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終焉のアニマ〜ARで蘇った妹は仮想が現実を侵食する世界の召喚神〜  作者: マシナマナブ
第二章 アスリートとなった令嬢

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ウィザード軍師再び

 翌日――。

 都心の中心にそびえ立つ株式会社アルカディア本社ビル。雲に届くのではないかと思えるほどのその建物は、全面が磨き上げられたガラス壁で覆われ、真っ青な朝の空を映し出していた。

 その周囲を螺旋状に取り囲むAR広告群は、プロモーションを超えてもはや芸術的であり、まさにこの都市の象徴だった。

 思わず結日が息を呑む。


「これ……全部、アルカディアのビルなの!?」


「都心の一等地に、これだけの規模でだ。相当儲けてるんだろうね」


 湊も見上げながら答える。


「アイノリア社の本社よりも立派に見えるよ」


「アイウェアはもう世界中に普及して、成長も鈍化してるからね。一方で、最大シェアのARクラウドサービスを提供しているアルカディアは、まだ拡大の真っ最中だ」


 湊の説明に、結日はうなずきながらも複雑な表情を浮かべた。


「……すごいけど、一体何でそんなに稼いでるんだろうね?」


「一番大きいのはデジタルツイン事業だろうね。この見渡す限りのAR広告は、みんなアルカディアが管理してる。広告を出すにはデジタルツインの土地を買うか、レンタルする必要があって、需要のあるエリアほど土地の価値が上がる」


 結日の疑問に湊は知識を披露した。


「とは言っても、本物の土地ではなく、座標情報だけのデータなんだけどね。それなのに、現実と同じような地価が生まれてるんだ。仮想の第二の地球を勝手に作って売りさばいてんだよ」


「それって、考えてみたら相当悪どい商売じゃない? ……アイウェア作ってるアイノリア社が聖人に思えるくらい」


 結日の皮肉めいた言葉に湊が笑い返したそのとき――。


「――アマノ・ミナト!」


 聞き覚えのある声が響き渡った。


「いつからあなたが結日様と、そんなに親しげに言葉を交わせる立場になったのです? 己をわきまえなさい!」


 唐突な叱責に、湊が振り返ると、そこに立っていたのは、意外な人物だった。


「……アカネ?」


 それは先のマガツヒとの戦いで肉体を失い、アニマとして存在するチーム・タカミカグラの思井茜だった。


「ナギさんが呼んでくれた人って……アカネだったの!?」


「ユイカ様。長らく姿をお見せできず、申し訳ありませんでした」


 茜は深々と頭を垂れる。


「このアニマの体の特性を活用し、私は独自に――過去の事件の真相を追っていたのです」


「過去の事件って、もしかして、父の……」


「まさしく。私があなたに仕えるのは、もとはといえば私の思井家が高見聡一郎様に多大な恩義を受けたから。そのお陰で私の父は、アイノリア日本法人の取締役の一人にまでなれたのです。そして……聡一郎様が亡くなられた後は、結日様ご自身の魅力に惹かれ、変わらぬ忠誠を誓って参りました」


 茜は真っ直ぐな瞳を結日に向け、力強く宣言した。


「ナギ氏より伺いました。ユイカ様が、聡一郎様のデータを求めておられると。お任せください! 私の父の権限ならば、アクセスできるはずです」


「……アカネのお父さんの権限で、父のライフログデータに……」


「可能です。ただし、これは正規の手段ではありませんので、セキュリティ上、データを参照するにはアイノリア社内システムへの直接アクセスが必要となります。また、それはアイノリア社の事業所内でしか行えません」


「それじゃ、やっぱり難しいのでは……」


 結日が困惑するような表情を見せても、茜は揺るぎなく結日を見据えたままだった。


「ですが――今は社員のほとんどが不在のサテライトオフィスがあります。そこなら……気づかれずに作業ができるでしょう」


「でも……そんなことをしたら、アカネの家に迷惑がかかるんじゃ……」


「何を仰います」


 茜は寸分の揺らぎもない声で言い放った。その瞳には、燃えるような忠誠心が宿っている。


「ユイカ様のために身を尽くすことこそ、我が家の誇り。迷惑なことなど、あろうはずもございません」


 その言葉に、結日は意を唱えることはできなかった。今もなお自分のために動こうとするその姿勢が、痛いほどに伝わってくる。


 こうして湊たちは、茜の提案に従い、彼女が手配したタクシーに乗り込み、郊外にあるアイノリア社のサテライトオフィスへと向かうことにした。


 タクシーの窓越しに流れる街並みは、都会の喧騒を離れるごとに少しずつ色を変えていく。

 高層ビルが消え、代わりに低い住宅と農地がぽつぽつと現れ始めた。


「ずいぶん郊外にあるんだね」


 時刻はすでに昼下がり。結日が窓の外を眺めながらつぶやく。


「もともとは開発拠点として建てられた場所だったそうです。コストを優先した結果、立地が悪く、今ではほとんど稼働していません」


 茜は穏やかに補足した。アイノリア社の内情に精通しているかのように。


 やがてタクシーが静かに停まる。

 降り立った三人の前に現れたのは、くすんだ白い九階建ての建物だった。

 窓ガラスには薄く埃が積もっている。


「……ここが本当に、アイノリア社のオフィスなのか?」


 湊は眉をひそめた。

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