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メルヒェンランド  作者: 袋ラーメン☆好き男
魔法の国編 序
18/36

まとめてピッカーン

 ――ガンガラガン、ガラ、ガラガラリン。

 ――ガンガラガラリン、ガンガラガン。

「この際、祭りの国へむけて戦線を広げてみては」

「何を言ってる。ジュブナイルを完全に制圧するのが先だろう」

「ここはあえて内政に目をむけるというのも」

 本日は書記官として会議に参加している。

 シュー君たちとははなれ、大導師のすぐ近くの席だ。

 こないだはひどい目にあったが、今日は動物がいないので気持ち的には楽だ。半分だけ。ちなみに動物たちは、あれから、全部保護されはしたのだが、玉座の間がトラウマになったようで頑として入りたがらず、結局城外にある厩舎にて飼育されることになった。

 会議のため、玉座の間には長机が搬入され、大臣たちがその席を埋めている。先ほど楽になったのは半分だけといったが、原因は勿論これだ。大臣たちの背後を走りまわる術美と檻。術美が笑い声を上げながら逃げ、それを、手枷足枷をつけられ、さらに檻に閉じこめれた大概ガサツが、それでも檻を回転させながら追いかけている。シュー君、アパティ、術子がそれぞれ拘束魔法をかけているにも関わらず、ものともしていない。そもそもはこの男を軍略会議に出席させるためであって、拘束に関してはこれ以上どうにもならないので、この状態で放置されている。

 昨日、この男はティアラノ大導師の逆鱗にふれた。つまりあの後、即座にあれ刑執行の指示がくだされた。

 しかしながら、そもそもあれ刑とは、一生裸でいる魔法をかけられ放逐、という内容であり、そもそも白ブリーフ一枚のこの男は、全裸にされても何の反応も示さなかった。放逐も当然無意味。怒りに怒った大導師ティアラノは他にも様々な罰をためしたが、かんばしい結果は得られず、結局一番嫌がった会議への出席を強制させることになった。そして出来上がったのがこの状況。

 ――ガンガラガン、ガラ、ガラガラリン。

 ――ガンガラガラリン、ガンガラガン。

「ヤダー。あははは。ヤダー」

「ほうれ。ほうーれぇ」

「アクション大陸沖の制海権、制空権を事実上制圧しているのだ。ジュブナイルに関しては、焦る必要はない」

「魔力減少の理由が判明しない現状で、戦線の拡大は危険では」

 一応議論の下地となる情勢をひと通り説明してみる。知ってのとおり、メ界は、全体的に見ると『(笑)』の地形になっている。この右の括弧の南部エリアが、アクション大陸だ。メ界の主要国は、その半分ほどが、このアクション大陸から海を隔てた西、『夭』のなか、メルヒェン大陸に存在している。メルヒェン王直轄の王都などもここにある。先ほどから論点の一つに上がっている祭りの国は、アクション大陸のすぐ北に位置する孤島で、小国ながら北方東方の情勢の鍵をにぎる強国。観光国として非常に有名だが、外国民の出入国が激しい国の平和維持のため、自国民には厳しい兵役が課せられており、少数ながら精強な軍を保有している。また、高度な諜報機関をもつことも、公然の秘密となっている。

 先ほどから、議論は平行線をたどっている。出尽くした感がある。

 大導師ティアラノが、タブレットをいじりはじめた。元々やばい喉を前々日に叫んだことでさらにやばい状態にさせ、昨日その状態でふたたび叫んで完全につぶし、さらに極度にアルコールに弱いため二日酔いで、伝言衛兵に言葉を発するのも無理ということで、今日のティアラノの発言に関して、彼がタブレットに入力し、それが私の議事録ノートパソコンに表示されるのでそれを私が口頭で伝えるという非常にまわりくどい方式が採用されている。チャットしているみたいですごい嫌だ。

「大導師からのお言葉です」

 挙手して言った。即座に議論が止まった。

「シューイチ大佐、責任を果たして、と仰せです」

「えー」

 部屋の反対、壁際に立っているシュー君が、顔をしかめて情けない声を発した。母性をくすぐる。抱きしめてあげてもいい。……それはそれとして、昨日の出来事は、まあ軍組織的に当然のことながら、上官の監督責任となった。大概ガサツに関しては責任転嫁のきらいはあるが、ともかくも現時点では、大概ガサツの管理者はシュー君になっている。

「えー、えぇっと……」

 シュー君がおろおろとあたりを見まわしている。何やらさがしているようだ。そして、机上のあるものに目をつけた。机に近づく。そして、戦略地図上に配置された、兵士の姿を模した駒の一つを手にとった。術美を追いかけている檻ガサツに合わせて体のむきを変えながら、兵士駒を突きだし、プラプラさせる。

「ガー君! ほぉら、こんなのがあるよ。何だろうねこれ。格好いいね」

 ガサツの目が兵士駒をとらえた。

「ウオゥッ」

 檻が急停止し、シュー君へと方向転換した。速攻食いついた。

 ――ガンガラガン、ガラ、ガラガラリン。

 ――ガンガラガラリン、ガンガラガン。

 目が爛々と輝いている。シュー君の前で、ふたたび急停止した。シュー君が檻に兵士駒を差しいれる。ガサツ、より目になるほど駒に顔を近づけている。てかより目になってる。

「すっげぇ、すっげぇ精巧、何これ、めちゃ格好いい、すっげぇ何これ……」

「ほら、これをね、この地図の上にならべて……」

 地図にも興味津々だ。

 シュー君、アパティ、術子が、三人がかりで檻を机の前に横づけした。檻魔法をかけているアパティが、檻を倍ほどの高さに修正し、ガサツが立てるようにした。

「今ここね? ここが海で、これとこれが国で、戦う場所を決めるんだよ……」

 地図を睨みつけている。

 兵士駒をもったままいくつか逡巡したのち、ガサツは地図のほぼ中央――王都の上に駒を置いた。

 大臣たちから失笑がもれた。

「戦線を無視して王都を攻めるなど……」

「兵站線をどうとるつもりじゃ……」

「そんなに広げたら、祭りの国どころか、マーシャルアーツの国や、他のアクション大陸の小国からも攻め入れられるわ」

 大臣たちが口々に馬鹿にする。よくわからないが、ちょっと頭にきた。どうにかしろおっさん。

 デスクトップにメッセージがきた。

 ほー。

 挙手。

「王都かあ。最近守りに入った攻めるふりばっかりの意見が多くて、食傷気味だったから、朕、聞くだけきいてみたいなあ、と仰せです」

 大臣たちがだまりこんだ。

 シュー君が、おそるおそる、ガサツの顔を横からのぞきこむ。

「ガー君、そこからどうする……?」

 ガサツが、アクション大陸上に置かれていた、別の兵士駒をつかんだ。

「あっ、それは私の軍……」

「おぉ、援軍かな?」

 シュー君の表情が明るくなった。

 ガサツがもう片方の手で王都に置いた兵士駒をつかみ、王都の上で、駒同士をぶつけ合いはじめた。

「どーん、ガーン、ひゅるるるーガガーン」

 玉座の間に、しばしの沈黙がおとずれた。

 シュー君が手をたたき、大臣たちを見まわした。

「な、内紛と見せかける作戦です!」

 デスクトップにメッセージがきた。短ッ。こんなの送ってくんなボケ。挙手。

「なるほど、と仰せ……」

「ガーン!」

 バン、と小さな爆発音がした。

 視線を上げきる前に、視界の正面を、発光する小さな物体が高速で横ぎった。

 ティアラノの顔面を直撃。

 宙を舞って、机上に転がる。

 ティアラノが泡を吹いて床に倒れこんだ。

 おい何だこれ。

 勘弁してくれ。

 腰を浮かせる。そして異変に気づいた。誰も声を上げていない。誰も駆けよって、立ち上がらず……。

 室内のイマジン。

 蜂の巣をつついたように、浮動イマジンが室内をはねまわっている。

 ティアラノから、大臣たちを振りかえった。

 檻のまわりに大臣たちが集まっている。

 背中しか見えない。

 何をやってる。立ちあがって歩みよった。地図を見ているようだ。輪の隙間からのぞき込む。駒が光っているのが見えた。こ……

 全部だった。

 地図が動いていた。

 目をうたがった。すべて光っている。光りながら、駒だけではなく、海、波のゆらめき、山が盛りあがり、火山がマグマや灰を吹き、兵士駒は、光るだけでなく剣を振りまわし、帆船駒が砲撃を放っている。何だこれは。魔力は感じない。気配をさぐるが、魔力はない。魔法ではない。混乱が、思考を取りかこんだ。一つだけ、思考に浮かびあがってきた。とすると、これは。

「イ、イマジン、オーバーフロー」

 誰かが言った。

「なんという……」

「生のあるうちにイマジン・オーバーフローを見られるとは……」

「リアルとは聞いていたが……」

「ガガガガ、ドドドド」

 ちなみに兵士駒はもうぐちゃぐちゃで、ガサツは光る手で、ただ駒同士をぶつけあったり、追いかけさせたりしているだけだった。

「イマジンだけで、自然減少を再現するとは……」

「しかも、こんなに緻密に……」

「なんという想像力」

「妄想力」

「貴殿、名はなんと申した」

「体内イマジンと、浮動イマジンとの接続は?」

「コツを! 是非コツをご教授……」

「サインくれサイン」

「抱いてくれ! もういっそのこと抱いてくれ!」

 そこまで言われて、ようやく自分がほめられていることに気づいたガサツが、大臣たちを見まわしながら、頬を赤らめた。

「あそう? そう……。ウフフ」

「他は? 他の現象は何ができる?」

「他? え……」

 ガサツから笑顔が消えた。しばらく思案顔だったが、だんだん落ちこみ、肩を落とし、うなだれはじめた。

それに呼応するように、光が弱まり、地図上の物体の動きも小さくなりはじめた。

「ああ! オーバーフローが……」

「何か……そうだ、何か楽しいこと! ガー君、楽しいことを思い浮かべて!」

「楽しいこと……」

 ガサツは思案顔で、斜め上を見上げている。口がひらいている。そして目に力がもどった。何か思いついたか。

「うれうちゃん……」

「うれうちゃん? 何だ、彼女か?」

「ウフフ。ワイフ」

「じゃあそのうれうちゃんとやらを思い浮かべて」

 ガサツが真顔になり、目をつぶった。そしてすぐに、目をつぶったまま、トロットロのにやけ顔になった。

「うれうちゃん……うれうちゃんウフフフ。しなやか……すべすべ……」

 光がもどりはじめ、地図も活発さを取りもどした。

「すべすべってお前……」

「エロスじゃないちょっと」

「やるう、こいつ」

 光に、紫がまじりはじめた。

 体に、やや負荷を感じる。

 これは、脱力系のマイナスか。

「おや? おとなしい子なのかな? メンタルマイナスが……」

「うれーう……」

「ちょっと、あれ、メンタルマイナス濃くない?」

 光がさらに強くなっている。ガサツの、口や、耳、鼻、目からも光がもれはじめている。そして同時に、紫のまじる割合も明らかにあがりはじめた。

「うれーう、ちゃーん……」

「ちょっとまずいだろこれ! マイナス値尋常じゃない……!」

 シュー君がガサツに取りつく。

「ガー君? もういいんだって。十分だって。そんなに強く想……」

「うれうーちゃーん!」

「あ、これちょっと、あれだ……」


「『アンタッチャブル(応相談)』」


 魔力。

 部屋の端。

 銀色のドーム。

 アパティのアンタッチャブル。

 アパティ。右手でアンタッチャブルを発動し、左手で、術子の軍服の後ろ襟をつかんでいる。防壁ドーム型のアンタッチャブルのなかに投げこんだ。シュー君。大臣の輪のなかにいた術代。順番に後ろ襟をつかんで投げこんでいく。

 考える前に駆けだしていた。

「ちょ、私もー!」


「うれーうちゃーん!」


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