00_魔王、勇者に敗北する
「魔王、これで終わりだ!」
勇者の全身が光を放ち、聖剣を振り上げた瞬間、魔王から黒い霧が立ち込めた。
魔王は消えた。
『勇者よ、今日のところはお前の勝ちとしてやろう。だが、1000年後必ず私は人類を滅ぼすためにまた立ち上がる。その時を楽しみにしておけ』
その言葉を残して。
「魔王様、ヤバかったっすね」
「勇者、後ろからの魔法めっちゃ回避するもん。あんなんできひんやん普通」
『お前ら、生き残っていたのか、、、』
魔王は残された魔力を振り絞って最後の大魔法を使った。
その魔法は、【自らの全ての力を代償に窮地を脱する魔法】。
その結果、、、魔王は魔力をほぼ失い、人間の姿になってしまったのであった。
『ほとんど魔力は使えそうにないな、そしてまさか生き残った部下が、人間に化けられるお前たち2人だけだとはな』
「魔王軍に囚われた人間のフリしなければ絶対やられてたっすね」
「それにしても、ボコボコにされちゃいましたねー。魔王軍の弱体化、ここに極まれりって感じで。魔王様が優しすぎたせいですよー」
『私は、、、魔王軍を、変えたかったんだ、、、』
―
魔王は先代の魔王から代替わりし、大きな変革を行った。
今までの力で支配する構造から評価制度を取り入れ、働き方改革を行った。また、ハラスメントは厳しく取り締まり、エンゲージメント調査と1on1を取り入れ、心理的安全性の高い組織を作ることに注力した。
そうすることによって魔王軍の強化を狙ったのであった。
この政策は幹部からの反対を受けつつも、末端の魔族からは大好評であった。
しかし、
―
「まぁ、弱くなりましたね」
「こんなに急に弱くできるとか、逆に才能ですよ」
『お前ら、、、言っていいことと悪いことがあるぞ』
結果として魔王の改革は大失敗に終わった。
優秀だった幹部は去り、厳しい訓練をろくにしなくなった軍は戦場では逃げ出す弱兵ばかりになってしまったのだ。
その結果、勇者の侵攻を簡単に許してしまい倒されたのであった。
『私は諦めんぞ。必ず人間を滅ぼしてやる』
魔王は意思が固かった。
しかし、、、
「でも、魔王様。いったいどうやって、、、?」
「魔王様は組織運営が壊滅的に下手ですし、唯一の取り柄だった魔力もほとんどなくなっちゃいましたし。あ、でも弱い立場の有象無象からやたらとモテる謎のカリスマ性だけは残ってますね!」
『……』
魔王は考えた。
人間がなぜ魔王軍を圧倒したのかを。
『人間は組織の力で強くなった。勇者を鍛える教育システム、聖剣を大量生産する工業力、傷ついた戦士を癒す医療体制。一人ひとりが強い魔族と違い、人間は組織化することで強くなっていったのだ。それであれば我々魔族も人間にならって組織化をすれば、、、勝てる!!!!』
「今までの経験上、魔王様の戦略は99%間違ってるので、これの逆をすれば勝てるってことっすね」
「というか、せっかく魔王様が人間の姿になったんだから、人間を内部から崩すのなんてどうでしょうか?」
『ほう、人類を内部から崩す、か。……悪くないな』
そう言いながら魔王は立ち上がろうとするも、力が入らずよろけてしまう。
人間の姿になったとはいえ、先ほどの大魔法の代償は大きい。
『……まずは人里へ行くぞ。私がこの姿なら、疑われにくいはずだ。
だが、ただ潜り込んだだけでは人間社会の情報は手に入らん。確実に食い込み、組織の中心部を掌握しなければならない。』
「でも、魔王様。人間の組織を内側から崩すとか難しそうなこと、魔王様にできるんですか?」
「ぶっちゃけ、魔王様が頭を使おうとするとろくなことにならないっすから。ここはオレらに任せるのがいいんじゃないっすか?」
『……そ、その認識は一度改めさせてもらう必要があるぞ? 私だって失敗から学ぶのだ。』
魔王は否定したが、本人の耳にも説得力がなかった。
何しろ、これまで“改革”を掲げるたびにことごとく失敗してきた歴史は、部下どころか魔王本人すらもよく知っている。
『まずは人間の小さな村に入り込んで、内側からボロボロにしてやろうではないか』
魔王が部下に向けて大きく手を広げて演説をする。
「それなら魔王様得意そうですもんね笑」
「たしかに、魔王様が自然に振舞えばどんどん弱体化していきそうっす!笑」
『ぐぬぬぬぬぬ!!……まぁいい、行くぞ』
こうして、魔王とわずかに生き残った部下二人は、人間の世界へと足を踏み出した。
しかし、部下から小馬鹿にされ続けた魔王は決意していた。
(こいつら、絶対に見返してやる。
私の方針が間違って無かったことを証明するために、逆に人間の村を発展して見せようじゃないか。人間を滅ぼすのはそれからでも遅くはない……)
魔王は自分の考えが間違ってなかったことを証明するために、部下への説明とは真逆の“人間を発展させる”方法を考えるのであった。
(つづく)
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