第二部 第二章 第十三話 生命の島と、森の四天王
『警告! 船が…! 海中の植物に捕縛されました! この島全体が、一個の巨大な生物です!』
ネオンの絶叫と同時に、海竜号の船体が、ミシミシと、軋む音を上げた。海の底から伸びてきた、巨大な蔦や木の根が、わたし達の船を、まるで獲物を捕らえる大蛇のように、締め上げているのだ。
「このままじゃ、船が潰される!」
わたしは剣を抜き、船体に絡みつく蔦を斬りつける。しかし、切り口からは、すぐに新しい蔦が再生し、全く意味がない。
「だめだ! こいつら、島本体から直接エネルギー供給を受けてやがる!」
ナイが、蔦の断面を見ながら叫んだ。
「船を捨てろ! この蔦を橋代わりにして、島に乗り込むぞ!」
ガント船長の決断は、早かった。
わたし達は、互いに合図を送り、うごめく蔦の上を、足場にしながら、島へと向かって駆け出した。
上陸した島は、一見すると、生命力に満ちた楽園だった。
だが、その本性は、すぐに牙を剥いた。わたし達が森に足を踏み入れた途端、周囲の木々の枝が鞭のようにしなり、地面の根が、わたし達の足を絡め取ろうと襲いかかってくる。この島は、森そのものが、侵入者を排除しようとする、巨大な要塞なのだ。
わたし達は、それらの攻撃を切り払いながら、島の中心部へと進んでいく。そこには、ひときわ巨大な、天を突くほどの大樹がそびえ立ち、その根元に、開けた広場があった。
広場の中央。大樹の幹に、まるで融合するかのように、一人の男が立っていた。
その体は、半分が人間で、半分が樹木。その瞳は、冷たい、植物のような静けさを湛えている。
「……よくぞ来た、世界のバグどもよ」
男は、わたし達を一瞥し、静かに言った。
「我は、四天王の一人。この森と、沼と、全ての生命を司る王。お前たちのような、世界の調和を乱す異物は、我が同胞たちの、血肉とするのが相応しい」
彼が、手を掲げた。
すると、森の奥から、無数の魔物たちが、その赤い目を光らせて姿を現した。狼、熊、巨大な蜂、そして、この島独自の異形の生物たち。その全てが、南東の「核」の力で異常強化され、彼の意のままに操られている。
「最初の宴だ。存分に、味わうがいい」
わたし達の前に、絶望的な数の、魔物の津波が押し寄せてきた。
これは、もはや戦いではない。一方的な蹂躙だ。
だが、わたし達は、ここで終わるわけにはいかない。
「ナイさん、山川くん、左右から! スカイは、援護を!」
わたしは叫んだ。
たとえ、島全体が敵であろうとも。
わたし達は、この生命の迷宮を、必ず、突破してみせる。




