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終焉のアニマ〜ARで蘇った妹は仮想が現実を侵食する世界の召喚神〜  作者: マシナマナブ
第一章 アルカディアとアニマ

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黒いアニマ

 湊は仲間たちと別れ、一人、帰路についた。

 来週に迫るアルカディアeスポーツ決勝戦。その対戦相手は、女子だけで構成されたチーム――『タカミカグラ』。

 そのリーダーを務めるのが、高見(たかみ)結日(ゆいか)

 彼女はただのゲーマーではない。体操競技インターハイ個人総合優勝――そして、次のオリンピックではメダル獲得の期待も高い天才アスリート。

 アルカディアでは、ゲーム戦術や連携も重要だが、AR空間における戦闘では身体能力そのものが勝敗を左右する。

 そして結日(ゆいか)は、その肉体性能において、間違いなく人類最強クラスのプレイヤーだ。


 そんなことを考えながら、湊はコンビニに立ち寄る。

 扉をくぐると、すぐにアニマの店員が明るい声で「いらっしゃいませ」と挨拶を寄越した。

 しかし、湊がアイウェアを外せば、そこには誰の姿もない。

 すでにほとんどのコンビニは、アニマ――AIによる仮想店員に切り替わっている。デジタル決済や商品説明を担当する彼らには、ロボットのような実体も不要だ。

 アイウェア越しに見える彼らとは、普通に会話も成立する。お得なクーポンの使い方から、日常の相談にまで、美しい声音と完璧なスマイルで柔軟に対応してくれる。

 加えて人件費はゼロ。不眠不休で、時には複数人に分身し、クレームひとつ言わずに働き続けてくれる。


「ミナト様、今日もお疲れさまです。最近は夜が少し涼しくなってきましたね。お飲み物は、いつもの冷たい緑茶ラテをご用意できますが……今日は温かいものがよろしいでしょうか?」


 アニマの店員は、まるで人間のように柔らかな笑みを浮かべてそう言った。湊は苦笑しながら温かい緑茶ラテを選び、電子マネーで支払いを済ませる。

 外に出ると、空はすっかり茜色に染まり、ビルの影が通りに長く伸びていた。


 ここは少し寂れた裏通り――だが、アイウェアを通せば話は別だ。

 虚空に浮かぶ立体広告が、まるで祭りのように賑わっている。

 アニマの街頭ナビゲーターが商品を紹介し、通販グッズが光をまとって回転し、


『美味しい笑顔、ここにあります』

『高級感あふれるひとときを、あなたに』


 ――そんなキャッチコピーをささやくアニマたちが空間に溢れている。

 どの商品も興味があればその場ですぐに購入でき、翌日には自宅に届く。もはや、現実の店舗など必要ないのかもしれない。

 そのとき、ふと、耳に届いた歌声があった。


『もう二度と会えないけど

 君の声を探してしまう

 街の喧騒に耳をすませる僕は

 届かないってわかっていても

 歌い続けてしまうんだ』


 路上の一角――少年がギターを抱え、切ないメロディーを歌っていた。

 これは『シャドウアニマ』。誰かが登録した自分のARの分身が、代わりに路上ライブをしているのだ。

 本人は体力も時間も使わず、家で寝ているだけで、分身はエンドレスのリピートライブ。

 ギターの演奏は正確で、声も完璧。……本当に本人の声かどうか、その保証はないけれど。

 それでも、その歌詞と旋律は、湊の胸を締めつけた。


 ――鈴音。


 思わず、湊はわずかながらチップを提供した。

 それは報酬というより、心のどこかを震わせてくれた者への、イイネのスタンプのようなものだ。


 その瞬間だった。

 湊は妙な感覚を覚え、アイウェアを外した。


 ……何もない。

 賑やかな広告も、ライブの熱も――すべてが一瞬で消え失せた。

 そこにあったのは、街灯がちらつく寂れた通りと、自分ひとりだけの静けさ。他には何もない。


 再びアイウェアを装着すると、風景は元に戻る。

 ライブ、広告、キャッチコピーを囁くアニマたち。仮想の光と音に包まれた賑やかな世界。

 けれど、湊は気づいた。

 その中に、ひとつだけ異質なものが混ざっていた。


 ――黒い人影。


 まるで、光を吸い込んでしまう穴が空いたような黒。

 人影の顔には目も口もなく、どこを見ているのかも分からない。


「……黒いアニマ」


 あの時、武が言っていた。


「そいつに攻撃されると、リアルで怪我するらしい」


 現実に干渉する、仮想の怪物。タケルの話では幼児ほどのサイズと聞いていたが、この人影は、自分より大きいかも知れない。


「――あ――あぅ――ぁし――な――ぁい……」


 黒いアニマが何かを呟いている。

 ひどく掠れ、壊れかけた古いラジオから漏れ出すような声。女性の声のようにも聞こえた。


 やがて、その異形はAR広告に手をかけた。その手が、ぬるり、と広告をつかむ。


 ――ぐしゃっ。


 黒いアニマは、現実空間の広告に手をかけ、砕き、口に運んでいる。

 やがてそれは他のアニマにも手にかけた。


『美味しい笑がァ……ぉッッッ』


 文字も音声も、ぐちゃぐちゃに壊れていく。

 アニマを、食べているようにも見える。いや、あれは侵食。喰らって、取り込み、同化している。

 そして湊は気づいた。

 さっきより……黒いアニマは少し大きくなっている。


『もう二度と会えない、ア、会えナハヒケ……ケ……ォォォ……』


 次に異形は路上ライブのシャドウアニマにも手をかけた。

 シャドウアニマの姿が奇妙に変形し、細く捩れたパンのようになって取り込まれていった。


 湊も戦慄を覚える。これは明らかにまともなアニマではないし、システムバグというレベルでもない。


「きゃあああっ!」


 突然、悲鳴が響いた。

 通りの向こうで、ひとりの女性がしゃがみこんでいる。

 彼女のアイウェア越しにも、あの黒い怪物が見えているのだろう。


 黒いアニマが、振り向く。

 目などないはずなのに、それは――まっすぐ彼女を見ているようだった。

 そして、ゆっくりと、確実に、女性に近づいていく。

 女性は、足がもつれ、膝が震え、逃げるどころか、その場から一歩も動けない。


「……ったく。俺も、武のことを悪く言えないな」


 湊は反射的に、彼女の前に飛び出した。その異様な存在から彼女をかばうように立ちはだかる。

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― 新着の感想 ―
 面白いです。どのジャンルに分類するかで悩んでます。読む前は俗に言う「リアルLitRPG」かと思いましたが、読んでみるとその一歩手前ですね。バーチャル空間やゲーム世界を舞台にするLitRPG。ゲームの…
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