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終焉のアニマ〜ARで蘇った妹は仮想が現実を侵食する世界の召喚神〜  作者: マシナマナブ
第二章 アスリートとなった令嬢

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巫女神の鈴の音

 ――そして、舞台は再び戦場へ。


 既にビルの屋上はほとんど削り取られ、九階の天井からは大きな空が覗いていた。

 崩れたコンクリートの向こうには、オモイカネとマガツヒが待ち構えている。

 その前に、結日と鈴音が立つ。


「ユイカ様、お戻りになるのをお待ちしておりました。……とても潔く、美しいお姿です」


「アカネ、私はアニマにはならないよ」


 強力な敵を前にして、結日の声は澄み切っていた。


「しかしながら、それでは私はユイカ様に永遠に触れられません」


 オモイカネの声が深い哀しみを帯びる。


「大丈夫。アカネを元に戻す方法を、必ず見つけるから。だから……もう、やめようよ」


 だが、揺らめく闇を宿すオモイカネの瞳は変わらなかった。


「それは叶いません。ユイカ様だけでなく、すべての人間はいずれアニマとなる定め。それこそが、カナシミノナイセカイ……」


 オモイカネの背後の闇がざわめく。


「そして、ここから逃げることもできません。残念ながらアニマの見えぬユイカ様には、抗う術はないのです」


 結日は声のする方を向き、宣言した。


「そんなことない。私は……今から達人になるの。だから、見えなくても――負けない」


 そこで鈴音がくるりとターンした。


「そしてあたしは、ダンシング・ブレード。ユイカ姉ぇが闇の中なら、闇を照らす灯火になるよっ!」


 その声が響くと同時に、鈴音はオモイカネに向かって滑り出す。彼女を突き刺すようにマガツヒの指が伸びた。

 鈴音はスピンでそれを弾き返し、衝突音と鈴の音が重なって響く。


「そこっ!」


 結日の足が閃光を描き、旋回と同時に放たれた蹴撃が闇を裂いた。

 マガツヒの影がわずかに揺らぐ。


「どう? 今の私は――気配が読めるの」


 だが、オモイカネは動じることなく、冷ややかに答えた。


「ユイカ様とあろう方が『気配を読む』などとおっしゃるとは。いわゆる気配――人が背後を察する感覚というのは、気流や音の反射を無意識に捉えているに過ぎません。しかし我らアニマには、そのような現象は起きません。すなわち、気配など、感じるはずはないのですよ」


 そのまま、魔法攻撃へと移る。


「多重詠唱――『黒炎』、そして『烈風』。同時に放てば――『黒炎放射』!」


 黒い炎が唸りを上げて襲いかかる。


「鈴音ちゃん!」

「こっちだよっ!」


 鈴音は跳び出し、光の粒を散らしながらスピン。シャンシャンと鈴の音を立てる。

 結日はその方向に走る。

 先ほどまで彼女がいた場所を、黒い炎が突き抜けた。


「なるほど……音ですか」


 オモイカネが唇の端をゆがめる。


「アメノウズメ。あなたの役目は、音を立てて場所を知らせること。そうですね?」


 その声と同時に、黒い炎がいくつも生まれ、ゆっくりと浮かび上がった。


「来る……!」


 放たれた黒炎が爆ぜた。

 轟音と、シャンという鈴の音が入り混じる。


「……っ、これじゃ、音が……!」


 鈴音が苦しげに声を上げた。

 回避だけで精一杯。敵の場所も安全地帯も示せない。

 その場を動けない結日に、黒炎の一つが一直線に迫った。


「ユイカ姉ぇっ!」


 次の瞬間、鈴音が飛び込む。

 その小さな身体が結日をかばい、闇の奔流に弾かれた。

 そのまま床を滑り、壁に叩きつけられる。


「鈴音ちゃん!」


 ――鈴の音が、途絶えた。


「……静かになりました。これで、終わりですね」


 オモイカネの優美で残酷な声が、ゆっくりと近づいてくる。


「はっ!」


 結日は声のする方へ、反射的に蹴撃を放つ。だが、空を切った。


「おしゃべりも終わりにしましょう。静寂の中で、ユイカ様は美しいアニマとなる」


 結日は立ち尽くしていた。鈴音は動かず、もはや何の物音もしない。

 もちろん気配も感じない。


 オモイカネは結日の背後に音もなく忍び寄っていた。

 そして、マガツヒの左手が、ゆっくりと伸び、結日の身体を包み込もうと迫る。


 その時――。


「――はっ!」


 閃光が走った。咄嗟の伸身宙返り。

 結日の脚は輝く刃のように、マガツヒの左手を、人差し指の根本から手首へと真っ二つに切り裂いた。

 沈黙のあと、結日が静かに息を吐き、申し訳なさそうにオモイカネを見つめた。


「ごめんね、アカネ。……実は、全部見えてたの」

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