第二部 第七話 古の守護者と、再生される記録
『侵入者を、排除します』
無機質な宣告と共に、巨大な警備ゴーレムがその重い腕を振りかざす。わたし達の、この遺跡で最初のボス戦が始まった。 「散開するぞ! 弱点を探れ!」 ナイの叫びを合図に、わたし達は四方へと散った。
だが、ゴーレムの力は圧倒的だった。山川くんの放つ光の魔弾は、その分厚い装甲に弾かれ、ナイの素早い動きですら、正確に予測したレーザー攻撃に捉えられそうになる。 「くそっ、硬すぎる!」 わたしが剣で斬りつけても、浅い傷しかつけられない。
「くろすけ、違う! そこじゃない!」 不意に、スカイが叫んだ。 「そいつのエネルギーは、両肩と胸、三つの青いランプを通って循環してる! 攻撃の直後、一瞬だけ、胸のランプの光が弱まる! そこだ!」 記憶はなくても、彼の目には、この古代兵器の構造が、本能的に見えているらしかった。
「ナイス、スカイ!」 わたしは彼の言葉を信じる。ナイと山川くんが左右から派手な攻撃を仕掛けて、ゴーレムの注意を引きつける。狙い通り、ゴーレムは両腕から強力なビームを発射した。 その直後、胸のランプが、確かに、一瞬だけ光を弱めた。
「よもぎちゃん、今!」
わたしとよもぎちゃんの、渾身の同時攻撃。希望の光をまとったわたしの剣と、浄化の力を宿したよもぎちゃんの爆発が、寸分の狂いもなく、弱点である胸のランプを貫いた。 断末魔のような甲高い警報音を残し、巨大なゴーレムは動きを止め、やがて、ただの鉄屑の山となって崩れ落ちた。
「やった……!」 「坊主、てめえ、ただもんじゃねえな」 ナイが、スカイの肩を叩く。スカイは、戸惑いながらも、自分が初めて仲間たちの役に立てたことに、少しだけ誇らしそうな顔をしていた。
わたし達は、ゴーレムが守っていた中央タワーへと、足を踏み入れた。 内部は、巨大なデータバンクのようだった。壁一面に、膨大な情報が保存されているであろう水晶の柱が並んでいる。 わたし達が中央のメインコンソールに近づくと、それに呼応するかのように、コンソールが起動。目の前に、一体の立体ホログラムが再生された。
そこに映し出されたのは、研究者のような白い服を着た、スカイと瓜二つの顔立ちをした青年だった。しかし、その瞳には、スカイの持つ不安の色はなく、強い決意と、深い憂いが宿っている。
『……ログ記録、734。惑星外汚染物質「ガイア」による、原生生命体の異常進化は、我々の想定を……超えている……』
ノイズ混じりの声。ガイア? それは、ピルが口にしていた「ガイア・プロトコル」と、何か関係が?
『……もはや、この島の浄化は不可能と判断。全職員は、プロトコルに従い、コールドスリープ・ポッドへ退避せよ。私は、最後の手段として、この施設の自爆……いや、「浄化システム」を起動させる。私の個体識別名は、研究主任、スカイ……。全ての記憶データを封印し、最後の……』
そこで、ホログラムは、砂嵐のように掻き消えた。 スカイと同じ顔、同じ名前。彼が、この施設の責任者……? 記憶を封印した? あまりの情報量に、わたし達は言葉を失う。
だが、その思索は、ネオンの切羽詰まった声によって、断ち切られた。 『警告! 警告します!』 腕のリングから、ネオンのホログラムが飛び出す。 『今、ホログラムを再生したことで、強力な信号が発せられました! それに呼応して、高エネルギー反応が、地上の嵐の中から、急速にこちらへ向かってきます!』
ゴゴゴゴゴ……!! ネオンの言葉を裏付けるように、遺跡全体が、まるで巨大な何かが島に降り立ったかのような、激しい揺れに見舞われた。
「船長が言ってた、『海の化け物』ってやつか……?」 ナイが、天井を見上げながら呟く。
スカイの過去の断片に触れたわたし達を、この忘れられた島々は、そう簡単には、その心臓部へと通してくれるつもりはないらしかった。