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第二部 第八話 絶望の巨獣と、少年の覚悟

『警告! 高エネルギー反応、急速接近! 地上からです!』

ネオンの悲鳴のような警告と、遺跡全体を揺るがす激しい振動。わたし達は、スカイの過去の記録を見るのを中断し、すぐさま行動を開始した。 「この揺れ…ただ事じゃない! 一度地上に戻るぞ!」 ナイの判断に、全員が頷く。わたし達は、今来たばかりの通路を全速力で引き返し、再びジャングルが広がる島の地表へと飛び出した。

そこに広がっていたのは、絶望的な光景だった。 さっきまでとは比べ物にならないほど、空気が濃密な瘴気しょうきに満たされている。そして、わたし達が出てきた遺跡の入り口を塞ぐように、山のように巨大な生物が、鎮座していた。

それは、どんな書物でも見たことのない、異形の怪物だった。亀のような甲羅、恐竜のような強靭な四肢、そして、その体中の至る所から、禍々しい紫色の水晶が生え、不気味な光を放っている。 「あれが……この島の『ヌシ』…!」 山川くんが、息をのんで呟いた。

『生物名「ゴルギオス」。惑星外汚染物質「ガイア」に侵食され、異常進化した原生生命体の王です。危険度が、高すぎます…!』 ネオンの分析が終わる前に、ゴルギオスはわたし達を敵と認識し、咆哮した。その声だけで、周囲の木々がなぎ倒されるほどの衝撃波が走る。

「やるしかない!」 わたし達は、覚悟を決めて、島のヌシとの戦いに挑んだ。 だが、その力は、これまでのどんな敵とも比較にならなかった。 わたしの剣は、その水晶の鎧に傷一つつけられず、ナイのワイヤーは、いとも簡単に引きちぎられる。山川くんの放つ魔弾すら、ゴルギオスの放つ瘴気のオーラに阻まれて、届く前に霧散してしまった。

「くそっ、攻撃が通じねえ! それに、この瘴気…! 体の力が、抜けていく…!」 ナイが、苦しそうに膝をつく。わたしも、よもぎちゃんも、立っているだけで精一杯だった。

「だめです! 物理的な攻撃では、ゴルギオスの核となっている『ガイア』を破壊する前に、こちらの体力が尽きます!」 ネオンが叫ぶ。 その言葉に、スカイがハッとした顔で、わたし達が出てきた遺跡の塔を指さした。

「あの塔だ……! さっきの記録映像で、研究主任のスカイが言っていた、『浄化システム』! あれを使えば、ゴルギオスの体の中のガイアを、浄化できるかもしれない!」 「だが、どうやってあんなデカブツを、塔の入り口までおびき寄せるんだ!?」 山川くんの言う通りだ。ゴルギオスは、わたし達を弄ぶように、その場で動こうとしない。

その時、スカイは、ゴルギオスの赤い瞳が、まっすぐに自分だけを見つめていることに気づいた。 「……こいつ、俺を、狙ってるんだ」 彼が乗ってきたポッドのエネルギーか、あるいは彼自身の持つ何かが、この怪物を引き寄せている。 スカイは、恐怖に震える自分の拳を、強く握りしめた。そして、覚悟を決めた顔で、わたし達を見た。

「俺が、囮になる」 「なっ、スカイ!?」 「こいつが狙ってるのは、俺だ。俺がこいつを引きつける! その間に、みんなは、塔の浄化システムを起動する準備をして!」

記憶を失った少年は、自分の命を賭けて、仲間たちの活路を開こうとしていた。 彼の瞳には、もう、あの虚ろな色はなかった。 わたし達は、彼の、そしてこの島の運命を懸けた、最後の作劇の始まりを、固唾をのんで見守るしかなかった。

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