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4わん!


「おはよう」って、言えなかった。


―――マイナス1点


 僕の隣の席の倉橋君が、えんぴつを忘れて困っていた。僕はそれに、誰よりもはやく気付いたのに、僕はえんぴつを2本余計に持っていたのに、「これ、よかったら使って」と言えなかった。


―――マイナス1点


 不注意だった。少しおとなしい田町さんの、素敵な花柄のしおりを踏んでしまった。彼女は「あ……ごめんなさい」と悪くないのに謝っていたけど、きっと、すごく嫌な気持ちになっていたと思う。もしかしたら、あの栞は彼女にとってとても大切なものだったかもしれない。僕はそれを、文字通り踏みにじった。


―――マイナス1点


 総合学習の時間。みんな楽しそうに文化祭の話し合いをしていた。すごく、いい雰囲気だった。僕も一緒にはしゃいでみたかったけど、出来なかった。それだけならまだしも、きっと、黙ってうつむいてた僕の存在は、みんなの楽しい雰囲気を壊していたと思う。僕がいなければ、みんなもっと楽しめていたと思う。


―――マイナス1点


 部活の時間。僕はグラウンドを何週も、何週も走った。1週間後、陸上の大会がある。今週はとにかく、自分を追い込みたかった。予定通り、メニューをこなすことが出来た。何より、走っているときは嫌なことを忘れられた。不謹慎だけど、楽しかった。


―――プラス1点


 でも、僕は一人だった。部員のみんなは、一緒に足並みをそろえて練習していたのに、僕だけ一人だった。


―――マイナス1点


 「勝手に一人で走ってんじゃねぇ!」と、3年生の部長に怒鳴られた。


―――マイナス1点


 「お前、少しくらい長距離が得意だからっていい気になるなよ!」と、さらに部長に怒鳴られた。僕は、2年生の分際で、3年生の最後の大会を台無しにした。陸上大会は、学校ごとに参加枠が決められている。その枠を、僕は部長から奪った。


―――マイナス1点、マイナス1点、マイナス1点、マイナス1点、マイナス1点……


 夕方を過ぎた頃、雨が降ってきた。僕は涙を雨に隠した。自分の気持ちを、誰かに気付かれないように、必死に隠した。


―――マイナス1点


 ほんとうは、誰かに気付いて欲しいくせに。気持ちとは裏腹の行動をとった。


―――マイナス1点


 雨に濡れた夕日は、びっくりするくらい美しかった。そして、絶望的なくらい、遠い存在だった。


―――今日は、合計何点でした? 


 はは……計算するのもめんどくさいや。いつも通り、心の奥底に押し込んでしまおう。溢れそうなこの感情を、心の奥底に溜め込もう。




 もう、それでいいや……





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