさん一人。しかし差し出された包みは何故か三個。袋の中身が僅かなのも見えたので人数分取り、残り一つは小さな拳を包み込んで握らせた。

『ありがとう。でも、これはあなたが食べて下さい』

『え……どうして……?』

 幼児は小首を傾げ僕のやや後方、誰もいない空間を見上げる。

『あら、ありがとう』

 真っ赤なルージュのメノウさんがお礼を言い、息子の黒髪を撫でる。『さ、お父さんのお家へ行きましょうまーくん。きっと今頃、出来たてのお菓子と一緒に首を長くして待っているわ』

『うん……ばいばい、おにいさん「たち」』

 小さくて真っ白な手を振り、幼子は僕に別れを告げた。

 その不思議な話を終え、僕は腕を組む。

『傍には僕達三人以外誰の姿も無かったんです。なのに何故複数形を……』

 聞いていたディーさんが無言のまま頷く。

『花畑で僕と会ったと言う話といい、また寝惚けていたのでしょうか?』小さい子だし、有り得なくはない。『でも、何故返したはずのチョコレートがベッドに』

『――食わないのか?』

『え?』

『食っちまえば何でも同じさ』

 言うなり家族は包みを開け、僕の口の中へカカオの立方体を放り込んだ。




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