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終焉のアニマ〜ARで蘇った妹は仮想が現実を侵食する世界の召喚神〜  作者: マシナマナブ
第二章 アスリートとなった令嬢

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触れられぬ再会

「正確に言うなら……今年他界した妹の人格を再現し、アニマに移植したんだ」


 湊の声は静かだが、その奥には強い想いがにじんでいた。


「そ、そんなこと……できるの?」


 結日の声は驚きに揺れていた。


「俺たちは毎日、アイウェアを身につけて暮らしてる。見たもの、聞いたもの、会話や行動のすべてがライフログとして蓄積されているからこそ、過去が検索できる。そのライフログの膨大なデータを使ったんだ」


「でも、それって……勝手に引き出せるものなの?」


「もちろん鈴音の同意は得ていた。生前に了承をもらい、引き出したんだ。そして八重にも協力してもらい、ライフログのデータを学習して、鈴音の思考を再現するAIを作った」


「まあ、一から作ったわけやない。対話型AIに、鈴音のスキンをかぶせる、そういう方法や」


 八重が補足する。


「……アルカディアって、そんなことまでできるんだ……」


「もちろん、そんな簡単な話やないで」


 結日は思わず息を呑む。その横から八重がさらに口を挟んだ。


「キャラメイクのメモリには容量制限がある。標準の容量じゃ人格を再現するほどのデータは入れられへん。せやから、課金や。鈴音ちゃんのライフログを全部入れられるまで課金してメモリを拡張したんや。その膨大な費用、うちが大半を負担したんやで」


「ああ……そうなんだ。当時アルカディア長者番付で首位だったヤエの資金の大半を使わせてもらった」


 湊は軽く頭を下げ、八重に感謝を滲ませる。


「アメノウズメの体を得たことで、鈴音はアルカディア内で自由に動けるようになった。触れることはできないけど」


 湊は過去の瞬間を思い出すように小さく笑った。


「それに、もうひとつ発見があった。俺が鈴音を召喚アニマとして操る時、これまでになかったレベルのシンクロができることが分かったんだ。もともと俺の脳波強度はB+で悪くなかったんだけど、鈴音と繋がるとS+まで跳ね上がる」


「兄妹の絆やな。ま、うちが出した莫大な金も、無駄やなかったわけや」


 八重が冗談めかして笑う。からかい半分、誇らしさ半分といったところだ。


「……話だけ聞くと、信じられないようなことばかり。でも、実際に鈴音ちゃんを目にすると、嘘だとは思えないね」


 結日は小さく息を吐き、湊へ視線を移す。強張っていた声が、わずかにやわらいでいた。


「それじゃあ、もしかして……他の人や動物も、同じようにアルカディアで再現できるってこと?」


「同じ方法を取れば、できるはずだ。ただし、ライフログのデータにアクセスできることが条件だけどね」


 湊は落ち着いた声で答える。


「じゃあ例えば……」


 結日はそっと視線を落とし、指先でアイウェアを操作した。空中に浮かび上がったのは、一匹の白いシェパード。

 映像を見つめる彼女の瞳に、懐かしさと切なさが滲む。


「一昨年、死んじゃったんだけど……名前はハク。私が生まれた時からずっと一緒にいた子。この子を再現することも、できたりする?」


 結日は投影されたハクにそっと指を伸ばし、愛おしそうに指先で撫でた。


「ユイカのライフログから、そのハクのデータを集めて使うってことだね? 多分できると思うよ」


「そうやな。犬の再現は人間の思考を再現するよりはるかに楽や。メモリもそんなにいらんやろな」


 湊が柔らかい笑みを浮かべて頷くと、八重もそれに同意する。


「ユイカの大切な犬なんだろ? やってみるか?」


 湊が静かに問いかける。

 結日はしばらく画面を見つめ、深く息を吸い込む。そして、決意を固めるように頷いた。

 それから、アイウェアを操作して、自身のライフログからかつての飼い犬、ハクに関するデータをすべて提供した。


 翌日。

 アイウェア越しの世界に、一匹の白いシェパードが駆け回っていた。


「……この走り方、この仕草……間違いなく――ハクだ」


 結日の目が大きく見開かれる。愛おしさがこみ上げ、胸の奥が熱くなる。

 次の瞬間、瞳から大粒の涙があふれ出した。


「ハク……ハクだよ……元気な頃のままの……ユイカだよ、わかる?」


「ワフッ! ワフッ!」


 白いシェパードは全身で喜びを表すように駆け寄り、結日の足元に身体を擦り寄せてきた。

 結日は震える手を差し伸べる。けれど、その手は虚空をすり抜ける。


「ハク……会いたかった……でも……触れないよぉ……」


 触れられないとわかっていても、結日は手を差し伸べずにはいられなかった。

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