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魔王の善行は人類を滅ぼす  作者: 行ける選挙には全部行った
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01_魔王、田舎の村へ潜入する

数日後、魔王たちは辺境の小さな村にたどり着いた。


表向きは魔物に家を焼かれ、行き場を失った学者とその弟子を装い、一軒の空き家を借りることに成功する。

村人たちは皆、心優しく温厚で、見知らぬ者に対しても親切だった。


「こんな村に学者先生が来てくれるなんてありがたいねぇ」

「こんな小さい村ですけど、なんでもいるものは言ってくださいねぇ」


魔王が想定していた“人間の醜さ”とはまるでかけ離れた光景だ。


『……こ、これは罠か? 人間がここまで善意にあふれているなど…何か裏があるのでは?』

魔王はまだ疑心暗鬼のまま。


「いやー、普通にいい人たちですよね。どうします? ここで何か企んでも、すぐバレそうですよ?」

「村が優しすぎて、下手に暗躍すると目立ちそうっす。」


『私に任せろ、考えがある。人間社会をボロボロするには、まず発展させる方法を実践した上で、その反対をすればいいんだ。だからまずはこの村を発展させるぞ!』

魔王としてはカッコいい決め台詞のつもりだったが、部下たちは“また魔王がしょうもないこと考えてるな”くらいとしか考えてなかった。


「でも魔王様ぁ、ここ最近、この村もずいぶんと活気がなくなっちゃっているみたいですよ」

「若者たちは先が見えないって嘆いてるらしいっす。どうやったら村を盛り上げられますかねぇ?」


そう言いながら、二人の部下はそれぞれ魔王の顔をうかがった。

もともと、この田舎の小さな村は農作物の取引をするだけで細々と暮らしていたが、近年は気候の変動や都市部への人口流出などもあって、どんどん活気を失っていた。


『ふむ、確かにこう荒廃した村を目の当たりにすると、手を打たずにはいられんな。

 人間どもを――いや、この村を発展させてやることで“より良い組織”に作り替えるのだ!』


魔王はいつになく真剣な眼差しを向けると、拳を握りしめた。

彼は常に「組織を良くする」ことに情熱を燃やしており、魔王軍時代も“改革”と称してさまざまな政策を打ち出した(結果はともかく)。

今回も同様に、部下たちの問いに全力で応えようと、早速アイデアを練り始める。


「いやぁ、魔王様のアイデアならきっと村は大発展しちゃいますよね!」

「魔王様、今度こそ成功間違いなしですよね。なにしろ魔王様の“改革力”には定評がありますから!」


――部下たちはわざとらしいほど魔王を煽る。

もちろん、これまでの実績から言って、魔王の作るシステムは人間社会にとって“微妙”な影響を及ぼすことは目に見えている。

だからこそ彼らは、内心「どうせ人間にとってろくでもない結末になる」とわかっているので、あえて魔王を気持ちよくアイデア提案へと導いていた。



■教育とインフラ整備で村を発展させろ!


『いいか、お前たち。村がこのまま衰退するのは“教育”が足りないからだ。

知識の不足は、人間の発展を停滞させる最大の要因。――であれば、私がその教育システムを創り上げればよい!』


そう言うと魔王は、町から離れた小さな村にもかかわらず、“学校”を整備する構想を語り始めた。

ただ建物を作るだけではなく、村の道路を整え、行き来しやすい環境を作る。外から講師を呼べるように経済面の下地も整備する。

そのための資金調達として、新しい商売を興し、村特産の作物をブランド化して売り出す――。


「へえー、なるほど。これなら子どもや若者たちがきちんと学べるわけですね」

「村の学力を底上げして、さらにはよその村からも人を呼び込み、経済も回しちゃおうってことっすね!」


『そうだ。村の人間が“豊かに暮らせる”仕組みを用意し、彼らに新たな希望を与えてやるのだ。

 今まではただ畑を耕すだけだった若者も、学びによって様々な能力を身につけられるであろう!』


魔王は胸を張って誇らしげに語る。

もともと魔王軍時代に“働き方改革”や“評価制度”などを取り入れていた経験があるだけに、そうしたノウハウの一端をここで生かす心づもりのようだ。


また、力を失ったとはいえ魔王は魔王。

多少の魔法と力の強さ、そしてなによりカリスマ性の高さで村の人たちからの人望を集めていった。


■村に始まる大改革


魔王の計画通り、まずは簡易的な学校を建設し、村の子どもから大人まで希望者は誰でも学べるようにした。

読み書きや算術に加え、商売や農業の知識を効率的に身につけるカリキュラムを作成。

さらに外部から優秀な講師を招くため、村で取れる特産物を売り出し資金を確保――。


するとどうだろう、今まで行き場のなかった若者たちが次々と学校で学び、成績優秀な者は都市の商人や学者に認められ、より大きな街へとスカウトされるようになる。

村の生活基盤も整えられ、外部との往来が盛んになったことで、村は一時的に大きな活気に包まれた。


『ふはははは、見ろ! 私の導入した教育システムが村を変えているではないか!

 これで人間どもも、私の改革を有り難がるだろう。素晴らしいことだな!』


魔王は満足気だ。

実際、村長をはじめとする村人たちも魔王に頭が上がらないほど感謝し、「こんな素晴らしいシステムを教えてくれてありがとう」と口々に礼を述べる。

その姿はまさに救世主と呼ぶにふさわしい。




しかし、成功の裏側から忍び寄る問題が出てきた。

村の『空洞化』である。




「魔王様、確かに教育によって村人たちのレベルは上がりましたね~」

「でも、若者たちがこぞって都会に出て行ってるみたいですよ。大丈夫でしょうか?」


部下が笑いを含んだ声で話す。魔王は初め、やや得意気に答えた。


『心配ない。村で身につけた知識を持って外へ飛び立つとは、素晴らしいことではないか。

 いずれはその知恵をもって村に還元してくれるであろう。村に良い循環がもたらされるはずだ!』


しかし、現実はそう甘くない。

外の世界で成功した若者たちは、より刺激的で豊かな生活を手に入れ、そのまま都市に根付いてしまう。

さらに、村で一定の教育を受けた新世代が「村には何もない」「もっといい生活をしたい」と次々に流出。

気づけば村に残っているのは、昔ながらの方法で畑を守ってきた高齢の農民や、教育の機会をうまく活かせなかった者ばかり。


しかもインフラ整備の維持費は想像以上にかさむ。教育資金を負担するはずだった特産物ビジネスも、熟練の若者たちが都会へ行ってしまったため技術が停滞し、そこから先の発展が伸び悩み始める。

そして――


『な、何だ? 村の人口が減っている……?』


村長や長老たちが頭を抱えだしたのは、若者たちが学校を出た途端に消えるように街へ出ていき始めてから数年後のことだった。

子どもを産み育てる世代もいなくなり、村には急速な“過疎化”の波が押し寄せる。


「魔王様、聞きました? この村、維持できる限界を超えちゃったらしいですよ」

「道や建物を整備したはいいものの、使う人が減っちゃって赤字続きみたいです。うーん、残念ですね~」


部下たちは分かっていた――“教育による急激な発展”は、同時に“田舎の空洞化”を引き起こすということを。なぜなら、魔王軍でも同じようなことが起きていたからだ。

だが、魔王本人は無邪気にも「組織が良くなる改革だ!」と信じ込んでいたため、こうなる未来をほとんど想定していなかった。


■村の終焉


『ば、ばかな……どうしてこうなった!?

 私が提案したシステムは、確かにこの村にとって良き改革のはずだったのだ。

 こんな形で村が衰退してしまうなんて……!』


目を覆うばかりの惨状。

だが、村の年長者たちは魔王に感謝こそすれ、「これは魔王のせい」などとは思っていない。


「せっかく立派な制度を整えていただいたのに、若いもんが勝手に都会へ行ってしまった。けしからん!」

「村の将来を担う人材が残らず出ていくなんて……」

と嘆くばかりだ。


こうして教育改革がもたらしたブームのあと、村は急激に高齢化と人口減少に苦しむ。

もはや大きな商売やインフラ維持は立ち行かず、村は再起不能の状態に陥ってしまった。


「いやぁ~、あれだけ若者がいなくなっちゃうと、村も崩壊しますよねぇ」

「でも、それこそ魔王様の望んでいた“人間社会の破壊”と言えるんじゃないですか?」


『……わ、私が本当に望んだ形とは違うが……結果的には、この村は自滅の道をたどったということか。

そうか、これも一つの“弱体化”のかたちなのだな。』


魔王は複雑そうな表情を浮かべたまま、残された廃屋のような村を見つめる。

「より良い暮らしを実現する教育を」と提案した結果が、まさか村を根こそぎ空洞化させるとは本人も予想外だったのだろう。


しかし部下たちは、むしろこの結末こそ目論見通りに近いものだと感じていた。――人間社会を弱体化させるには、必ずしも力ずくの破壊や蹂躙だけが方法ではないのだ。


『……人間どもは、おもしろい。 ほんの少し“学び”を与えただけで、勝手に都市へ吸い寄せられ、村を捨てるとはな。

 ならば次は、別のやり方で人間社会を潰す策を考えるのも悪くない。

 よし、行くぞお前たち。今度こそ私の改革で、人間を真に――くくく、滅びの淵へ追いやってやる!』


こうして魔王は、結果的に「村の壊滅」を起こした教育改革をひとまず成功と捉え、次なる標的へと歩みを進める。

それが、さらなる『人類の最大の危機』の始まりであることを、このときまだ全人類は知る由もなかった――。


(続く)

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