第二部 第九話 命懸けの囮と、天を貫く光
「俺が、囮になる!」
スカイの、覚悟を決めた声が、瘴気に満ちた空地に響き渡る。 彼が返事を待たずに駆け出すと、島のヌシ「ゴルギオス」の、濁った赤い瞳が、確かにその動きを捉えた。
「グオオオオオオォォッ!」
地を揺るがす咆哮と共に、巨獣が動き出す。スカイは、ただひたすらに、遺跡の入り口へと向かって走った。 「スカイを援護するぞ!」 わたし達は、彼の命を繋ぐために、持てる力の全てをぶつけた。
「そらよっ!」 ナイが投擲した閃光弾が、ゴルギオスの顔の側で炸裂し、その巨大な図体の動きを、ほんの一瞬だけ鈍らせる。 「フン、目標が大きすぎるのも考えものだな!」 山川くんの腕輪から放たれた魔弾が、ゴルギオスの足元に着弾し、土煙を上げてその視界を遮る。 わたしとよもぎちゃんも、剣と爆発で牽制し、スカイへの道を切り開く。
「こっちだ、このデクノボウ!」 スカイは、何度も挑発しながら、巨獣を誘導していく。巨大な爪が、彼のすぐ後ろの地面を抉り、薙ぎ払われた尻尾が、大木をなぎ倒す。生と死の境を、彼は何度も飛び越えていた。
そして、ついに。 「今だ! 中へ!」 スカイは、遺跡の入り口へと滑り込む。彼を追うゴルギオスは、その巨体を無理やりねじ込み、入り口の金属の扉を破壊しながら、わたし達が先ほどまでいた、巨大なドーム状の空間へと侵入した。
作戦の第二段階が始まる。 「スカイ、そいつを引きつけて!」 「わかってる!」 スカイは、ドームの中央にそびえる塔の周りを、必死に走り続ける。その間に、わたしとナイ、山川くんは、塔の麓にあるメインコンソールへと駆け寄った。
『システムの強制起動シーケンスに入ります。認証コードを、三か所同時に、タイミングを合わせて入力してください!』 ネオンの声が響く。コンソールに、複雑な古代文字がいくつも表示された。 「ちくしょう、どれだよ!」 「落ち着けナイ! ネオン、コードを指示して!」 『緑色に発光する三つのシンボルです! 私の合図で!』
背後では、スカイを追い詰めるゴルギオスの地響きが、すぐそこまで迫っている。 『……3、2、1……今です!』
わたし、ナイ、山川くんの三人の指が、同時に、それぞれのパネルを叩いた。
その瞬間。 ドームの天井まで届く、巨大な中央タワーが、長い眠りから覚醒した。 青白い光が塔の基部から駆け上り、最上部の巨大な水晶へと集束していく。そして、天を貫くかのような、まばゆいばかりの浄化の光が、ドーム全体を白く染め上げた。
光の奔流は、一本の槍となって、ゴルギオスへと降り注ぐ。
「ギィィィィィアアアアアアアッッ!!」
巨獣の体から、禍々しい紫色の瘴気が、まるで煙のように引きずり出されていく。苦悶と浄化が入り混じった、すさまじい絶叫が、遺跡中に木霊した。
わたし達は、ただ、その光景を、息をのんで見つめることしかできなかった。 スカイの覚悟と、わたし達の絆が繋いだ、一筋の希望の光。 その光の中で、島のヌシの運命は、今、まさに変わろうとしていた。