謁見キャンキャキャン
――かーかーかー。ポッポポ。
――かーかーかーかー。ポッポポポ。
「アパチア君、大導師様が名前聞いてきてるんだけど」
「アパチア・タニンニキョーミナイスタ」
「君そんなファミリーネームだったんだ。性格そのまんまだね……そうじゃなくて、あのおじさんの名前。動物に夢中で全然答えてくれないんだよ」
「大概ガサツ」
紫軍服着たぁ、天然パーマのいかにも頼りないってカンジの草系イケメンシュー君がぁ、また動物たち掻きわけて部屋を横断してぇ、紫のアホみたいに豪華な法衣着たぁ、法衣着てアホみたいな指輪全部の指につけたぁ、頬杖のつき方がなんか変な、しょぼい小さいおっさんの大導師のところへむかってる。
……つーわけで、Hi! 術子だょ。
今玉座の間。謁見中。マジウケる。そして動物いすぎandくさすぎ。意味不明。まぁでも、くさすぎだけどぉ、そんなにキライじゃないんだよね動物。実は。つーわけで、こっちも紫軍服、銀のロングにお面みたいに無表情貼りつけた絶対少女アパティーが人艦につれてきたおっさんがなんかVIPだったらしくてぇ、そんでなんか途中色々あって今ココ。
アパティーは玉間初めてみたいで、ひたすらなんか部屋物色してる。ボウズ頭に白ブリーフ一枚の露出魔系のアホのおっさんだけどぉ、人艦にきたときから意気投合してる術代と、部屋の中央あたりでひたすら動物とたわむれてる。そして動物嫌いの術美は、檻魔法を自分にかけて、部屋のはしっこでタブレットでメットしてる。メットオークション。多分。いつもだから。
――ぶーぶーぶー。ニャーニャチュー。
――けんけんぴよぴよ、テッペンカケタカ。
大導師と話したシュー君が、また動物を掻きわけ、てかなんだょこの動物。何度でも突っこむょ。てかなんでこいつらしゃべんないの? しゃべんない魔法かかってんの? 掻きわけ、おっさんのとこ行った。
「ここ地球じゃないの!?」
おっさんが叫んだ。超ウケる。おっさん目丸くして、シュー君と術代交互に見てる。
「すっげぇ」
けどそれだけ言ってまた動物にもどった。リアクション薄っ。あー、まぁでも、やっぱぁリアルかぁ。そんな気ぃしてた。マジで。
「わかんない」
シュー君が色々聞いてるけど、わかんないばっか言ってる。あっ、あきらめた。またアパティーんとこむかってる。アパティーがガラスケース見てる。なんか古い本が入ったケース。魔導書? ケースすごい見てる。てか開けようとしてる。大導師がなんか言ってる。全然聞こえない。声小さいんだよね。なんか喉元々やばいらしくて、まあ元々系はしょうがないんだけど。マジで。しかも何か最近めずらしく叫んだらしくて、さらにやばいらしい。てか動きもちっさ。動きは関係なくない? けど、ほら、普段ほぼ置き物レベルで動かないから、あれ多分、相当あせってるょ。そう、普段は衛兵がいて、衛兵がいたら自分で動かないでなんか指示だしてんだろうけど、玉間に入るときに、おっさん拘束しようとしてぶっ飛ばされて、全員医務室行ってっからいない。
アタシはため息をついて、動物たちを掻きわけ歩きだした。
こう見えて、アタシけっこう真面目だから……。
――ヒヒーンヒーン。ヒンヒヒーン。
――ヒヒーン。ヒヒーン。ボホッ? ブルル……。
「あっ、術子ー。大導師のところにある牛乳とってきてくれるー? ガー君が牛乳あげたいんだってー」
おっさんと術代の脇通りすぎようとしたら、空気読めない術代がなんか頼んできた。
「いや、アタシィ、ちょっとアレ止めぇ……」
てかケース開けおえてんだけど。
てか二人で、止めてたシュー君まで一緒に魔導書のぞきこんでんだけど。
「うおおこれ、とんでもないよアパチア君。見てこれ。こんな苦労してたんだ魔法作るのって」
なんかがっつりめなんだけど……。しかもぉ、アパティーがそんなに嫌がってないっぽい。やぶさかでないっぽい。なんだよ……。
どうでもよくなったので、牛乳にむかう。
すげー見てる。大導師がすげーアタシ見てる。すげぇ目で訴えかけてきてる。
「とりあえず……お借りします……」
すげーおとしやかな口調を発した。牛乳パックとグラスをつかむ。まぁ、社長みたいなもんだからね相手。こうなるよね。自然。口調。
「どうにかして……」
聞こえちゃった。言われちゃった。聞こえちゃったからしょうがない……。
「シュー君! ちょっとシュー! それやめて! 本読むの! そんで大導師様が話すすめろって!」
動物がすごいむらがってきた。
両腕を上にあげて移動。
おっさんand術代までたどり着いたが、無理。跳ねまわってる。軍服に前足かけまくってる。そしてそんなアタシを見て二人ともすげー笑ってる。思うさま笑ってる。
「とまれ! てか爪たてんな! やばいよ術代、無理だよこれ。どうやってあげる気?」
唐突に、魔力の広がりがおきた。
すぐ近く。
少量だけど、強烈に濃い魔力。
動物がちょっとおとなしくなってる。おっさんの両耳が光ってる。想像ついた。アパティー……片手をこっちに突きだしてる。他には何もおきない。やっぱり補聴魔法だな。おっさんの聴力サポートは完成したが、例によって飛散魔力がまだ残留してるんで、頂いて、アタシも補聴魔をかけることにした。
うーん……うーん……。
補聴……うーん……。
サポート……うーん……。
あっ。
パックが落ちた。
「きゃー!」
おっさん頭に直撃し、おっさんに全部かかった。真っ白。うおおッ。動物が、動物、食われてる。食われてはいない。動物でおっさんが見えない。すげーむらがってる。
「ごめんおっさん!」
「やだー! ガー君! 大丈夫ガー君!」
「うきゃうきゃきゃ」
笑ってる……。楽しそうだからいっか……。まあ、術代も笑ってっし……。
《ねえそれ触んないで……お願いだから……》
早速大導師の声が入ってきた。大導師、シュー君とアパティーは補聴魔やってないから聞こえないょ。
《絶対あとで処分するからね……衛兵帰ってきたら……。あの、大概さん朕はね……ジュブナイル軍をね……一体どういう意図でもって……つまり、こうなんて言うか……》
「うきゃきゃ」
《つまり朕はね……あなたが敵なのか味方なのか……》
「うきゃきゃすぁう!」
ため息をついた。
それで思っきり息を吸いこむ。
「おっさん! ごめんね! とりあえず牛乳はごめん! それで、あー、人魚とか、ブロックとかおもちゃとか小鳥とか、ぶっ飛ばしたの何でかって聞いてる! 大導……あー、あっちの小さいおっさんが聞いてる!」
突如、おっさんが飛びおきた。
動物が鳴き声、吠え声をあげて一斉に散る。
うおおッ。
マジビビる。
一応かまえた。
魔力魔力……イマジン確保、シュー君もアパティーもかまえてる。術代はすわりこんでる。
おっさんは飛びおきた格好のまま、けわしい顔で、斜め上を見つめている。
「多分、なんだけど……」
しゃべりだした。
攻撃じゃねえのか。
よかったマジビビったぁ。
「多分なんだけど、あのときは、パーンっていう気持ちだったと思う」
……何?
アホだこいつ。
やべえ。
知ってたけど。
やべえ。
――キャンキャキャン。わんわーん。
――ケンケンガーガー、わん……ガフッ。ガフ、ン。
大導師を、なんとなく見た。
変な頬杖ついたまま動いてない。おっさんを見つめてる。
《朕はね……条件しだいでは……我が国の幹部に引……》
「うきゃきゃあ」
振りむくと、おっさんまた床で動物に埋もれてた。
そのアホの姿を、しばらく見つめる。
「くすぐったい! うきゃきゃあ!」
ため息をついた。
「条件次第で、幹部にしてもいいってさ! おっさん! 聞いてる!? なんか条件ある!?」
なんで補聴魔かかってんのに通訳しなきゃなんないの。マジ意味わかんない。こいつ、果たして状況を理解しているのだろうか。
そして突如、二度目の飛びおきをかました。
鳴き声、吠え声をあげて、動物がふたたび散る。
一瞬体が硬直したが、イマジンは特に集めない。
シュー君もアパティーも、ちょっと振りむいたけどすぐ魔導書読みにもどった。
「家族をさがしてる! 主にうれうちゃんをさがしてる!」
理解してんのかょ!
おまえじゃあちゃんとしろょ!
大導師を見る。
こいつはこいつで全く動いていない。
アホばっかりか。
《わかった……さがしたげるけど……先に、会議で手腕を見せてもらってからにするから……》
――モーモーモー。ホーロホロ。
――モーモーモーモー。ホーギャッ! ギャギャ! バサバサバサ……。
「コラー! 会議はつまんないからやだ! コラー!」
よくわからんけど、悲鳴をあげて飛ぶフクロウを追いかけはじめた。動物逃げる逃げる。牛とかやぎとかの大型のは、なんかたがいにちょっとずつよけてゆずりあう。フクロウすごい逃げてる。
《……じゃあ残念だけど終わり。もうやだ。そこのなんとかっていう大佐……ああ……いや……そっちの……》
アタシを見てきた。
《お姉ちゃん……連れだしてもうこの人……》
お姉ちゃんて……え……やなんだけど……。
あっ……。
「ちょっとおっさん! 前見て前!」
《早く……》
無理……それより、両手をあげてフクロウ見あげて走るおっさんが、シュー君に突っこんだ。シュー君にぶつかられたアパティーが魔導書を落とす。
魔導書動物たちのなかへ……。
《ああ……》
踏まれて……るだろう。多分がっつり……いや、ちょっと見えた。かんでる。ヤギがはむはむしてる。なんでヤギ近くにいんだょ……。
《誰か……ちょっと誰か……》
「コラァ!」
おお!
アパティーがどなった! 初めてみた!
表情はあんまり変わってない……あれ? 手……
ああこれまずい。
急激な魔力展開。
「アパティー!」
「『アンタッチャブル(初代大導師手記)』」
動物たちが浮きあがった。
――わんわん! きゃんきゃん! モーヒンコンコーン!
――にゃーぶぶー! チューメメ―!
――テッペンカケタカ!
浮きあがって、回りはじめた。
「なにこれ! すっげえ! なにこれ!」
プラスおっさん。
「アパチア君! ちょっと! アパ痛ッ!」
早くなっていく。
魔導書が見えた。
ほぼカバーonly化してる……。
「うわー。アパティーホントにすごいんだねー」
早々に魔導書の隣に移動してる術代は、そのまますわってる。アンタッチャブルの対象の隣、安全圏。
檻のなかの術美も、さすがにメットをやめて部屋の様子を見つめている。
周囲の動物も引きずられはじめた。まだ渦が拡大してる。怒りすぎ。
渦がさらに広がる。
危険すぎる。腕で顔をおおいながら、壁際まで下がった。
大導師……変わってない。同じ姿勢。さぁすが。大導師の周囲で火花が散っている。見えないが防壁っぽい。風、物、動物すべてが大導師の周囲で弾かれている。
そして一つだけ巨大な物体……おっさんが、
「ちょっ……やだッ! やだぁー!」
術美の檻を直撃した。
半壊した格子の隙間へ動物が突っこむ。
「やだ、ホント、マジ無理、やだって! やだ! 嫌ッ! マジ無理!」
「『アルコール魔法』」
バァカ術美、よりによって一番どうしようもないの発動しやがった!
本能か。それがお前の本能か。
「嫌ー!」
悲鳴を上げながら柵を飛びこえ、術美は部屋を飛びだしてった。アルコール臭。くさい。獣臭とまじるとキモい。よくない。てかこれなんだょ。なんだこれ。なんだこの状況。いや、ちょっとおさまり気味? おさまってきた? ああ、弱まってる。ようやく気がすんだかアパティー。天井近くを部屋めいっぱいでまわっていた動物たちが……
――がーががぴょぴょぴょぴょ! コケー! ブボウッ!
――ポッホー! ピーケン……ピーケン!
床につくなり叫びたおし走りたおしはじめた。
《あ……あ!》
そして柵に突っこみはじめた。もうなりふりかまわず突っこんでる。なんだょ、酔ってんのか? あー酔ってんだ。だからか。全動物が突っこめばひとりたまりもない。柵は見る間にひしゃぎ、そして倒れた。
《あー……! やだちょっと……! やだあ……》
そして術美が開けたままのドアから全部出てった。
しばらく動物たちの出ていったドアを見つめ、そんで、とりあえずシュー君、アパティー、術代……あれ? 術代とおっさんがいない。あ、いたかも。動物たちに巻きこまれて出てってた気がする……。まぁいいや。とにかく残ったメンツ――シュー君、アパティー、大導師――と順番に顔をあわせた。
全員無表情。
アパティーが無言でカバーだけ魔導書を拾い、ケースにもどした。そしてシュー君がうやうやしい手つきで、そこにガラスケースをのせた。そして、二人そろって大導師のほうをむき、一礼し、二人そろって……ちょっとぉ待ってぇ! アタシ一人じゃんか! ちょっとぉ!
《気持ちわるい……うぅ……》
アルコールが効いたか……。酒、あぁ、まぁダメなんだろぉな酒。牛乳ばっかり飲んでるもんな……。
気持ちわるいと言いながらうつむいているので、その隙をねらって退出した。