武神ハンティング
――茨城県鹿嶋市、鹿島神宮。
森の奥、湿った空気の中に、ただならぬ気配が漂っていた。
苔むした要石の上に、一体のアニマが座している。
それは、雷と剣を司る武神――タケミカヅチ。
眼光は稲光のように鋭く、黒雲のような髪が風に揺れる。
雲のような白い衣と翠の鎧を纏い、長い剣を脇に差している。
「アルカディア内でも最強クラスの攻撃力を誇るアニマ――タケミカヅチ。油断しないで」
湊の声が、鋭く響いた。上空には雷雲が渦巻く。
「はるばる遠征に来たんや。いくら神クラスでも、このメンバーで挑めばまあ勝機はあるやろ!」
八重の明るい声が、緊張の空気をわずかに和らげた。
「……遠征と言っても、今日も現地にいるのはエビスちゃんなんだね?」
ツッコミを入れつつ湊はニコニコ顔のエビスちゃんを見る。
「うち、アイテム攻撃はできるけど、身体能力はイマイチやろ? で、最近気づいてもうたんよ。アイテムを事前にみんなに配っとけば、うちが現地おらんでもええやんってな。頭脳労働はリモートでできる時代や!」
胸を張って取り繕うエビスちゃんに、湊は付け加えた。
「このところ、八重に直接会ってない気がするんだけど」
「……ま、ちょっとな。うちにも色々用事があるんや」
エビスちゃんはお茶を濁すように笑い、その直後、彼女は誰にも聞こえぬほど小さく、呟いた。
「……正直、普通の顔して会われへんのや……」
沈黙を破るように、武が拳を天へ突き上げた。
「悪いが俺たちは――俺たちのジャスティスのために、あんたを倒すッ!」
すると、要石の上、静かに座していた男が立ち上がる。
その動作だけで、腹の底に響くような鳴動が轟いた。
「我が名を聞きながら、なお挑むか、愚かなる者どもよ。ならば思い知るがいい。武神の力というものを!」
次の瞬間、空が裂け、稲妻が閃く。
大地を揺らす轟音が、戦場に叩きつけられた。
結日と武は、とっさに左右へ跳ぶ。
「最強クラスの攻撃力って言っても、マガツヒみたいに体を消せるわけじゃないでしょ? 正直、そこまで怖くないよ」
そう言い放つ結日だが、その目は慎重にタケミカヅチの動きを追っていた。
武神が大きな剣を振るう。
空間ごと切り裂くような一閃。その刃には、雷がまとわりつき、振るうたび、電撃が四方に放たれる。
「速っ!」
ユイカが身を翻す。刃のような雷が頬をかすめ、それだけでヒットポイントが大きく削られた。
「これじゃ、近づけない……!」
タケミカヅチの周囲では、絶え間なく落雷が降り注いでいる。
「タケル、スズネ! ユイカの援護を! ユイカは二人よりレベルが低い。神クラスの攻撃をまともに受けたらひとたまりもない」
湊の声に、二人は迷いなくうなずいた。
タケルはアニマの体で、稲妻走る戦場を突き進む。タケミカヅチは剣を振りかぶった。
「おりゃッ!」
タケルの正拳突きが、タケミカヅチの斬撃と正面から激突した。
衝撃を受けた雷神は、思わず一歩後退。その巨躯が、揺らいだ。
その一瞬を逃さず、鈴音が舞い出る。
彼女はくるりと回転し、タケミカヅチの頭上高く跳んだ。
「トリプル・アクセル!」
その声とともに、彼女の周囲に現れた刃のリングが展開される。
空中で解き放たれたその光の輪は、降り注ぐ落雷を一瞬遮った。
「……今だね!」
ユイカはその機を逃さず地を蹴る。
ロンダート――からの、後方伸身宙返り。
まるで重力を裏切るような跳躍。
鋭く伸びた脚が、タケミカヅチの頭頂に一直線に突き刺さるように落ちた。
断末魔のような雷鳴が最後に一度だけ鳴り響き、タケミカヅチは膝から崩れ落ちた。
「見事……」
天空に渦巻いていた雷雲が静かに散っていく。
「ユイカ、決まったな!」
湊が称賛の声を上げる。
タケミカヅチの姿が消え失せると、鹿島の森に、再び静寂が訪れた。
「レベルが……30になった! さすが神クラス。経験値が桁違いだね」
ユイカが息を弾ませながら笑顔を見せる。
「でもユイカには、まだまだレベルを上げてもらわないとね。スキルの威力に直結するから」
湊のその言葉に、ユイカは笑顔をやや引きつらせて頷いた。
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