結日の記者会見
「……つまり、実体を持って、ということですか?」
正道は頷いた。
「それって……ロボットのような身体を用意するってことですか?」
湊はそこでもう一歩踏み込んで質問する。
「それも、一つの可能性だろう。だが、我が社に、先進的なロボティクスの技術はない。それに、ロボットで故人を完全に再現するには、まだ大きな壁があると考えている。そこで伊豆谷は、別の道を模索している」
『故人を完全な形で蘇らせる』
その言葉に、湊は自然と鈴音を思い浮かべていた。
「伊豆谷は、最愛の妻を亡くしている。それ以来、彼はアニマとしてではなく、実在し触れられる存在として、妻を再現する方法を探している。
……そして、彼のその亡き妻は、私の娘でもある」
「大神社長の娘さんであり、凪さんの妻……」
湊は息を呑んだ。
つまり、凪は正道の義理の息子ということになる。
「彼が技術を追い続ける執念、すべてはそのためだ」
正道の声には、父としての深い痛みが滲んでいた。
だが凪に対する疑念に対しては、私情に流されぬ強い意志も感じられた。
「とはいえ……君の話を聞いて、私も少し気をつけておこうと思う。最近の伊豆谷には、不穏な動きもあるようだからね」
正道は、作戦の詳細は後で共有すると言い残し、軽く手を振って接続を解除した。
……この人は、信用していい。
湊はそう感じた。正道は強い信念を持って、事態を解決しようとしている。
また、模擬戦を通じて、彼と直接つながるパスを得られたことは、間違いなく大きな収穫だった。
◇ ◇ ◇
数日後――
会見場に現れたのは、圧倒的な存在感を放つ少女。
彼女のまわりには、制服に身を包んだ屈強な十数名の若者たち。彼女を護るように控える彼らは――結日親衛隊。結日に忠誠を誓う者たちだ。
フラッシュの嵐の中、結日は颯爽と壇上を歩み、視線を正面へと向ける。その眼差しには、揺るぎない意思の光が宿っていた。
「私の父は、元アイノリア社日本法人代表にして、五年前に他界した――高見聡一郎です」
その名を口にした瞬間、会場の空気が張り詰める。かねてから噂になっていたものの、本人の口から公表されたのは、これが初めてだった。
「そして父は、生前『仮想から現実に影響を与える』研究を指揮していました。それは、現在発生しているマガツヒの問題と、何らかの関連がある可能性があります」
堂々とした声音。明瞭な言葉。会見に集まった記者たちが息を呑むなか、結日は毅然と宣言した。
「よって私は、アイノリア社に対し、父、高見聡一郎のライフログデータの開示を正式に求めます」
おお、という声が会場から湧き上がる。
壇上で語る結日の姿は、凛としていて美しかった。
今や、彼女の影響力は計り知れない。その眩しい美貌と、インターハイ優勝の身体能力に加え、彼女は今や、マガツヒの右手を退けた英雄として名を馳せている。
さらに正道の働きかけにより、警察関係者、法曹関係者までもが彼女をサポートしていた。
「アイノリア社の真摯な対応を期待しています。ですが……もし、開示に応じていただけない場合は――不本意ながら、より強い手段を検討せざるを得ません」
一瞬の沈黙。記者の一人が手を挙げた。
「高見さん、その『強い手段』とは……?」
結日はパチリと瞬きをして、少し目を泳がせる。会見の発表内容は暗記してきたが、質問の回答までは用意していなかった。
「それは、例えば……例えばですけれど……」
結日はある一点に視線を止めた瞬間、表情が一転。突然、壇上から手を振った。
「あっ、ミナト君! ミナト君!」
不意に名指しされた湊が戸惑いながらも顔を上げると、親衛隊たちが一斉に鋭い視線を彼に向けた。
それは、結日が親しげにしているその男は誰だとでも言わんばかりだった。
湊も渋々壇上に上がり、貴社の質問に答えていった。
この緊急会見自体、正道によって仕組まれたものだったが、効果は十分だった。
世論は完全に結日の味方であり、人々の疑惑の目は一斉にアイノリア社へと向けられた。
その後間も無く、アイノリア社は、高見聡一郎のライフログデータ開示を決定した。
『面白いかも!』『続きが気になる』と思った方、ブックマーク登録や↓の『いいね』と『★★★★★』をポチッとしていただけたら、それだけで作者は歓喜に満ち溢れ執筆の励みになります!




