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終焉のアニマ〜ARで蘇った妹は仮想が現実を侵食する世界の召喚神〜  作者: マシナマナブ
第三章

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背徳のエンジニア

 八重は、鏡を見るのも久しぶりだった。

 髪は乱れ、目の下には深い隈ができている。

 湊に抱いた複雑な想いに対処できず、直接湊と顔を合わせられなくなり、外にも出られなくなった。

 長い間、家に閉じこもり、日の光も浴びていない。

 面と向かって人と話した記憶はかなり前で、リモートアバター『エビスちゃん』として作られた陽気なキャラで会話しているだけだ。

 本来の八重という存在はすっかり薄れ、自分の話し方すら、もう思い出せない気がする。


 そんな日々の中、八重は再現中の高見聡一郎とのチャットベースの対話を繰り返していた。

 AIとライフログから再構築されたその人格は、まるで本物のように受け答えをする。

 そして、彼と話すうちに、八重は、ある可能性に気づいてしまう。

 八重は震える手でデータを開き、ひとつひとつの記録を照らし合わせた。

 その全てが、ひとつの真実を指し示している。


 そして、答えに辿り着いた瞬間――


 八重の頬を、ぼろぼろと涙が伝った。

 震える唇から、かすれた声が漏れる。


「……これは、あかん。

 あかんやろ……。今すぐに、止めな……」


 その声は、久しく発していなかった自分の声だった。


   ◇ ◇ ◇


 伊豆谷凪。

 かつて、アイノリア社でアイウェアの開発を担っていたエンジニアだ。

 彼が力を注いでいたのは、『現実と仮想のインタラクション』という領域。

 アイウェア越しに見えるARの幻がまるで本物のように触れられる技術の開発だ。

 そのために凪は、極小ドローンから放たれる超音波を利用し、空中にわずかな『触覚』を再現することに成功していた。


 仮想から現実に、物理的影響を与えられる。

 それは、まさに夢のような技術だった。

 だが同時に、その研究は軍事転用の懸念も抱えていた。仮想から現実に攻撃ができるなら、仮想の戦士を戦場に送り込めばいい。

 慎重な進め方を求める高見聡一郎の姿勢に、凪は次第に苛立ちを覚えるようになる。


 そんな折、ARクラウドを開発するアルカディア社から凪に声がかかった。

 それは、破格の待遇のヘッドハンティングだった。

 ――ただし、ひとつだけ条件があった。

 アイノリア社の一部の情報を持ち出すこと。


 凪は迷ったが、好奇心と野心が理性を上回った。

 やがて、凪は密かにアイノリア社の情報を外部に流すようになる。


 だが、その不自然な挙動に最初に気づいたのは――高見聡一郎だった。

 決定的な証拠はなかった。

 それでも、彼の鋭い観察眼は凪の異変を見逃さなかった。


 疑念の目が向けられた瞬間、凪は悟った。

 このままでは終わる。

 露見すれば、警察沙汰は避けられず、アルカディアへ移る道も閉ざされるだろう。


 追い詰められた凪は、ある計画を立てる。

 疑惑を打ち消し、自らの正当性を示すための一手。

 まだ聡一郎が自分への疑惑を公開していない、今がチャンス。

 凪は、『研究成果のデモンストレーション』の口実で、聡一郎を屋上へと呼び出した。

 未発表の実験成果を見せ、信頼を取り戻すためだと説明した。


 ――だが、真の目的は別にあった。


 複数の小型ドローンの出力を、限界値まで引き上げる。

 見えない力が一点に収束し、それはかなりのエネルギーを発生させた。

 その結果、聡一郎は屋上の柵を乗り越えて落下――狙いどおりの結果となった。

 後に現場検証が行われたが、遠くの小型ドローンの存在は確認されず、事故として処理された。


 数日後、凪は静かにアイノリア社を去る。

 そして――アルカディア社へ。


 その後、アイノリア社から持ち出した知識と技術を武器に、凪はアルカディアのシステムそのものを再構築していった。

 本来はアイウェアの基本機能であった位置取得手段も、凪は独自の方法で置き換え、アルカディアの独自の高精度機能として導入。

 アイウェアの公開されていない潜在的な機能や、本来は閲覧不能なはずのライフログの元データまでも、彼の手の中にある。

 アルカディアは最大のシェアを持つARクラウドへと成長し、彼は社内で確固たる地位を築いた。

 同時に一部の者からは『危険すぎる存在』として恐れられることになる。アイノリア社のデータを売った者というレッテルも影響した。


 そんなある日――凪は出会った。

 アルカディア社長、大神正道の娘、奈実(なみ)に。

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