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終焉のアニマ〜ARで蘇った妹は仮想が現実を侵食する世界の召喚神〜  作者: マシナマナブ
第二章 アスリートとなった令嬢

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触れられた奇跡

 マガツヒの切り離された四本の指が、静かな音を立てて床に転がる。


「そんな……ユイカ様のアイウェアは、確かに壊したはず……」


 その光景を前に、オモイカネが初めて動揺を見せた。


「俺のアイウェアから映像出力チップを外して、ユイカのものと付け替えたんだ」


 湊が前に出る。エビスちゃんの指示の下、見つけた工具を使って壊れた部品を交換したのだ。


「じゃあ、ミナト、お前は――」


「ああ。今の俺に、お前は見えていない。でもメインチップは生きてる。鈴音は、俺の視界がなくてもある程度は自律で動けるからね」


 状況を理解したオモイカネが、口惜しそうな諦めの表情を浮かべる。


「なるほど……。闇の干渉がここまで損なわれ、ユイカ様が万全となれば――分が悪いのはこちらですか……ならば、今回は、引かせてもらいましょう」


 するとオモイカネの輪郭が崩れ、マガツヒとともに闇の中へと消えていく。


「えっ、逃げちゃうよ!?」


 鈴音が叫ぶと、結日は力なく首を振る。その瞳には、哀しみが宿っていた。


「いいの……。これ以上戦ったら……私がアカネを完全に壊すことになってしまう。そんなことは――したくないの」


 闇の奥から、声が返ってくる。


「ユイカ様。次こそ、あなたをアニマの側へ……お迎えします」


 その声が消えると同時に、ようやくこの場は落ち着きを取り戻した。

 すると結日は糸が切れたようにその場に膝をつき、長く息を吐いた。


「……終わったんだね」


 その声は小さく、どこか儚かった。


「ユイカ、大丈夫?」


 湊が駆け寄り、そっと手を差し伸べた。

 結日は小さく頷きながらも、体はまだ少し震えていた。


「私……大丈夫だよね? ちゃんと、まだ体あるよね……?」


 結日はおそるおそる自分の手を見て――そして、唐突に、湊に抱きついた。


「えっ……?」


 彼女の体温は、温かかった。

 結日は涙をにじませ、安堵を感じさせる声で笑った。


「触れられた……私、アニマになってない。良かった……本当に、良かったよ……」


 湊は少し戸惑ったが、すぐに彼女を受け入れ、その頭を優しく撫でた。


「ミナト君、ありがとう。私が見えなかったとき……ずっと守ってくれたよね。あのとき、本当に……頼もしかった」


 結日は湊の胸に顔を埋めたまま呟いた。湊が答える。


「……最強戦力ユイカを失うわけにはいかないからね」


「もう、そういう言い方……」


 結日はくすっと笑い、顔を上げた。

 近い距離に顔があった。

 結日は息を呑み、小さくささやいた。


「私……ミナト君のこと、好きになっちゃった」


 唐突に出たその言葉は周りに溶けるように響いた。

 二人の鼓動は早くなり、同じリズムで重なった。


「ありがとう。でも、俺なんて、ユイカよりずっと弱いし……ユイカの周りには、君を特別に思ってる人がたくさんいるのに……」


 予想もしていなかった告白に、湊は反応に困りながらも、穏やかに返した。


「うん、みんな私を特別扱いするけど……ミナト君は、いつも普通に話してくれる。そこが、いいんだよ」


 結日は無邪気な笑みを見せて答えた。

 湊は照れを隠すように、彼女の背中にそっと手を伸ばした。


「私ね、最初は、ミナト君って仮想キャラが大好きで……本物の人間より、そっちの方が大事なんだと思ってたの。でも、それは本当の妹、鈴音ちゃんだったからだよね。

 そして私のことも……同じように守ってくれた。それが、すごく嬉しかった」


 ユイカは再び湊の背中に回した両手に力を入れた。そしてその温度を胸の奥で受け止め、そっと目を閉じた。

 温かく、このまま時間が止まってほしいと思うほどの安心感。

 その時。


「……お二人さん?」


 不意に、不機嫌な声が割り込んだ。


「うち、忘れられてるよな? 一応、まだ通話中やで?」


 ニコニコ顔のエビスちゃんが陽気に浮かんでいた。


「可愛いエビスちゃんのこと、もうマスコットキャラとしか思ってへんかもしれへんけどな、一応うち、ここにおるんやでー」


「鈴音もいるからね、ミナ兄ぃ……。あたしにはちょっと刺激が強すぎるんだけど」


 目を細め、鈴音がほんのり照れたトーンで言う。

 顔を真っ赤にして慌てる二人。

 ようやく離れると、互いに照れ笑いを浮かべた。


「ああ、もううちは帰るからな。あとはお二人で好きにしたらええ。やけど早めにタクシーでも呼んで、暗くなる前には帰るんやで。健全な少年少女の諸君」


 そう言って、エビスちゃんは手を振り、光の粒となって消えていった。

 残された湊と結日は顔を見合わせ、どちらからともなく笑った。


 ――そして、


 デスクに座る八重は、呆然としていた。

 先ほどまでニコニコ笑っていたエビスちゃんとは違い、魂が抜けたような表情だった。


「……あかん。あれは本気でシャレにならんわ」


 そう呟く声は震えていた。八重はにじむ涙をそっとぬぐう。


「計算高いうちが、ただの善意で男にあれだけ貢ぐはずないやろ……。ミナトのやつ……」


 涙が、ぽとり、ぽとりとデスクの上に落ちる。

 静けさの中で、八重は唇を噛みしめた。


「もう……全部、返してもらわなあかんな。全部や……」


 それは心の奥底から汲み出されたような――どうしようもなく切ない響きがあった。

二章はここまでです。読んでくださり、ありがとうございました。

またプロット切れのため、更新を少しお休みさせてください。



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うむ 良きかな 人の思い輝きとどす黒い想い わくわくすっぞ
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