第11話「勇者追放」
呼び出しは、突然だった。
ルークスから戻った翌朝、王城から使者が来た。
「バルド騎士団長が、天城勇者にお目にかかりたいと申しております。本日、午後の第三刻に」
使者の顔は無表情だった。でも、俺の認知可視化が映す。
——「面倒な役目を押し付けられた」という気まずさ。
これは、ただの呼び出しではない。
俺は「わかった」と答えた。
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マリアは昨日の消耗から回復していなかった。それでも「一緒に行く」と言った。
「来なくていい」
「でも——」
「マリア。これは俺とバルドの話だ」
マリアが俺を見た。
「……追放されると思いますか」
俺は少し考えた。
「可能性はある」
マリアの顔が曇った。
「それでも……行くんですか」
「行く。断る理由がない」
「追放されたくないんですか」
「追放されたくない、という気持ちはある。でも、それを避けるために自分の行動を変えるつもりはない」
マリアが何か言おうとして、止まった。
リリアが部屋の入り口から、杖をついて出てきた。まだ完全には回復していないが、立てるようにはなっていた。
「……聞いてた」リリアが言った。「天城、一人で行くの?」
「そうだ」
「私も行く」
「来なくていい」
「来る」
俺は少し困った。
リリアの目が、いつもと違った。怒りではなく——心配だった。
「……わかった。ただ、何があっても余計なことは言うな」
「わかった」
セレスも立ち上がった。
「私も」
「セレスまで」
「……全員で行く方が、抑止力になるかもしれない」セレスが平坦な声で言った。「論理的な判断です」
俺は諦めた。
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謁見の間は、前回と違う雰囲気だった。
バルドだけでなく、王国の重臣が三人、騎士団の幹部が二人。そして——バルドの隣に、女性の騎士が立っていた。
副騎士団長。
リリアの姉、エリアだ。
俺はちらりとリリアを見た。リリアは前を向いたまま、表情を変えなかった。でも、手が微かに握られていた。
バルドが口を開いた。
「天城勇者。この場に集まっていただいたのは、正式な通達のためだ」
俺は頷いた。
「君をこれまで監視対象として観察してきた。その結果を踏まえ、王国として判断を下す」
重臣の一人が書状を広げた。
「天城恒一勇者は、戦闘への消極的姿勢、王国の方針への抵抗、および王国の安全保障に関して非協力的と判断されました。よって——勇者の称号を一時停止し、王都からの退去を命じます」
沈黙。
マリアが息を呑む音がした。
バルドが続けた。
「これは処罰ではない。君のやり方では、この戦争は終わらない。別の勇者を召喚することも検討している」
俺は、バルドの認知を見た。
——確信。
——でも、その奥に……迷い。
バルドは揺れている。完全には確信できていない。でも、組織として判断を下さなければならない立場にある。
俺はその迷いを指摘しなかった。
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「異議はあるか」バルドが言った。
リリアが一歩前に出た。
「あります」
「リリア」俺が静かに言った。
「……でも」
「リリア。これはバルド殿と俺の話だ。君の課題じゃない」
リリアが止まった。
俺はバルドを見た。
「異議はありません」
重臣が書状を畳んだ。
「三日以内に王都から退去するように。荷物の整理と行き先の決定は、その間に行うこと」
「わかりました」
俺は頭を下げた。
それだけだった。
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廊下に出ると、マリアが泣いていた。声を立てずに、俯いて。
リリアは壁を睨んでいた。
セレスは無表情だったが、目の縁が赤かった。
「……なんで、異議を言わなかったの」リリアが言った。声が震えていた。
「言っても変わらなかった」
「変わるかどうかは、やってみなければわからないって、あなたが言ったんじゃないの」
俺は少し驚いた。自分の言葉を返されるとは。
「そうだな」
「なら——」
「リリア。バルドの判断は、彼の課題だ。俺はそれを変えようとしない。俺にできることは、俺の行動だけだ」
「……それって、諦めてるってこと?」
「違う。受け入れることと、諦めることは違う」
リリアが唇を噛んだ。
マリアが顔を上げた。目が赤い。
「……私たちは、どうすれば」
「それは君たちが決めることだ」
「一緒に来てはいけないんですか」
俺は少し考えた。
「それは君たちの選択だ。ただ——」
俺は三人を見た。
「俺についてくることを、理由にしないでほしい。行くなら、自分が行きたいから行く。残るなら、自分が残りたいから残る。それだけでいい」
三人が黙った。
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その日の夕方、エリアが宿を訪ねてきた。
リリアは部屋にいた。
エリアは俺に会いに来た。
応接の席で、エリアは真っ直ぐに俺を見た。リリアとは違う色の目だが、真摯な光は似ていた。
「追放の件、申し訳ない」
「エリア副団長が謝ることではない」
「……妹が世話になった」
俺は少し驚いた。
「リリアのことを言っているのか」
「あの子は頑固で、素直じゃなくて……でも、最近少し変わった。天城勇者と行動してから」
俺は答えなかった。
「どうやったんですか」
「何もしていない。リリアが自分で変わった」
エリアが少し目を細めた。
「……あなたは、面白い人だ」
「そうかもしれない」
「行き先は決まっているのか」
「東の村を考えている。魔物の出没が続いていると聞いた」
「……王国の管轄外だ」
「そうだ」
エリアは少し黙った。
「……追いかけてはいけないか、リリアが」
「それは、リリアが決めることだ」
エリアが立ち上がった。
「あなたに一つだけ言っていいか」
「どうぞ」
「バルドは……迷っている。あなたのやり方が間違っていると、完全には確信できていない。だから、焦って追放した」
俺は静かに頷いた。
「その迷いが、いつか正直になれることを祈っている」
エリアは頭を下げて、出ていった。
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翌朝、三人が荷物を持って食堂に降りてきた。
リリアが先に言った。
「一緒に行く。理由は——天城と行きたいから」
セレスが続けた。
「……私も。行き先に、興味がある」
マリアが最後に言った。
「私は……まだ考え中です。でも、今日は一緒に出発します」
俺は頷いた。
「わかった」
それ以上は言わなかった。
ただ、食堂の窓から、王都の空を見た。
青かった。
離れることは、終わりではない。
関係は、場所ではなく、選択で続く。
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「離れるのも関係だ」
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