現実と仮想のインタラクション
「当時、アイノリア日本法人の代表が転落死した件は大々的に報道された。けど警察は最終的に事故として処理したんや」
アイウェア越しに映し出されたエビスちゃんは、いつもの八重より少し高い声で話していた。どこか機械的な抑揚を帯びているようにも思える。
「現場には、聡一郎氏以外の人物は確認されとらん。危険物もなし。防犯カメラでも異常は映ってへん。……過去の記事では、そういうことになっとるわ」
実際、ライフログを見返しても――それを否定する材料はどこにもなかった。
聡一郎は確かに、誰かと話していた。だが、相手の姿はどの映像にも映っていない。
気になるのは不自然な青白い光だけだ。
「もし、あれが新しい機材のテスト中に起きた暴発だったとしたら……やっぱり事故ってことになるのか」
「そういうこっちゃな」
エビスちゃんは軽く肩をすくめるような仕草を見せてから、続けた。
「ユイカのお父さん――総一郎氏の再現データは、今うちで処理中や。なにせ二十年分のログやからな。まだ時間がかかる」
「……そうだよね。ヤエさんありがとう」
「せやけど、研究に関する部分だけは先に抽出して、ざっくりまとめてみたで」
エビスちゃんは、抽出したライフログのイメージを投影した。
「研究内容を一言で言えば――現実と仮想のインタラクションや」
「インタラクションって……たとえば、ゲームコントローラーが震えたり、ARキャラが反応したり、そういうやつだよね?」
「せやな。テーマとしてはそう目新しいものやない」
湊は以前から気になっていた疑問を再び口にした。
「だとしたら……どうしてアイノリア社日本法人の代表が、わざわざこの研究を指揮してたんだろう?」
「せやろ? そこはうちも気になって調べてみたんやけどな」
エビスちゃんは軽く頷くと画面を切り替える。
「この研究、『軍事転用の可能性』があったらしいんや」
「……軍事!?」
結日の声がかすかに震えた。
まさか、父がそんな研究に関わっていたとは――。
「ここ日本では特に軍事に対して世間の目は厳しいやろ? 企業イメージへの打撃がデカい。せやから、社長が自ら極秘で監督していたんやろうな」
「確かにそれなら説明がつくね。一体、どんな内容なんだろう……」
「ただそこが問題や。それらしい研究成果らしいものは、記録には残ってへん。けど……聡一郎氏の最期の映像。それが唯一の手がかりかもしれんね」
聡一郎氏はかなり驚嘆していた。そして、光と共に落下した。
「もうひとつ、重要なことがある。
このプロジェクトに関わってた人物やけどな――」
エビスちゃんが指先で空を弾くと、ホログラム映像が切り替わった。
そこに映ったのは、見覚えのある男の姿だった。
伊豆谷凪。
アルカディア社の開発主任。
「……凪さん」
「せや。そしてな、聡一郎氏と凪氏が言い争っとる場面が、ログに残っとるんや。どうも、アイノリア社の研究データがアルカディア側に流出しとったらしい」
「それって……産業スパイってことか?」
「その疑いは濃厚やな」
エビスちゃんの声がわずかに低くなり、冷ややかな分析官の口ぶりに変わっていた。
「アイノリアの機密があれば、ARクラウド分野で他社を一気に引き離せる。凪はそれを手土産に、アルカディア社に移ろうとした可能性がある。けど――それを聡一郎氏に見抜かれた」
少しずつ、事実がつながり始めた。
「……となると、聡一郎氏の死に、凪さんが関わってた可能性も出てくるってことか」
エビスちゃんはしばし沈黙したのち、ゆっくりと頷いた。
だとすれば、凪はこのライフログデータを、結日や湊に見せたくなかったはずだ。だから、裏で手を回して阻止しようとした……
「この事実、おそらくアルカディアの大神社長は知らないはずだ。こっそり確認してみるよ」
湊は大神正道にこの事実を伝えるため、情報を整理した。
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