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終焉のアニマ〜ARで蘇った妹は仮想が現実を侵食する世界の召喚神〜  作者: マシナマナブ
第三章

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創造の神

 株式会社アルカディア本社、社長室。


 現実には一人だけの空間。だが、アイウェアを通して見れば、そこにはスーツ姿の重役たちがずらりと並んでいた。


「アルカディアeスポーツ優勝チームを中核とした、マガツヒ殲滅計画を進めようと思う」


 無機質な表情の参加者たちに向かって、大神正道の有無を言わせない声が響いた。


「彼らは確かに右手を撃退しました。しかし……外部の人間です。巻き込んでよいものでしょうか?」


「委託契約を結ぶ。もちろん正当な報酬を支払う」


「確かに、あの実力なら十分な成果が期待できそうですな」


「ですが……マガツヒを、本当に殲滅してしまっていいのでしょうか?」


 そこで声を上げたのは、開発主任、凪だった。


「今や日本政府でさえ、仮想化を評価しつつあります。むしろ……マガツヒを中心とした、新しい世界を築くべきでは?」


「伊豆谷、何を言っている……」


「確かにその通りですな」


 突然、ひとりの役員が頷いた。別の役員も追従する。


「現実など捨ててしまえばいい。全てを仮想に――それこそが、人類の進化の形です」


「もはや肉体など不要。老化も、病も、死さえも超越できるのだから……」


 つい先日まで凪に否定的だった者たちまで、次々と賛同していく。


「皆、どうしてしまったというのだ……」


 正道が声を絞り出す。


「アニマはあくまで、現実を補うもの……それを現実と置き換えるなど……」


「私も凪氏に賛成です」

「意義なし!」

「仮想こそ我らが未来」


 次の瞬間――

 窓の外から、不自然な何かが覗き込んだ。

 輪郭の曖昧な黒い頭部。


「――あ――あふれ、かな――のないせかい……」


 音声が歪む。ノイズ混じりの女の声が、空間に滲み出してくる。


「……マ……マガツヒ……」


 呟く正道の背後で、凪が囁いた。


「違います、大神社長。これは禍の神(マガツヒ)などではありません」


 凪は満面の笑みで言い放った。


「彼女は、私たちの大切な、大切な――創造の神(イザナミ)です」


 頭部が、窓に張り付いた。


「――あいにあふれ、かなしみのないせかい……」


「そう、愛に溢れた……」

「悲しみのない世界!」


 役員たちも高らかに宣言する。

 正道の瞳が大きく揺れた。


「……ま、まさか……奈実(なみ)、なのか……?」


 窓の外に、次々と異形の存在が現れる。

 左手、右足、左足――それぞれが人の部位を模した闇の塊。


 ガァン――!


 爆音とともに、社長室の分厚い防壁が外側から破壊された。衝撃波が部屋の装飾品を床に撒き散らす。


「大神社長、ご覧ください」


 いつも凪と敵対していた部門長が、異形へと変貌していく。骨格が軋みを上げて膨張し、筋繊維が隆起する。その肉体はやがて、巨岩のように屈強な肉体を持つ力の神――タジカラオと化した。彼は無言でマガツヒの左脚と融合する。


 続いて、事業部長が、顔面に張りついたような笑みを浮かべたまま、粘土のように姿を歪ませていく。皮膚が割れ、背に炎が噴き上がる。荒れ狂う怒りを身にまとい、背には灼熱の炎剣を掲げる破壊の神――スサノオ。マガツヒの右脚と一体化し、獣のような呼吸を繰り返す。


 そして、マガツヒの右手と一体化した思井茜も姿を表す。知恵の神――オモイカネ。


 最後に、副社長が立ち上がる。その体を静かな光が包み、音もなく銀色の冷たい仮面がその顔に現れた。白銀の冷光を背に纏うそれは――月の神、ツクヨミ。彼はマガツヒの頭部と融合し、凍てついた支配者のようにその場を見下ろす。


 正道は、その光景にただ立ち尽くした。


「……お前たち……全員、すでに……」


 伊豆谷凪が、満足そうに微笑む。


「はい。幹部たちはすべて、マガツヒによってアニマとして生まれ変わりました。皆、仮想の素晴らしさをその身で体感したのです」


「……やはりお前だったのか、伊豆谷。マガツヒを操っていたのは……」


 正道の声が震える。

 だが、凪はあくまで穏やかに、しかし明確な意志を込めて答えた。


「大神社長、何を今さら。当たり前じゃないですか。私はアルカディアの全てを知る者。アルカディアで私ができないことなどありません」


 凪は支配者のように大きく手を広げる。

 

「そう――だって、私がこの世界を創ったのですから」


 マガツヒと融合した四柱の神アニマたちが、凪を中心に集まり、かしづくように控えた。


「アニマなど、取り除こうと思えばいつでも可能でした。そうしなかっただけですよ。その結果は、ご覧の通り。今やアルカディアは人々を包み込み、皆、楽園の中で生きている。なくてはならない――人類の、新しい未来です」


 そして、凪は正道に笑いかけた。


「さあ、大神社長……お義父(とう)さんも……こちら側へ」

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