表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

7わん!

最初に想像していた話と大分変わりそうです。なんか、比較的明るい話にするはずが、暗い話になりそうです。

 あの雨の日以来、僕はカワズに会いたくて、毎日走った。カワズに伝えたくて、毎日遠吠えした。「誰かに届いて欲しい」という気持ちじゃなくて、「カワズに届け」という気持ちで叫んだ。でも、翌日も、その翌日も、カワズには会えなかった。それでも僕は、いつかきっと会えると盲目的に信じていた。そして、自分の気持ちを伝えることのできる相手が出来たと思い、嬉しくて、有頂天だった。僕は、いろんなことを考えて、いろんな展開を予想して、いろんなことに怯えて、いろんなことにドキドキして、きっと、何かが変わると思っていて、そして、その変化はきっと「良い変化」だと……かってに思い込んでいた。それなのに……それなのに…………。



―――カワズは、死んでしまった



 もともと病弱だったらしい。それが、最近悪化し、ほとんど外出も出来ず、一日中家で過ごさなければいけないくらいだったらしい。それが、1週間前の大雨の日に無断で外に出て、そこで症状が急変して、そして、その3日後にはもう、この世にはいなかったらしい…………全て語尾に「らしい」が付いてしまう。その度に、僕は彼女のことを何も知らないと思い知らされる。これからいろんなことを知りたかったのに、それがもう叶わないという現実を、思い知らされる。


 僕がありもしない未来を想像している間に、悲劇はかってに進行していたんだ。


 あぁ、僕は馬鹿だ。死んでいるとも知らずに、へらへらと、カワズとの明るい未来を思い描いていた……。


 カワズと出会ったのは一瞬で、言葉を交わしたのも一瞬で、彼女の存在そのものが一瞬で……でも、一瞬だからこそ、圧縮処理しなければ溜め込むことのできない”思い出”みたいに薄れることのない、強烈な光として、彼女は僕の心から離れないだろう。それは一瞬で、一瞬だからこそ、一生、離れない。


 そう思うことが、このときの僕にとって唯一の救いだった。本当は、思い出せないほどの思い出を、カワズと作ってみたかった。圧縮しても足りないほどに溢れる時間を積み重ねたかった。でも、それはもう、叶わぬ夢。それならせめて、”瞬間”だからこその理由を、探したかった。”瞬間”からしか得られない何かがきっとあると、思いたかった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ