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窓の閉め忘れに気づいて、踵を返しリビングへ向かう。

急ぐがあまり床に置いていたラジオの存在に気づかず蹴り倒してしまった。その拍子にラジオの電源がカチッと、そして砂嵐の音がザザッと、そして先ほど聞いていたニュースの続きが流れた。


『「では、政府は我々に隠していることがあると?」』


ラジオからは、日曜の正午スタートの昼ラジオ番組

『明日はマンデー』の人気パーソナリティ『中野平子』さんの艶やかな声がする。

その人気ぶりは凄まじく、普段ラジオにお世話になっている人で平子さんを知らない人など存在せず、彼女の影響でラジオを買ったという人も後を経たない。平子さんは一切顔を世に出した事がなく、謎のベールに包まれた音声放送の女神と巷では囁かれているらしい。


『「そうです、今の世の中じゃ政府があらゆる情報を牛耳ってますからね」』


ラジオを拾い電源を切ろうとした僕の手が止まる。

平子さんと話しているのは先程からの専門家の女性だろうか?さっきとは打って変わって落ち着いた声だ。ついその声に吸い込まれてしまった。


『「例えばどのようなことを政府は隠しているのでしょうか?」』


平子さんが切り込む


『「・・・それにはお答え出来ません」 「ん?それは、どうしてでしょうか?」』


専門家のその拍子抜けな言葉に、流石の平子さんも戸惑いが声に出てしまったようだ。僕も、半分頭を出していた期待がまた戻って行ってしまった。


『「私は専門家であると同時に『政府の犬』でもあるります。ですから許可なしに内容の詳細を話すわけにはいかないのです。言われたことなので仕方ありません」』


ここで疑問。この専門家の人は、政府に隠し事があるって言っちゃってる時点でもうアウトなのでは?やっちゃったのでは?


『「ですが、政府には隠し事がある、と貴方はおっしいましたよね?それとも思わず口を滑らせてしまいましたか?」』


平子さんが得意の煽り口調ですかさず切り込む。


『「いえいえ、ですから『内容の詳細』()話せません。ですから、隠し事はあるという事情を話したまだにすぎませんよ。それより平子さん、そろそろお時間では?」』


『「・・そうですね。・・少し残念ですが今日の『明日はマンデー』ここまで!それでは皆さん来週もお会いしましょう」』


ブチッ。 ラジオの電源を切る。

暫くその場に佇み壁にかけられた時計を見る、仕事のことを思い出し暫くして玄関に向かう。

頭に先程のラジオの音声が蘇る。

あの専門家の女性は何を言いたかったのだろうか?

だが、そんなことはどうでもよい。


玄関を開ける。


「・・うおっ!!!!!! びっくりした!」


気がつくと玄関先に制服姿の女子高生が立っていた。僕を驚かせたその張本人はエリーゼ。僕の友だちである。

エリーゼは手を後ろに組みながら首を傾げてこう言った。


「おはよう。今から何処か行くの?」


「そんなことより、もしかしてずっとここに居たのか?」

あまりにビックリしたので、僕の息遣いは荒くなっていた。

エリーゼは首を横に振りこう言う


「いや、今ちょうどインターホンを押そうとしてたとこ。そしたらレイがちょうど出てきてビックリしたよ〜」

「ビックリしたのはこっちの方だ。やめてくれよそういうの」

「そういうのって私が会いに来ること?」

「・・いや、、そうじゃなくて、、」


エリーゼが僕に会いにきてくれるのは嬉しい。こんな僕にかまってくれるだけありがたいし、おかげで退屈しないで済んでいる。


彼女は僕より背が小さいから、いつも上目に僕を見てくる。それがとてつもなく可愛いし、胸の辺りが強調されて見えるのだ。高校生男子の僕からしてエリーゼはとても手に届かないような存在であるから話しかけてくれるだけで良い心地がする。彼女からはほのかに香水の匂いがして、それが艶やかな黒髪が風に靡くとともに薫ってくる。

別に僕らは付き合っているわけではない、あくまでも友だち。彼女もそのつもりだろうし、変に意識しているのは恐らく僕だ。


「で、何処行くの?例の新しいアルバイト?」


「アルバイトじゃなくて、正式に雇ってくれるところができたんだ。雇ってもらえたのもエリーゼがそこの急募を教えてくれたおかげだよ」


「そう、、じゃ初任給は私にくれるの?」

エリーゼはニコッと笑ってみせる


「やだよ、親子でもないんだし。まぁでも今度コーヒーぐらい奢るよ」

「嫌よそんなの、私がレイなんかの世話になるわけないでしょ」


エリーゼはずっとニコニコしている。彼女の心は読みにくい。笑顔が絶えないその顔が心を隠しているように思えて仕方がない。いつも彼女が僕をどう思いだすと頭から離れない。見透かされていて、それでもって本当は薄氷みたいに薄く、冷たい感情が僕に向けられているのかもしれないと思うと、嫌われたくない一心で僕の鼓動は速くなる。


「じゃあ、『アカシア』はもう辞めるの?『カバ』にはもう話したの?」


「辞めるよ。ファミレスのアルバイトより新しい仕事の方が給料もいいんだ。でも店長にはまだ話してないから辞めれるかは分からないけど」


「そっか、でも大丈夫?私居ないんだよ?一人でやっていける〜?大丈夫〜?」


先程もあったが、恐らくエリーゼは僕に異性的な好意を持っていない。何故か?彼女が僕を子供扱いするからだ。そこから感じられる好意は『恋』ではなく『愛』。だからと言って不満や憤りがあるわけでは無いが、僕はきっと心のどこかで、この恋の淵を仮想しているのかもしれない。

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