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終焉のアニマ〜ARで蘇った妹は仮想が現実を侵食する世界の召喚神〜  作者: マシナマナブ
第三章

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歓喜の歌

 湊と結日は、アルカディア社本社ビルへと向かっていた。

 空は仮想の雲が渦巻き、AR広告が竜巻のように回転している。

 周囲でひときわ高いアルカディア本社ビル。最上階は闇に覆われていた。

 取り巻くAR広告は歪み、書き換えられていく。南国リゾートの広告は赤黒い血のような海に染まり、笑顔のモデルは焼け爛れたような肌の色だ。

 大きな闇からは、黒く太い稲妻のような奔流が、周囲に降り注いでいる。その闇に触れたものは消滅し、仮想のものに置き換えられる。

 周囲の建物はほとんど倒壊し、捻じ曲がった樹木のような奇妙な物体に置き換えられていた。

 マガツヒを崇めるように集まってきた者たち、野次馬として集まってきた者たちも、次々と闇に薙ぎ払われ、輪郭が崩れ、アニマとして再構成されていく。


「これでもう働かなくていい」

「病気の心配はない」

「貧困に苦しむことも、飢えることもない」

「外見はいくらでも変えられる」

「永遠に楽しく生きられる」


 生まれ変わったアニマたちは歓喜の声を上げる。


 崩壊し、邪悪な仮想空間として再構築されていく街を、湊と結日は駆け抜けた。

 目的地、アルカディア社本社ビルは禍々しい闇を撒き散らしながら、現実と仮想の狭間で軋んでいる。それはまるで神の怒りを買った、バビロンの塔のようだ。


 砕けた現実の欠片のような黒い粒子が降り注ぐ中、二人の行く手を遮るように異形の影たちが現れた。

 巨大な闇の腕が虚空から伸び、阻むものを叩き潰すタジカラオ。

 強大な闇の魔法で現実を消し去るオモイカネ。

 怒りの咆哮とともに黒炎の剣で街を粉砕するスサノオ。

 静寂の闇に包みこんだ後には何も残さないツクヨミ。


 それら神々のアニマを讃えるように、アニマとなった人々は大きな輪を作り、ゆっくりと旋回する。

 皆、喜びに満ち、歓喜の歌を歌い始めた。


『O Freunde Nicht Diese Töne(こんなものじゃないんだ友よ)!

 Sondern Laßt Uns Angenehmere(そうじゃなくて、もっと心地よくして)

 Anstimmen Und Freudenvollere(喜びに満ちた声を上げよう)』


 アニマの人々は歌いながら徐々に上昇していく。

 輪はやがて巨大な魔法陣のような形となり、その中心に現れたのは――マガツヒの頭部。冷たく巨大な顔が浮かび上がる。

 その手前に、ひとりの人影。

 静かに微笑んでいる、伊豆谷凪。


『Freude Schoner Gotterfunken(喜びに溢れた美しい神の輝き)

 Tochter Aus Elysium(楽園から来た彼女(あなた)よ)

 Wir Betreten Feuertrunken(恍惚として我々は行くよ)

 Himmlische Dein Heiligtum(素晴らしいあなたの楽園へ)!』


「――ようこそ。悲しみのない世界へ」


 闇の中心で、伊豆谷凪が微笑んだ。

 その背後ではマガツヒが脈動するように蠢いている。

 湊は凪を見つめ、静かに問いかけた。


「……凪さん。マガツヒを生み出したのは、あなたなんですね?」


 凪は微笑を崩さず、淡々と答える。


「ええ。アイノリア社での私の研究成果の集大成です。ですが、これは禍の神(マガツヒ)ではありません。創造の神(イザナミ)です」


「イザナミ……?」


「本来なら、イザナミはもう少し時間をかけて成長させる予定でした。けれど、聡一郎さんのライフログが開示されてしまった以上、行動に出るしかなかったんです」


 凪は取り繕うこともなく、冷静に事実を説明するかのように語った。

 そこで結日が一歩前に出て、はっきりと言った。


「……結局、あなたが、マガツヒを使ってお父さんを殺したんですね?」


 凪は静かに息を吐いた。細い目が少し開かれ、鋭い眼光をたたえている。


「あれは試作段階での実験でした。出力も弱く、成功率も低かった。一つの賭けだったのです」


 そこには後悔も迷いもなさそうだった。

 結日はさらに強く問いかけた。


「教えてください、なぜ父を殺さなければならなかったんですか?」

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