仮想の神々
オモイカネの放つ黒炎が、放射線のように空間を走った。
それに重なるように、ツクヨミの手から生まれた闇の球体が軌道を描いて迫りくる。どちらも空間をその存在ごと削り取る力を持つ。
「ユイカ様……理想の世界を、どうして否定なさるのです? 永遠の幸福がそこにあるのに」
結日は一歩踏み出し、地を蹴った。彼女は軽やかに、宙へ舞う。
前方宙返りで黒炎をすれすれで回避。
着地と同時に体をひねり、連続のバク転で次々と迫る闇球の軌跡をかわす。
最後の大きな一撃を、後方宙返りで抜け、両腕を広げて着地。それは完成された演技のようだった。
「悲しみは、誰かを想う証だよ」
結日はもう一度、跳んだ。
オモイカネが空を裂くように闇の氷刃を放つ。
結日は地を蹴り、ロンダートからバク転、そして伸身宙返りへとつなぐ。
背後から飛んだ氷の刃が肩をかすめる。
冷たさとも熱さともつかない、鋭い痛みが走った。
それでも、彼女は止まらない。オモイカネの頭上を飛び越え、滑らかな回転の軌跡が光の弧を描く。
着地と同時に、オモイカネの魔法の発生源である魔法陣を踏み砕いた。
魔法陣は白く反転し、砕かれて四方に散る。
オモイカネが思わず後退した。
「……ユイカ様、そんな生き方では、永遠に苦しむことになりますよ」
結日は息を整えながら、静かに構え直した。
「命は永遠じゃないんだよ。ごめんね、アカネ。今のあなたのところには行けない」
――その頃、湊たちの戦場。
タジカラオの黒い拳が地を叩いた。
地面が光を放ち、衝撃で大きく抉れる。
「物足りない。この仕様ではパンチが足りませんなぁ!」
タジカラオが謎の叫びを上げた瞬間、建物が軋みながら傾いた。
「さっきより威力が上がってる!」
湊は地を蹴り、横倒しになった舗装の影へ滑り込む。
鈴音が慌てて駆け寄り、ぴしっと指を突きつけた。
「この私がいる限り――ミナ兄ぃには触れさせないっ!」
鈴音の高速回転がタジカラオに迫る。
しかし、その拳に弾き返された。
「現場に近いマネジメントを心がける私は、製品仕様もちゃんと把握しているんですなっ!」
タジカラオが、再び吠えた。
次の瞬間、頭上から赤黒い炎が降る。
振り下ろされたスサノオの剣から、流星群のように炎が放たれていた。
「神だろうが何だろうが、この拳で俺の正義を示すまで!」
武が雷を纏った拳を繰り出し、波動弾を打ち出す。
炎の雨のいくつかは相殺されたが、残ったいくつかは街を穿った。
「アルカディアは、最強のプラットフォーム。そのプラットフォームを世に送り出した私を讃えるのだ」
スサノオの瞳が赤く光り、力強い結界が展開される。武の波動弾を跳ね返し、その一つが武を直撃。武の体が弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「タケル兄ぃっ!」
鈴音が叫び、両手を広げて光を展開する。
炎を防ぐための光の防護陣が張られた。
そこに、凪が歩み出る。
降り注ぐ炎は、彼の周囲で左右に割れていく。
彼の立つ空間だけ、静寂に包まれていた。
「私の世界では、実体を持つ者のほうが例外なのです。そして、例外は……取り除かねばならない」
その声とともに、凪の体表から黒い甲殻が噴き出した。
ファイターの奥義『拡張甲殻』に似ているが、それは現実そのものを侵食する力を備えている。
凪を包んだ闇は巨大な人型を形作り、触れたものを消滅させる。ビルの壁が波打ち、街灯がねじれて倒れる。
「どうです? 最高だとは思いませんか?
もはや仮想が現実を凌駕しています。私は――この世界を思うままに書き換えられるのです」
その黒い甲殻の腕が、オモイカネとツクヨミと戦っていた結日にまで伸びていく。
「やめろ……!」
湊が叫んだが、結日の心配をしている余裕はなかった。タジカラオとスサノオが同時に襲いかかってくる。
凪の攻撃に気づいた結日は後方に跳び、間合いを取る。
しかしツクヨミの追撃が間髪を入れず襲いかかる。
湊も回避行動を取りながら結日と合流した。
気づけば、二人は完全に包囲されていた。
オモイカネの渦巻く闇魔法。
タジカラオの黒い重撃。
スサノオの黒炎剣。
ツクヨミの闇結界。
そして、凪の黒い甲殻。
――逃げ場は、もうなかった。
「ミナト君、背中を預けるって……こういう感じ?」
「ああ。不思議と安心できるね。パーティ戦で挑んでなんとか勝てるかどうかという神クラスに、四方を囲まれてるというのに」
二人が構えた瞬間、四方から闇が押し寄せた。
鈴音の防壁が間に割り込み、衝撃波を必死に押し返す。
しかし複数の神格級の攻撃に押されていく。唯一の闇の抜け道の前には、タジカラオが拳を構えていた。
「あそこを突破するしかないね!」
「そうみたいだね。タケルと俺であいつを引きつける。その隙にユイカはここを突破して!」
「そんなの、ダメだよ!」
タジカラオが拳を構えた。
黒いエネルギーが拳に収束し、空気が震える。
盾になってでも結日を逃そう。湊がそう決意した次の瞬間――タジカラオの体が真っ二つに断たれた。
背後から現れたのは、木刀を携えた一人の男。
「大神社長……?」
それは木刀を構えた大神正道だった。
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