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終焉のアニマ〜ARで蘇った妹は仮想が現実を侵食する世界の召喚神〜  作者: マシナマナブ
第二章 アスリートとなった令嬢

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タカミカグラの崩壊

 湊は思わず小声でつぶやく。


「……高見結日が、わざわざ来てくれたのか」


「意外と近いとこにおるって分かって、声かけといたんや」


 八重がどこか誇らしげに笑った。

 湊は慌てて席を整える。鈴音の召喚を解き、椅子を一つ空けると、結日は気負いもなくそこに腰を下ろした。

 彼女を迎える店員に紅茶を注文する。その一連の動作にすら、周囲の視線が集まる。だが本人はまるで気にしていない。


「タケル君、昨日は大変だったね」


 結日がいたわるような声をかける。


「お、おう……」


 武は気恥ずかしそうに頭をかいた。


「チーム・タカミカグラの他のメンバーは?」


 湊が問いかけると、結日は小さく息を吐き、視線を落として答えた。


「カエデは……もうアルカディアをやめるって言ってた。彼女が長く育ててきたナーガを失ったから」


 ナーガ――黒いアニマに吸収され、存在ごと消し去られた召喚獣。

 その育成に相当な時間を費やしてきたサモナーにとって、それは大切な誰かを失ったのと同じような悲しみだ。


「そして、アカネは……あの黒いのにやられて、実体のないアニマになっちゃったでしょ。それはタケル君も同じだけど」


 結日は悲しそうな目で武を見、続ける。


「アカネはそんな状況に何か思うところがあるみたいで、『行きたい場所がある』って、実体のない体のままどこかに行っちゃったの」


 その声には、寂しさがにじんでいた。


「せっかく優勝できたのに、これじゃチーム・タカミカグラはもう続けられないね」


 肩を落とす結日に、すかさず八重が提案した。


「なら、うちらチーム・ヤタガミに入ったらどうや? 実体のない武じゃメンバー登録できへんやろ?」


「おいっ!」


 武が思わず声を上げると、八重がさらりと付け加える。


「もちろん、実体を取り戻すまでの仮や、括弧(かっこ)・仮」


 結日はぱちりと瞬きをして、困ったような、でも少し嬉しそうな顔をした。


「いきなり勧誘されちゃった。ミナト君はどう思うの?」


「え、それは……」


 澄んだ瞳に見つめられ、不意を突かれた湊は言葉に詰まる。


「最強プレイヤーが俺たちのチームに入ってくれるなら……俺も嬉しい、けど……」


 結日はくすっと笑い、今度は別の話題を振る。


「ふぅん。そういえば、チーム・ヤタガミってどういう意味なのかな?」


「まあ、大した意味はないよ」


 緊張をほぐすように湊が答える。


「ヤエの『ヤ』、タケルの『タ』、ミナトの『ミ』を繋げて『ヤタミ』。それだと響きがイマイチだから、『ヤタガミ』にしたんだ。八咫鏡(やたのかがみ)とか八咫烏(やたがらす)とか、日本神話っぽい響きもあるからね」


「へえ、そうなんだ」


 結日は納得したように頷き、少し茶目っ気を含ませて言った。


「じゃあ、もし私が入ったら、ユイカの『ユ』も小さく入れてもらって、チーム・『ヤタガミュ』にしてもらおうかな。可愛い響きでしょ?」


「ヤタガミュ……」


 唐突な結日の提案にどう返してよいものかわからず、一同は固まった。


「ふふっ、冗談よ。ヤタガミかぁ……うん、考えておくね」


 結日はまんざらでもなさそうに微笑んだ。


「ぜひ前向きに頼むで。ユイカ嬢がチームに加わってくれたら、次のアルカディアeスポーツ大会は優勝間違いなしや。賞金は、うちらのもんやな」


「そういえば、今回の優勝賞金ってどうするの?」


 ふと思い出したように湊が問いかける。


「そうね……まだ決めてないけど、私の分はコーチと相談して、新しい体操器具を買う、とかかなぁ。やっぱり私の本業は体操だから」


 結日は次のオリンピック出場も絶対視されている注目選手だ。湊は続けて気になっていることを聞いてみた。


「もう一つ聞いていい? そんな実力のある体操選手の君が、どうしてアルカディアを始めたの?」


 その問いに、結日は待ってましたとばかりに身を乗り出した。


「うん、それはね、私、ずっと体操一筋でやってきたのね。毎日何時間も練習して、技もたくさん覚えてね。でも……最近気づいちゃったの。体操って、あまり注目されてないんだって。陸上やフィギュアスケートはみんな喜んで見るのに、体操はなかなか見てもらえない」


「フィギュアスケート……」


 湊はトリプルアクセルを繰り出す鈴音の姿を思い出し、苦笑いを浮かべる。


「確かに、体操は種目も、技の種類も多くて、分かりにくいところはあるかもな」


 武が納得したようにうなずいた。


「そう。それに、体操の技って日常生活では全っ然役に立たないのよね。街中でムーンサルトなんてしたら、怒られるでしょ?」


「ま、まあ……」


「でも、アルカディアの大会なら違う。体操の技がそのまま攻撃になるし、体操の大会よりみんなが注目してくれる。……それを知ったら、試さずにはいられなかったの」


 結日の声には、胸の奥に秘めていた不満を解き放つ喜びがにじんでいた。

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