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終焉のアニマ〜ARで蘇った妹は仮想が現実を侵食する世界の召喚神〜  作者: マシナマナブ
第二章 アスリートとなった令嬢

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終焉の足音

 アイウェアに一斉に流れた緊急会見の通知。大企業が事前の告知もなく突然に会見を開く……それは新サービスの発表などではなく、何かただならぬことが起きているからに違いない。


 通知から会見映像に切り替えると、画面に現れたのは株式会社アルカディアCEO、大神(おおがみ)正道(まさみち)


「今日は皆さんに、どうしてもお伝えしなければならないことがあります」


 普段の彼は、豪胆な笑みと熱のこもった言葉で人々を魅了する男だ。だが、この日の正道には笑顔ひとつなく、声色にも張り詰めた緊迫感が宿っていた。


「これは信じられない話に聞こえるでしょう。ですが……今、現実に影響を与える黒いアニマが出現しています。この黒いアニマに攻撃されると、怪我を負うだけではなく……人間が実体を失い、仮想の存在へと変質してしまう事例が報告されています」


 あまりに突飛な発表。

 会見を視聴する多くの人々は、これは何かのイベントの前振りか何かだと思ったに違いない――この場で黒いアニマを直に目撃した者たちを除いては。

 だが正道の真剣な眼差しは、それが冗談ではないことを物語っていた。


「私たちは、この恐ろしい黒いアニマを、『マガツヒ』と名付けました。厄災をもたらすもの、という意味です。そして、このマガツヒを視認できるのは、アルカディアに接続している者のみです。他社のARクラウドでは見えません。しかし――見えなくても、マガツヒは現実に干渉し、大きな被害をもたらすのです」


 重苦しい沈黙が映像越しに伝わってくる。会見の記者たちも誰も笑う者はいなかった。


「私たちも、この異常事態の原因を調査中です。新しい情報が得られ次第、速やかにお知らせします。改めて警告します。黒いアニマ、マガツヒには、絶対に近づかないでください」


 そこで正道のスピーチは終わり、会見は質疑応答に移った。だが、現場を知らぬ記者たちに、この惨状の切迫感が伝わるはずもない。


「人間が実体を失うというのは、アルカディアにのめり込みすぎるという例えなのでょうか?」

「現実への影響というのは、株価が変動することを指しているのでしょうか?」


 飛び交うのは、的外れな問いばかり。

 やがて会見は幕を閉じた。


 しかし、人々はすぐに思い知ることになる。

 これがどれほど異常で、どれほど恐ろしい事態なのかを。


 各地に次々と現れるマガツヒ。

 暗黒の左手、右足、左足、そして頭部。

 バラバラに現れたそれらは、貪るようにアニマを喰らい、街を破壊し、そして人々から肉体を奪い去っていった。

 マガツヒたちは地中から突如として出現し、暴威を振るっては、また地の底へと沈んでいく。

 いつ、どこに現れるのか、誰にも予測できない。

 人々はすぐに、アルカディアに接続しなければ外を歩くことさえできなくなった。


 これはもうゲームではない――それは誰の目にも明らかだった。


 奇しくも、あっという間に、アルカディア以外のARクラウドは利用者を失い、唯一『マガツヒ』を視認できるアルカディアが市場を独占することになる。

 他のARクラウドにもはや打つ手はない。

 これまでゲームに興味のなかった者たちも、アルカディアを始めざるを得なかった。


   ◇ ◇ ◇


 マガツヒの右腕を撃破した湊たちは、チーム・ヤタガミの拠点――実際には湊の家に集まっていた。

 だが、結日の機嫌はまだ晴れていなかった。


「サモナーの人って、みんなそう。カエデもそうだけど……仮想のキャラクターに入れ込みすぎなの」


 その声音には苛立ちと悲しみが混じっていた。


「ずっと育ててきて、思い入れがあるのはわかるよ。でも、ミナト君、自分を犠牲にしてまで守ろうとするのはおかしいよ」


 彼女の怒りは単なる心配だけではない。

 実体を失ったアカネへの痛みと、仲間を離脱したカエデの影が、彼女の胸に残っていた。


「ユイカ、前も言ったけど、鈴音ちゃんは特別なんや」


 八重が口を挟む。


「……ええ、ミナト君の特別なキャラ、なんでしょ? ミナト君が作り込んだ分、思い入れが深いのはわかる。理想の子なんだよね。そうだとしても、仮想の子が自分自身より大事なはずがないよ」


 結日は視線を落とし、押し殺すように言葉を重ねた。


「そうやなくて……」


 八重が言いかけた瞬間、湊が静かに手を挙げて遮った。


「……俺から話すよ。ユイカには、伝えておかないといけない」


 湊は真剣な面持ちで結日を見、言葉を絞り出した。


「鈴音は――俺の、実の妹だ」


 結日はきょとんと目を見開き、そのまま言葉を失った。

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