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終焉のアニマ〜ARで蘇った妹は仮想が現実を侵食する世界の召喚神〜  作者: マシナマナブ
第二章 アスリートとなった令嬢

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闇の痕跡

 結日はそう言うと、アイウェアを操作し、父・聡一郎のデータを呼び出した。


「ユイカのお父さんの記録……思ったより少ないな。ハクの方が圧倒的にデータ量が多いくらいや」


 共有されたデータを見て、八重が苦い表情を浮かべる。


「父は多忙だったから。家にいないことも多かったし……」


 結日は寂しそうに目を伏せた。


「正直、この程度のデータじゃ人格の再現は難しいやろうな。肝心の研究内容についても、ほとんど残ってへん。悪いけど……これでは無理や」


 八重の言葉に、結日の肩が小さく震える。


「……そうだよね」


 沈黙を破ったのは湊だった。


「ユイカのアイウェアじゃなくて……お父さん本人のライフログデータは? そっちは残ってないの?」


「父も普段はアイウェアをつけてたよ。でも……事故の時に壊れちゃった」


「まあ、高所からの転落事故ならそうやろうな……」


「だけど、ライフログそのものはアイウェア本体じゃなく、クラウドに保存される仕組みだろ? もしそのデータにアクセスできるなら、あるいは……」


 湊が希望を捨てずに提案する。


「けど、ライフログにアクセスできるのは本人だけやろ? 虹彩認証で初めて開ける仕組みや。勝手にデータを見るのは身内でも不可能やで」


「……そう、だよね」


 八重は少し考えてから顔を上げた。


「……けど、ライフログのクラウドを管理してるのはアイノリア社や。だったら、そっちを当たってみる手はあるかもしれへん」


「……アイノリア社に直接」


 結日は小さく繰り返し、やがて決意を込めて頷いた。


「分かった。父の昔の知り合いを当たってみるよ」


 そう言う彼女の横顔には、強い光が宿っていた。


   ◇ ◇ ◇


 先日のマガツヒの右腕との死闘から日が経っても、鈴音の体にはまだ痕跡が残っていた。完全に闇の侵食を払うことができないのだ。


「鈴音、その後の具合はどうだ?」


 湊が心配そうに声をかける。


「ミナ兄ぃ……あたしはもう人じゃなくてアニマだから、痛みも苦しみもないよ。でも――胸の奥に、自分じゃない何かが入り込んでる気がする……」


 鈴音はどこかぼんやりした調子でつぶやいた。


「……黒いアニマの一部が、まだ残ってるってことか」


「そうだと思う。そして――変な話だけど、その影が考えてることが、少しずつ……頭に流れ込んでくるんだよ」


 鈴音の瞳に一瞬、黒い光が走る。


「マガツヒの思考が……分かるのか?」


「うん。でもはっきりとじゃないよ。分かるのは強い感情だけ。あれは……ただ暴れたいわけじゃないみたい。呪いにも似た深い衝動だよ。あれ――彼女は悲しみを、この世界から消し去ろうとしている。彼女なりの救いの形……」


 鈴音は遠くを見るように、頭のイメージを言葉にした。


「……人をアニマに変えるのが、救いだって言うのか」


「そう。黒いアニマからすれば――肉体は檻。仮想の存在に変えることは魂の解放であり、救済なんだよ」


「……つまり、あいつなりのジャスティスってわけか!」


 武の目が妙に輝いた。


「じゃあ……あいつが街中のARオブジェクトを次々に吸収してるのは、何のためなんだ?」


 鈴音は目を閉じ、額に手を当てた。


「……あれは、学習。世界を知るための学び。彼女はまだ生まれて間もないみたいだから」


「生まれたばかりの赤ん坊が……あれなのかよ」


 武の声には、皮肉と戦慄が入り混じっていた。


「あれをこのまま放っておいたらどうなっちまうんだ?」


 湊の脳裏に、数日前の光景がよみがえる。初めてマガツヒと遭遇したとき、あの時の大きさは、人と同じ程度だった。

 だが、吸収を重ねるたびに肥大化し、今は腕だけでも人間を軽く超える巨躯と化している。


 もしもあの部位たちが再び融合したとしたら――想像を絶する巨人が姿を現すことになる。

 そして、マガツヒの成長はまだ止まっていない。


 やがてはすべての人々を、すっかりアニマに変えてしまうのではないか。そんな悪夢めいた未来が湊の脳裏をよぎった。

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