第二部 第五話 始まりの島と、サバイバル生活
わたし達を乗せた「海竜号」は、荒れ狂う嵐と魔の海域を抜け、ついに目的の地、ウーラモス諸島の一角に到達した。船長のガントは、切り立った崖に囲まれた、奇跡的に波の穏やかな入り江に、巧みに船を停泊させた。
「よし、野郎ども、ここが冒険の始まりだ」 ガント船長は、わたし達に合図した。 「俺は約束通り、この海域で伝説の海竜を探す。お前さんたちの用事が済んだら、狼煙でも何でも上げて知らせな。気が向いたら、拾いに来てやる」
わたし達――わたしとよもぎちゃん、ナイ、山川くん、そして記憶のない少年スカイ――は、船長の言葉に頷き、鬱蒼としたジャングルが広がる、未知の島へと、その第一歩を踏み出した。
島の中は、まるで原始時代に迷い込んだかのようだった。見たこともない植物が生い茂り、湿った空気には、未知の生物たちの鳴き声と、微かな瘴気が混じっている。 「こいつは……まともな装備じゃ、長くは持たないな」 ナイが、鋭い目つきで周囲を見渡しながら言う。 「食料も、寝床も、全部この島で調達する必要がありそうだ」
サバイバル生活。わたしは、無人島での冒険を記録した日記の1ページを思い出しながら、みんなに提案した。 「役割を決めよう! わたしはリーダーとして、食料の採取を担当する。ナイさんも、その身軽さで探索と採取をお願い! ハンターは、攻撃魔術具を持つ山川くん。物作りは……」
そこまで言って、わたしはよもぎちゃんを見た。彼女は、この島の不思議な空気に呼応するかのように、その小さな体をぽわん、と淡い光で包んでいた。 すると、よもぎちゃんの体から、輪っかのような小さな機械が生まれ、わたしの腕にすっぽりとはまった。
『ピッ。システム、再起動。――私はAI。コードネームは、ネオンです』
腕のリングから、ホログラムの少女が姿を現す。その顔は、夢の中でわたしを呼び続けていた、あの少女の姿だった。 「ネオン!?」 『はい、くろすけ。あなたの心の中にあった私のデータの一部が、この島に眠る古代文明のシステムに呼応して起動しました。今の私を操縦しているのは、よもぎちゃんの純粋な魔力です。これからは、わたしが物作りと、皆さんのナビゲートを担当します』
地下世界で別れたはずの仲間との、奇跡の再会。そして、明かされるよもぎちゃんの新たな力。 わたし達は、驚きながらも、この島で生き抜くための、最強の布陣が整ったことを確信した。
こうして、わたし達の不思議なサバイバル生活が始まった。 ナイとわたしはネオンのサーチ能力を頼りに、食べられる木の実や薬草を集める。山川くんは、その圧倒的な火力で、食料となる動物を狩ってきてくれた。そして、よもぎちゃん(とネオン)は、集めた素材で、あっという間に頑丈な斧やツルハシ、そして雨風をしのげる簡易的な拠点まで作り上げてしまった。
その夜。焚き火を囲みながら、ネオンが新たな情報を告げた。 『スカイさんのポッドから発せられている微弱な信号を解析しました。信号源は、この島の地下深くに存在する、巨大な古代文明の遺跡を指し示しています』
スカイの記憶の鍵は、この島の地下に眠る、古代遺跡に。 わたし達は、顔を見合わせた。次の目的地は、決まった。
焚き火の光が、新しく、そして少し複雑になったパーティーの、それぞれの顔を照らし出す。 忘れられた島々での冒険は、まだ、始まったばかりだった。