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終焉のアニマ〜ARで蘇った妹は仮想が現実を侵食する世界の召喚神〜  作者: マシナマナブ
第二章 アスリートとなった令嬢

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失われた肉体

 大盛況で終わったアルカディアeスポーツ大会、決勝戦の翌日。

 湊たちのチーム・ヤタガミは、都内のカフェに集まっていた。

 アイウェア越しには四人掛けのテーブルに四人が座っている。だが、現実のテーブルに置かれているカップは二つだけ。


「つまりやな……黒いアニマに攻撃された結果、生身の人間が『アニマ』になってしもうたっちゅうことやな」


 八重が額を押さえ、少し疲れた声を出した。

 先の決戦で黒いアニマに踏み潰された武は実体を失い、仮想の存在となっていた。


「フフ……ようやく来たね、タケル兄ぃ。現世の檻から解放され、こちらの領域へ!」


 鈴音が、大げさに恭しい響きをまとわせて告げる。


「凪さんが調べてくれてるけど……本当に元に戻れる方法なんてあるのかな」


 湊が心配を隠せず小さくつぶやくと、武は大げさに肩をすくめて見せた。


「まったく参ったぜ。スキルの威力は前と変わらねぇが、直接攻撃の威力がガタ落ちだ」


「そら無理もないわな。もう肉体がないんやから」


 八重が即座に突っ込む。


「……武、何か困ることはないのか?」


 湊の問いかけに、武は少し考え、苦笑を浮かべた。


「それがな、意外と不自由してねぇんだ。高いとこから落ちても死なねぇし、腹も減らねぇ」


「でも、ご両親……心配してるだろ?」


「いや、特に。俺の実体が消えたことに、まだ気づいてないみたいだ」


「……言ってないのか!?」


 湊は思わず声を裏返した。


「言えるかよ。こんなもん、どう説明すりゃいい? アイウェアを外さなきゃバレねぇんだ」


 その場に重苦しい沈黙が落ちた。誰も言葉を返せない。

 すると、沈黙を破るように鈴音が割り込む。


「まあまあ、そんなに悲観することもないって。こちら側に来た者だけが味わえる至福もあるよ。――ようこそ、禁断の世界へ!」


「……」


 三人の視線が冷たく突き刺さると、鈴音は横を向いてとぼけたふりをした。


「困るといえば、現実のモノに触れられないことくらいだな」


 武が続ける。


「まあ触る必要も大してねぇ。扉もすり抜けられるしな」


「ほな銀行の金庫も入れるんちゃう?」


 それを聞いた八重の目が少しだけ輝いた。


「おう。入れるだけだがな。金は掴めねぇ」


「……」


 八重の目の輝きは一瞬で失われ、闇に沈んだ。

 すかさずそこに鈴音が追撃を放つ。


「武兄ぃ! どこでも入れるからって、もし女湯なんて覗いたりしたら……闇に堕ちし勇者向けの永久封印の刑だよっ!」


「アホか!」


 武は思わず声を荒げる。


「俺はジャスティスの化身。そんな不埒な真似、断じてせん! ……ただ、仮に浴場に入ったとしても、多分なにも見えねぇけどな」


「まあそうやろな」


 八重が冷静に言葉を挟む。


「アニマが見とる現実は、誰かのアイウェア越しに共有されとるデータや。風呂にアイウェアつけて入るやつはおらん。つまり――女湯に潜り込んでも、アニマには何も見えんやろな」


「ってことは……誰も人がいない場所に武が行っても、何も見えないのか?」


「いや、そうでもねぇ」


 湊の純粋な疑問に、武が答えた。


「自宅の俺の部屋とか、誰もいなくても普通に見える」


「それはおそらく『デジタルツイン』やな」


 八重が捕捉する。


「つまり、その空間を最後に誰かがスキャンしたデータを再現しとるんやろな」


「なるほどな……」


 湊は小さくうなずき、言葉を続けた。


「でも、現実のものに触れられないって……やっぱり、つまらないよな」


「それがよ――現実には触れねぇ代わりに、仮想のものには触れるんだ」


 武はそう言うと、鈴音の頭にそっと手を置いた。

 ふわりと鈴音の髪が指の間に収まる。


「……ほらな。ちゃんと触った感触もある」


「アルカディアの物理演算がそのまま働いとる、ってことやな。つまり、タケルはもう完全にアルカディアの住民、アニマになったわけや」


 八重は淡々と言ったが、依然として空気は重い。

 武本人は気楽そうに振る舞っているものの、これはあまりに大きな異変だった。


「あ、姫さん来たで」


 八重の声に、全員の視線がカフェの入口へ向かう。

 開いたドアから、明るい陽射しを背負った影が差し込んだ。

 そこに立っていたのは――高見結日。

 腰まで流れる長い黒髪、琥珀の瞳。

 今日は淡いベージュのワンピース。だが、アスリートの研ぎ澄まされた肢体は隠しきれない。

 彼女がただ歩み寄るだけで、店内の空気が変わった。誰もが自然と彼女に目を奪われる。

 そこには圧倒的な存在感のオーラがあった。

 結日はそんな店内の雰囲気を気にもせず、湊たちを見つけると、ふわっと笑みを浮かべ、手を振った。

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