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3わん!

「いってきます」


 あいにくの雨。それでも、僕は今日も休むことなくランニングをする。これも、”遠吠え”と同じ様に、僕の大切な習慣の一つだ。


 多分、一番最初に走り始めたのは小学6年生の頃だったと思う。今思うと、当時の僕は溢れそうな感情を、無意識のうちに走ることで解消しようとしていたのだろう。


 とにかく、僕は走る。毎日欠かさず走る。雨の日も、風の日も、台風の日も、雪の日も。僕は走るのが好きな人間なんだと思う。それに、辛抱強く何かをコツコツとやるのが得意みたいだ。


「はぁ、はぁ……」


 ”走る”という行為は、すごく良い。僕の足が地面にぶつかるたびに、僕の心に溢れるエネルギーが空中に飛散していくような、そんな不思議な感覚に襲われる。そして、暗闇の中走り続けていると、いつの間にか僕は闇と同化し、足は地面から離れて、虚空を走り抜けている様な、浮遊感。


 それに僕は酔いしれる。


「……さてと」


 僕の家からだいたい30分くらい走ると、僕の住む町を一望できるちょっとした高台に到着する。僕はいつも、ここで”遠吠え”をする。


「ワオーーーーーン!!」


 今日は雨。だから僕は、いつもより少し大きめの声で吠えた。爽快だった。今日生まれた心のもやもやが、少し解消された気がした。


「さてと、帰ろうか」


 帰り道、僕は今日の出来事を思い出しながら走った。理想どおり振舞うことができなかった、ダメな自分の行動を、今一度思い返した。今日生まれた心のもやもやの原因を、何度も何度も後悔しながら、雨に打たれた。やっぱり、まだ叫び足りなかったと思った。今日は雨なのだから、もっとたくさん遠吠えして、心のもやもやを完全に消し去ってくれば良かったと後悔した。


「ただいま……」


 気がつくと家についていた。今日はもう、他にやることはない。だから、後はただ寝るだけ。明日という恐ろしい日を、待つだけ。


「…………」


 そう思うと、靴を脱いで家に入る気にはなれなかった。僕はきっと、明日も明後日も、この後悔を胸に抱きながら日々を過ごすことになるのかもしれない。そう思うと、背筋が震えるほど怖かった。


「……いってきます」


 だから僕は、もう一度、走りに行った。少しでもこの後悔を、心のもやもやを、消すために。この苦しみを、人じゃなくてもいい、木でも石でも雨粒でも、この世の万物のなんでもいいから! ……わかって欲しいから、僕はもう一度、遠吠えしようと思った。


”もしかしたら、本当にもしかしたらだけど……誰かに届くんじゃないだろうか?”


 そんな淡い希望。それだけが、僕の支えだった。



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