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終焉のアニマ〜ARで蘇った妹は仮想が現実を侵食する世界の召喚神〜  作者: マシナマナブ
第二章 アスリートとなった令嬢

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アルカディアの英雄たち

 それでも湊と鈴音は思考を止めなかった。

 湊が咄嗟にコマンドを送る。


「……トリプル……アクセル!」


 鈴音は唇を震わせながらも残る力を振り絞り、高速回転の斬撃を放った。

 その光の輪舞が閃光の刃となり、自分に刺さったままの細く伸びた闇の薬指を切り裂く。


「あかん、のろまなうちのせいで……えらいことになった!」


 八重は悔しげに叫びながら、『アポロンの灯火』を解き放つ。

 切断された薬指は光に包まれ、じたばたと蠢いた末に塵となって消滅していった。


「ううっ……!」


 だが、鈴音の身体を侵す闇は完全には払えない。彼女は膝をつき、そのまま力尽きるように崩れ落ちる。


「鈴音っ!」


 湊は反射的に駆け寄り、支えようと腕を伸ばした。だが現実には存在しない鈴音を抱きとめられるはずもなく、指先は虚空をすり抜ける。


 その隙を、三本指となった闇の右手は逃さない。親指と人差し指をのばし、鈴音をつまみ取るように迫ってきた。


「戻れ、鈴音――!」


 湊は慌てて召喚解除コマンドを指示するが、まだ大技のトリプルアクセルを放った直後。コマンド待ち時間の解除がわずかに終わらない。


 湊は迷わず身を投げ出し、鈴音の前に立ちはだかった。迫る闇。瞳に宿ったのは恐怖ではなく、ただひとつ、鈴音を必ず守るという決意。


「何やってるの!」


 叱責と同時に、眩い閃光が弧を描く。光の槍を思わせる両足が、闇の二本の指をまとめて吹き飛ばした。光の翼を背に、結日が伸身宙返りを食らわせたのだ。


「自分の体でアニマを庇うなんて、もう信じられない。普通、逆でしょ!」


 結日の怒りを含んだ声が胸を撃つ。


「ユイカ……助かったよ」


「助かった……じゃない!」


 結日は一歩踏み込み、湊を強く睨みつけた。


「分かってる? あれに触られたら、あなたはただでは済まない。あなたの体も消えるのよ!」


「ああ……分かってる……」


 湊はうつむき加減に唇を噛む。


「分かってないよ! 何が一番大事か、ちゃんと考えて!」


 結日の声が鋭く響く。瞳の奥には怒りと共に、滲む涙が光っていた。


「まあまあ、そんな怒らんといてや。ミナトにとって鈴音ちゃんは、ちょっと特別なんや」


 張り詰めた場の空気をやわらげるように、八重が軽くなだめる。


「それより今は、あの黒いのを片付ける方が先や。鈴音ちゃんは負傷しとるけど、召喚を解除したら光の加護まで消えてまう。せやから……今倒すしかない」


 八重の言葉に、結日はまだ何か言いたげだったが、視線を正面へと向け直す。

 漆黒の右手、残るは中指のみ。虚空を突き立てるその形は、不遜な挑発のように見えた。


「……おい、この手のポーズ、なんか癪に触るな」


 武が苦い顔をしながら吐き捨てる。


「右手も指一本きりとなれば、もうできることも少ないだろう。だが、肉体のない俺の攻撃じゃ、大きなダメージは与えられん。けど、攻撃を防ぐことはできる。だから、盾役は俺が引き受けた。お前らは攻撃に全力を注げ!」


 武は仲間たちを背に前へ進み出た。


「さあ来い。どんな攻撃でも受けて立つ!」


 武の挑発に応えるように、残った黒い人差し指が、稲妻のような速さで振り下ろされる。

 武の目は一瞬たりとも逸らされず、その攻撃を瞬時に見極める。これは、超高速の斬撃。


「おらぁッ!」


 正拳突きが炸裂した。正確に繰り出された点撃が、斬撃の軌道を正面から打ち砕き、円形のエフェクトが波紋のように広がる。

 巨大な指がのけぞり、体勢を崩した。


 その一瞬を、結日は逃さない。


 ――ロンダート、バク転、そして華麗なムーンサルト。


 それはまるで輝く流星。闇の掌を貫いて中指を吹き飛ばした。


「今や!」


 八重が『アポロンの灯火』を惜しげもなく投げ放つ。小さな太陽のような閃光が連続して炸裂し、逃げ場を失った右手全体を飲み込んだ。

 溢れる光の中で、黒い影は粒子となって、ついに跡形もなく霧散した。


 ――黒いアニマ、完全消滅。


 周囲の喧騒や悲鳴も嘘のように消え、街は一転して静寂に包まれた。崩れ落ちた建物、剥き出しになった地面。そこに広がる光景は、まるで戦場の跡地のようだった。


 パチ……パチ……


 どこからともなく小さな拍手が響いた。

 それはやがて連鎖し、波のように広がっていく。


 パチパチパチパチ……!


 大きな拍手のうねりが通りを包み込み、歓声が爆発した。


「やったぁぁぁ!」


 群衆のあちこちから歓喜の叫びが上がる。


「あれ……高見結日じゃないか?」

「一緒にいるの、昨日の決勝で戦ったヤタガミのメンバーだ!」

「アルカディアの英雄たちが、街を救ってくれた!」


 次々と賞賛の声が飛び交い、喝采が止まらない。

 英雄を讃える熱狂が、瓦礫に覆われた通りを祝祭の場へと変えていた。


 ――その時。


 興奮冷めやらぬ皆の視界に、突如として新たな通知が浮かび上がる。


『《速報》 株式会社アルカディア 緊急会見』

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