長い長い前置きの終わり
僕だけを残して静かな時間が流れた。
待機しておけと命じたロボットは未だに動く気配がない。正直まさかコイツのせいで時間が長引くとは思わなかった。だが実際リカルドさんが今になっても帰ってきていないのなら、どっちみち同じだ。僕は報酬を貰っていないから帰れない。
それから事務所のドアの音がしたのは三十分後、二時半であった。ちょうど腹の減り具合が限界に達した頃であった。
「すまないね、とても待たせてしまった。君のための給料を下ろすのをすっかり忘れていてね」
リカルドさんは微笑みながらそう言った。相変わらずの明るさにこちらはついていけない。
後ろにはどうやらシュナイダーさんもいるようで、気まずそうな顔だった。ウチの事務長がドジで済まないと言わんばかりに。
「ロボットは直ったかな?」
そうだ。大事なのはそこである。主人を間違って認識してしまったこのロボットをどうするかである。
僕は一通りリカルドさんに内容を話した。
だが帰ってきた返事は意外にも軽く、「構わない」と言った。
もしかしたらこれからなんらかの支障をきたすことになるかもしれない、と忠告をすると「それは困った」と言い出した。
今までのことから察するにこの人はマイペースなのだろう。変に余裕があるのも、クシャッとした髪も全部それ故のことだろう。僕にはないものを持っている。
「・・んぁ?あ、お二人とも帰ってたんすね」
ソファーで寝ていたレオンさんが起きた。寝起きの顔もなかなかにハンサムなのはどうにかならないのだろうか?男としての僕の威厳というものは崖っぷちである。
すると、レオンさんは何を思ったのか、今の状況を察してなのか、あるいは僕の境遇を聞いたからだろうか突拍子もなく僕をこの事務所で働かせてはどうかと話を切り出した。
この人にはついていけない、なんならここにいる三人全員個が強すぎて僕という存在が薄まってしまう。
三人は暫く黙っていた。
僕は何も言えなかった。ただ返事を待つだけ。ただ返事に妙に好奇心を沸かせていた。
「いいじゃないか、雇おう、彼を」
眩暈がした。別に貧血といったわけではないが、恐らくずっと体に力を入れていたからだろう。そしてリカルドさんの答えを聞いてその緊張が弾けたからだろう。
「だってよ、どうすっよ」
急転直下とはまさにこの事。でもまぁ、それなりのシナリオは出来上がっていたのかもしれない。
ー人間は誰しも悩みや苦難を持つ、特にこの世の中はそうだ。人間の匂いが地球の細胞に染み付いたこの世界で人を知る事は避けられないー
僕に断る事は出来なかった。直感も理性も全てこの三人、或いはこの事務所に惹かれていた。
心臓の高鳴りが指数関数的に跳ね上がる。それを止めるためには言わなければならなかった。
「よろしくお願いします」
ー 希望が必要だ 朝の太陽、夜の月、踏みしめる大地。 みんな隠している自分を、曖昧にしている関係を。 怖いんだ、傷つくのが、相手を壊すのが ー
「よろしく。そしてようこそこの探偵事務所へ」
探偵事務所とは初耳だ。だが仕事がなんだろうと僕はどうでも良かった。探偵でも。うん、、探偵かー。
いや!大丈夫だ。
「ちなみに、名前は、、?」
「『セルジオ』 守る者だ」
前置きが長くなってしまったが、これが僕と『セルジオ』の出会い。運命の始まりである。
ー これは氷に閉ざされんとする世界に生きる人々の運命を贈る凱旋曲である ー
そして、この物語はこの僕レイ・ブラウンが愛を見つけるまでの物語




