02_魔王、高齢者福祉を充実させる
■豊かな村との出会い
前の土地での「教育改革」によって、結果的に村を壊滅的な状態へ追い込んでしまった魔王一行。
しかし、魔王には密かな思いがあった。
――「今度こそ、ちゃんと良い組織運営を成功させて、部下どもを見返してやりたい」――。
部下たちには“人間を滅ぼす”と言い続けているし、実際にその大目標を捨てるつもりはない。
とはいえ、かつての“働き方改革”の失敗をしつこくバカにされている魔王としては、「どうにか成功させてやりたい」という下心が拭えないのだ。
そんな内心を隠しつつ旅を続けていると、広い農地と活気ある商店が立ち並ぶ“豊かな村”に出くわした。
作物はよく育ち、商売も盛ん。村長や役人も有能で、村全体が好循環を保っているように見える。
「魔王様、ここすごいですよ! もう何も手を加えなくても勝手に大発展しそうじゃないですか?」
「こういう村はそのままでも伸びますし、手を出す必要ないかもですねぇ」
――部下たちはわざとそう言って、魔王の出方をうかがう。
内心で(ここなら組織運営を成功させられるかもしれない!)と色めき立つ魔王は、意を決して宣言した。
『放っておいても伸びる村だというのなら、私の手でさらに豊かにしてやろうではないか。そしてその成功例を元に人間界を支配したのち、滅ぼしてやるのだ!』
部下たちは魔王の言葉に「どうせ無理だろうなー」とは口に出さずに笑顔で拍手をした。
■魔王の新たな方針――「高齢者福祉を徹底すれば、皆がもっとハッピーに!」
魔王たちは村長と面会し、さらに村の情報を集める。
すると、この村は豊かなだけでなく、若者の就労率も高く、住民同士の助け合い精神も強いことがわかった。
医療や公共設備も十分に整っているが、高齢者向けの施策はまだあまり特筆する点がないという。
そこに魔王は目をつける。
『この村はすでに資金が潤沢にある。――ならばこそ、高齢者福祉をもっと充実させるべきだ!
ご老人が長生きすれば、その経験や知恵を若者に引き継げる。組織としてもさらなる発展を見込めるはず。』
村長や役人たちは、その案に大いに賛同する。
「確かに高齢者をしっかり支援すれば、伝統技術や文化がより継承されていく。これからの村の発展にも役立つだろう」
――こうして魔王の提案は勢いよく採用されることになった。
■充実する福祉――最初は順調な滑り出し
魔王の指揮のもと、高齢者福祉のさらなる強化が始まる。
・無料診療・介護サービスの拡大
・年金の仕組導入
・村独自の“健康増進プログラム”の導入
・魔王開発の簡易治癒魔法の併用
豊かな村だけあって、最初はスムーズに体制が整い、ご老人たちは村にさらなる愛着を持つようになる。
「魔王様、ありがとう! これで我々も元気に働ける!」と感謝され、魔王は思わず顔を綻ばせる。
(ふはは、どうだ! 今度こそ私が“良い組織運営”を成功させる瞬間が来たぞ。部下どもも、もう文句は言えまい……!)
だが、その後ろで部下たちは、魔王の裏表の気持ちなどお見通しだと言わんばかりに、楽しそうに目配せをしていた。
■若者の負担増と財政圧迫
高齢者が元気になるにつれ、彼らが利用する医療や介護の費用も右肩上がりに増えていく。
豊かな村だとはいえ、際限なく資金が湧いてくるわけではない。
さらには、高齢者に手厚い支援をするための税金が、若者の負担となってのしかかり始める。
「魔王様、この村、当初の想定よりも福祉費がかさんでいるみたいですよ?」
「若者たちが『こんなに税金が上がるなんて……』と愚痴をこぼし始めたらしいです」
部下たちの声に、魔王は少し焦りを見せる。
『ま、まだ大丈夫だ……。村には産業もあるし、ちゃんと運用すれば今のところ何とかなるはず……。』
――そう信じたい魔王。だが、既に“手厚すぎる福祉”は村の財政を圧迫し始めていた。
■老齢化の加速と保守化する村
治癒魔法のおかげもあって、高齢者の健康寿命はさらに延びる。
一見すると良いことだが、結果として村の人口比率のなかで高齢者の割合が急激に増大。
若者が新しい作物や事業を始めようとすると、「わしらの時代のやり方と違う!」と強硬に反対が起こるようになる。
「新しい挑戦をすると失敗するかもしれない、リスクは負いたくない……」
――高齢者層の意見が強まるにつれ、村の気風は保守的になり、若者のやる気は削がれていく。
「魔王様、なかなか組織が伸びませんねぇ。せっかく元が豊かなのに……」
「でも高齢者たちはみんな魔王様に感謝してますよ。“魔王様のおかげで楽に暮らせる”って」
部下たちはあくまで冷静に状況を伝えるが、そのうち「どうせ今回も崩壊するんだろうな」と心のどこかで期待しているかのようだ。
■若者の流出と衰退の足音
さらに税負担が増すと、「こんなに働かされるなら、もっと自由に稼げる都会へ行く」と若者たちが次々に村を離れる。
残されるのは高齢者ばかりとなり、ますます保守的になっていく。
村は目に見えないペースで衰退の道を歩み始めた。
数年が経つころには、観光客も減少し、かつての豊かさは見る影もなくなる。
医療や介護サービスを維持しようにも、若者の納税が足りずに予算が底をつきかけている。
村のあちこちで空き家が目立ち始め、「ここまで追い込まれるとは……」と村長も頭を抱えていた。
■感謝されながら崩壊していく現実
「魔王様、本当にありがとうございました。あなたの施策で、高齢者が大事にされる村になりました……」
――村長や老人たちは、口をそろえて魔王を褒めたたえる。
しかし同時に、村の未来を担う若者はおらず、財政も傾き、外からの商人も寄りつかない。
結局、村はじわじわと活力を失い、死に体のような状態となってしまった。
魔王は荒れ果て始めた商店街を見ながら、もどかしげに拳を握る。
『……結局、また私の改革が“結果的に”組織を滅ぼしてしまったというのか。
あんなに豊かだった村が、なぜこんなに短期間で崩れ去るんだ……。』
部下たちはそんな魔王を横目に、「でも人間社会を弱体化させたのは事実ですから、ある意味成功ですね~」と軽い調子で言う。
魔王自身も大目標として“人間の滅亡”を掲げている以上、この状況を一概に否定はできない。
だが――
■次こそは……
魔王は内心で大きく嘆息する。
本来はここで立派に組織運営を成し遂げ、部下に「どうだ、見たか!」と胸を張りたかったのに、またしても人間組織の破滅を招いてしまった。
とはいえ、滅亡に向けて人間社会を弱らせるという“建前上の使命”は着実に果たしているわけだ。
『……くっ。私は別に間違ったことをしたつもりはない……。
こうなったのは人間どもの脆さが原因だ。――まあそれはそれとして、次だ、次。
絶対に今度こそ、ちゃんと組織を発展させてみせる……!』
感謝されつつも崩れゆく村をあとにし、魔王はさらに大きな街を目指して歩み出す。
後ろをついていく部下たちは、そんな魔王の背中を見つめて微笑む。
(続く)




