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第二部 第三話 船の墓場と、片目の船長

記憶を失った少年、スカイ。

彼が乗ってきたポッドに残されていた、唯一の手がかりは「ウーラモス諸島」という、遥か南の海に浮かぶ魔境を指し示していた。


わたし達は、彼の失われた記憶を取り戻す手伝いをするため、そして、この世界に現れた新たな謎を解き明かすため、共にその島々を目指すことを決めた。

数日後、わたし達は大陸で最も大きな港町、ポート・ジャンクションに来ていた。活気あふれるこの港なら、ウーラモス諸島へ向かう船の一隻や二隻、見つかるだろうと思っていたからだ。


「ウーラモスだと? 冗談はよしな、嬢ちゃん」

港の酒場で、屈強な船乗りたちに、わたし達は笑い者にされていた。

「あそこは『船の墓場』よ。近づくだけで羅針盤は狂い、海からは化け物が顔を出し、一年中、嵐が渦巻いてる。あそこへ行きたがるのは、死にたい奴だけだ」


どの船乗りも、首を縦に振ってはくれなかった。

「困ったな……。陸路は無いし、どうしたものか」

わたしが途方に暮れていると、ナイが酒場の隅にある、ひときわ古びた依頼書を指さした。

「おい、くろすけ。こいつを見てみろ」


そこには、『ウーラモス諸島への渡航、船員求む。腕に覚えのある者、死を恐れぬ者、歓迎。詳細は波止場の“海竜リヴァイアサン号”にて』とだけ、乱暴な字で書かれていた。


「……これしかない、か」

山川くんが、やれやれと肩をすくめる。

わたし達は、藁にもすがる思いで、その「海竜号」が停泊しているという、港の一番奥の波止場へと向かった。


そこに停泊していたのは、お世辞にも立派とは言えない、傷だらけで、黒く、まるで海の魔物のような、無骨な一隻の船だった。

「……あんたらか。ウーラモスに行きてえって酔狂な連中は」

船のマストの上から、低い、しゃがれた声がした。見上げると、そこには、片目に眼帯をした、歴戦の古傷が顔中に刻まれた、一人の屈強な老人が立っていた。


「俺は、この船の船長、ガントだ。ウーラモスには、俺の船でしか行けねえ。だが、タダで乗せてやるほど、お人好しじゃねえぞ」

船長は、マストからひらりと甲板に飛び降りると、わたし達の前に立った。

「ウーラモスに眠るという、伝説の海竜『リヴァイアサン』の牙を、俺に持ち帰ると約束しろ。そうすりゃあ、地獄の入り口まで、喜んで連れてってやる」


他に、選択肢はない。

「わかりました。その依頼、引き受けます」

わたしが力強く答えると、片目の船長は、ニヤリと、その口の端を上げた。


「よし、契約成立だ。野郎ども、出航の準備をしろ!」

「行き先は、地獄の釜の底、ウーラモスだ!」


海竜号の、錆びついた錨が、ごうごうと音を立てて引き上げられる。

わたし達の、全く新しい、そして、これまでで最も危険な船旅が、今、始まろうとしていた。

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