貴方が私の何を知っているのでしょう?
※イーシュのクラーブ公爵家と、クヌーニャのツァディク侯爵家は隣り合っており、クヌーニャの両親がクラーブ家の屋敷の近辺に屋敷を建て、社交界で見栄を張りまくっていました。
幼馴染なのはそのためですね。
なんでそんなことしたのかは...
本編で大体分かると思います。
前回のあらすじ
ー◆ー◆ー◆ー
「クヌーニャ・フォン・ツァディク侯爵令嬢。貴女を昔から慕っていました。」
え、えっ!?これって!?
一気に顔が熱くなった気がする。
今の私の顔は真っ赤だろう。
「どうか私と共に歩む未来を選んでくれないでしょうか?」
そう言って跪いたまま、私に手を差し出した。
そのプロポーズに私は...
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という風に、幼馴染のイーシュ・フォン・クラーブ公爵子息(次男)から求婚されました。
ー◆ー◆ー◆ー
そのプロポーズに、
「ちょ、ちょっと考えさせて?」
そう緩んだ顔のまま答え、はしたなく走って逃げてしまいました。
「え?ちょっと!?待ってく...」
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翌朝
「...はぁ。」
私、何をしているのでしょう...
「イーシュに嫌われたかしらね...」
本当ならあのまま『はい』と答えた方が私情抜きにしてもよかった。
殿下と婚約破棄になったとは言え、王家と現在関係を持ちたいと思う家なんて考えなしか余程困窮しているかの2択。
それならば、例え一度婚約破棄した相手であっても"婚約を台無しにした埋め合わせ"という理由付けで他の王子と婚約を結ばせられるさせられる私と婚約させにかかるでしょうから。
そして婚約を結ぼうものなら王妃の椅子に座らされ、王妃とは名ばかりで、奴隷のように王家の落ちた名声を取り戻させようとするでしょうね。
「お嬢様、王家からのお手紙です...」
「...この場で読むわ。」
もう来るのね。
影がいたとしても速すぎる気がするのだけれど。
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「予想はしていた、というより予想通りだったけど...」
それでもやっぱり
「腹が立つわね...!」
手紙の内容は長々と言葉が書き連ねられていたけれど、要約すればロゲス第三王子殿下と婚約しないかという話だった。
そしてその話の中ではどこから知ったのか、私とイーシュの関係も出てきた。
その内容は荒唐無稽だったけれど。
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side ロデス王子
手に持つのは幼き頃のクヌーニャ・フォン・ツァディクの似顔絵。
「やっと、やっとだ。」
男は自身を囲む、画架に乗せられたままの様々な年齢のクヌーニャ嬢の肖像画を眺めながら言う。
「やっとクーニャ義姉様をあの男から救い出せる...」
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return(クヌーニャ視点)
「さらに厄介なのがこれよね...」
そう言って目を向けたのは国王陛下の玉璽付きの王城への招聘状。
「これさえなければ私個人で手紙を出して突っぱねるだけなのだけれど。」
これには両親も来るようにと書いてある。
しかも封は既に開いていたので両親へ先に通したのでしょう。
あの考えなしで金にがめつい両親のこと、確実にこの話に飛びつくでしょう。
先が夜、明かりを見かけたら飛び込む虫より見えてない人たちですからこれは確実です。
"でしょう"などの未然形ではありません、決して。
「はぁ、こんなことになるならさっさと療養のためなど適当に理由付けして僻地に送り込んでおけばよかったわね...」
たらればを言っていても意味はない。
早く対応を考えましょう。
と言っても...
「あの両親が話を分かるとは思えないのが一番の問題よね...」
資産家で海に面していて産業も成功している、さらに歴史も長い子爵家と困窮していて事業も軒並み失敗続きの侯爵家の二家から事業提携の話が来た時に迷いなく侯爵家を選びましたもの...
いくらこのことを説明しても、
『爵位が高い方と提携するのが一番良いに決まっている!』
と頑なに認めませんでしたからね...
今回も王家と公爵家の次男...ああ、あの人たちは令息と子息の差も分かりませんでしたね...
イーシュのクラーブ公爵家から縁談は正式に申し込まれていますし、受け入れたはずですけれど、王家との縁談ならば喜んで無かったことにするでしょうね。
数少ない公爵家、しかも力の強いクラーブ家を敵に回せば王家ごと潰される可能性すらあるというのに。
「はぁ、どうしましょうか...」
幸いなことに招聘まで時間はありますので、なんとか手段を講じてみましょうか。
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「ツァディク侯爵一同が参られました。」
「通せ。」
「ハッ。」
騎士の方に導かれ、談話室へ入る。
王家とこの部屋で話すということは、"腹を割って話そう"という意味を持つ。
それだけ切羽詰まっているのでしょう。
「失礼いたします。」
入室する際にそう発言したのは私だけで、両親はそのままズケズケと入っていった。
騎士の方は表情に出さないよう抑えてはいるものの、眉間が痙攣している。
「ツァディク侯爵家が娘、クヌーニャ・フォン・ツァディクが参りました。」
「「参りました。」」
嘘でしょう!?
この人たち王家の前で略式の挨拶と略式礼で済ませたのですけれど!?
確かに今王家は我が家に負い目があるとは言え、平時でしたら致命的なのですけれど!?
今、何がなんでも両親を王家絡みのことに干渉させなかった私を全力で褒め倒したいです...
「う、うむ、クヌーニャ嬢、そこにかけなさい。」
国王、王妃様両陛下はまともな方々なのですが、なぜご子息はあのようになってしまったのでしょう...
「国王陛下のご配慮に感謝いたします。」
そして指し示された長椅子に腰掛けると、
「さ、座ろう。」
当たり前のように両親も両隣に座りました。
...ここまで酷いともはや心内で突っ込むのも面倒になってきます...
「さて、本題から話そう。ご両親から了承は貰っているが、君はどう考えている?クヌーニャ嬢個人の考えを聞かせてくれないか?」
やはり国王陛下はまともなのですよね。
「...」
お父様が『分かってるよな?』と言いたげな目で見てきますが、
「私は受ける意味は全く無いと考えています。」
国王陛下は私個人の考えと言っていますので、無視して答えます。
「クヌーニャ!失礼だろう!?」
...それをお父様が言いますか?
国王陛下でさえ目を見開いてあり得ないものを見る目で見ています。
「...話には聞いていたが、誇張していると思っていた...」
分かります。
イーシュでさえ最初は信じてくれなかったほどですもの。
「クーニャ義姉様、なぜ断るのか庭園で聞いてもよろしいでしょうか?」
「あらロデス、もう私はあなたの義姉じゃないのよ?」
社交界で言おうものなら、問題となる発言をやんわりと指摘する。
「す、すみません...癖で呼んでしまいました。」
すぐ謝ってしまう所が美徳ではあるけれど、王家の人間として悪い所なのよね...
でもあの人たちよりはマシ...というよりここ以外はかなり優秀だから王として不足はないのだけど。
「ふふ、変わってないわね、あなたは。さて、行きましょう?」
「はい!」
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庭園について向かい合うように座ると、話を切り出す。
「なぜ断るのか、だったかしら?」
「はい。僕なら兄たちのように蔑ろにしませんし、政略結婚での業務的な関係にはしません!あなたのあらゆる好みも把握済みです!」
私のあらゆる好み?
「そうね。あなたならそれを実行してくれるでしょう。」
「なら!」
「でもね、これはそう単純な話じゃないのよ。」
「分かっています!今後の王家のことも...でもあなたとなら!」
分かってないわね...
「これは王家だけの話じゃない。王家と揉め事を起こした家と関わりたいと思う家なんてかなり高位じゃないといないの。それだけじゃない、我が家と王家の問題の落とし所として領地が減っているし、その代わり数年の免税があるけどそれを妬む家もある。王家に私が入ればツァディク家は一時的に王家預かりとなる。その間に外堀を埋められて家が乗っ取られたりということも起こり得るの。それらを防ぐなら、問題を抱える王家よりもイーシュのクラーブ家と縁談を結ぶ方が有意義な話なのよ。分かるかしら?」
一息に今の状況を話した。
イーシュの名前を出してからロデス王子が不機嫌になっている理由が分からないのが不穏ね...
「んで」
「...?」
「なんで?」
「なんでって何よ?」
「なんでイーシュなんて男と結婚しようとしてるんですか!」
はい???
「なんであなたにイーシュとの婚約話に口を出されないといけないのよ?」
「僕は知ってるんです!あなたがあの男に酷い扱いを受けていることを!」
酷い、扱い?
「...」
どうしましょう...
全く心当たりがないのだけれど...
「家の権力であなたを色んな所へ無理やり連れ回したり、挙句の果てには路地裏に連れ込んでガラの悪い男と合わせられていたって報告が上がってます!」
「...」
「さらに工房に引きずられて行った後、打撲音が聞こえてきたって話もあります!」
「...」
「...言いたいことはそれだけかしら?」
「...!?なんでそんなに怒ってるんですか...?」
「まず一つ目の話ね?私にはそのような記憶はないのだけれど、近い話ならお忍び視察の許可を取りに行った時の話ね。たしかにあそこは領主もその側近も強面だけれど、そこまで言われる謂れはないわ。真面目に領地を治めているし経営も健全よ。」
我が家とは違って、ね。
「そん」
「次よ、その話はイーシュの木工業見学に着いて行った時ね。イーシュが珍しく強引で驚いたわね...」
イーシュって領主として領地を治めるより、職人として暮らす方が向いてる気がするのよね...
「で、でもあの男はあなたが嫌いなものを出して食べさせて...」
「外で好きなものを曝け出して何に利用されるか分かったものじゃないわ。」
毒殺のいい指標になるじゃないの。
「へ、部屋の配置だってあなたは寄り道しないで済むさっぱりとした部屋が好きなはずなのに用意される部屋は...」
「さっぱりした部屋の方が針とか仕掛けられても分かりやすいじゃない。」
令嬢たちの妬み僻みはすごいわよ?
爵位の差も教えられずに甘やかされた子も極々稀にいるからそういう子に目を付けられると実害が出るから面倒なのよね...
「あ、...」
「ねえ、ロデス、いいえ、今はこう言わせてもらうわ。」
できれば円満に事を収めたかったけれど。
「や、やめ」
「第三王子殿下、貴方が私の何を知っているのでしょうか?」
「あ、ああ...」
崩れ落ちた第三王子殿下を振り向きもせず言い放つ。
「それではごきげんよう、もう会いたくもございません。」
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その後の話です。
「ふぅ、やっと終わったわね。」
「そうだね。でも?」
うっ、分かってて言ってるわね?
「...と、とっても嬉しいわ...」
「ふふ、よくできました。」
今は私、クヌーニャ・フォン・イェシュアとイーシュ・フォン・クラーブの婚約披露の夜会が終わった所です。
「いやー、それにしても国王陛下には助けられたね。」
「それにしてもって何よ。...でもまぁ、その通りね。」
あの後、両親は国王陛下に礼儀がなっていない事や、子への自由意志を認めないような動きに対して懇々と説教をされたらしい。
しかしその時の国王陛下が温室育ちの世間知らずな両親には恐ろしかったのか、聞かれてもいない家の悪事をペラペラと喋ったらしく、そのまま家は取り潰しになった。
そしてその領地はクラーブ家や近隣の他貴族家に割譲され、子爵家程度の領地が王領として残された。
その際、クラーブ家はイーシュが私を好いていることを利用して、私が適当な家に養子に入りイーシュと結婚して新たなクラーブ家の分家を興し、子を三人以上産み一人をその家の後継に、一人をクラーブ家に出せば、もう一人をツァディク家の後継として復興を許すという取引を私に持ちかけました。
そしてその取引を許可したのが国王陛下でした。
つまり私個人に恩を売り、最終的にはクラーブ家に王家の後ろ盾になってもらう布石にしたということですね。
言葉にすると悪い事のように聞こえますが、受けない手はない話でしたし、実際助かりますのでお受けし、今婚約を発表したという訳ですね。
「...さて、ここなら邪魔が入らないかな。」
控室に着いたところでイーシュがそう言いました。
「?」
「クヌーニャ?前回の答え、聞かせてくれる?」
「〜〜〜!?」
イーシュの言葉に私は一気に頬が赤く染まり、声にならない悲鳴を漏らした。
「ほら、聞かせて?」
「...」
前と同じようにうずくまって黙り込んでみる。
すると、
「...またお姫様抱っこされたい?」
耳元でそんなことを囁かれ、反射的に顔を上げてしまった。
「さ、聞かせて?」
悪戯心満載の表情でそう聞いてくる。
「...ぁたしも」
「んー?聞こえないな?」
聞こえてるはずなのに!
「〜〜!!私もイーシュが好き!これでいいでしょ!」
思わず子供っぽい言い方で叫んでしまった...
「...ぇ?」
ポカンとした表情にイーシュがなった。
「何か不満でもある?」
そうむくれながら言うと、
「い、いや、そんなにはっきりと答えるとは思わなくて...」
「イーシュから催促してきたのに?」
そう呆れながらも、笑みが溢れる。
「そうだよ?」
イーシュも笑う。
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そして二人は、明るい未来へ踏み出したーー
「面白い」「連載版にして欲しい」と少しでも思っていただけたら、高評価やブックマークをお願いします。
まだまだ若輩で弱輩の身ですが、いただいた評価を励みに執筆をさせていただきます。
[小話]
クヌーニャの父親は元々は当主になる予定などはなく四男という立場だったため、市井に下って漁師見習いとして働き、その漁師の娘と恋仲となっていました。
しかし上の兄弟が揃って乗っていた馬車が滑落事故を起こして全員死亡してしまったため、急遽当主となったのですが、先代当主夫妻(クヌーニャの祖父母)がそのことで心を壊し、その際に使用人やメイドなどをほとんど解雇してしまったため、クヌーニャの両親は貴族家の当主には不適格な状態で今の今まで来てしまいました。




