第二部 第二話 空から来た少年、スカイ
ポッドの中で、青年がゆっくりと目を開けた。 その瞳は、生まれたての雛鳥のように、ただ戸惑いと不安の色だけを映している。
「ここは……どこだ……? あんた達は、誰だ……?」 か細い声で、彼は尋ねる。そして、自分のこめかみを押さえた。 「俺は……誰だ……?」
記憶喪失。その言葉が、わたし達の間に重くのしかかる。 「大丈夫!?」 わたしが駆け寄ろうとするのを、ナイが腕で制した。 「おいおい、くろすけ、警戒しろ。どこの馬の骨とも分からん奴だぞ」 「フン。ポッドの損傷は激しいが、内部の生命維持装置は機能していたようだ。彼の身体組成データも、我々の知るどの人種とも僅かに異なる……実に興味深い」 山川くんは、冷静に状況を分析している。王様の霊体も「ふむ、空から人が降ってくるとは、何やら大きな運命の始まりを感じるのう」と、どこか楽しそうだ。
わたしは、警戒する仲間たちをなだめ、ゆっくりと青年に近づいた。 「わたしの名前は、くろすけ。こっちは、よもぎちゃん、ナイさん、山川くん。あなたは、敵じゃない。大丈夫だよ」
わたしの言葉に、青年は少しだけ、その表情を和らげた。 「……スカイ。たぶん、それが俺の名前だ。それ以外は、何も……」
スカイ。それが、彼に残された、唯一の自分のかけらだった。 わたし達は、彼が乗ってきたポッドの中を、詳しく調べることにした。 「おい、くろすけ、見てみろ」 ナイが見つけたのは、破損した航行日誌と、一枚の星図だった。 「この星図、俺たちの知ってる空じゃないな……。そして、この日誌には…」
わたしが日誌の文字を追う。 『最終目標地点、惑星コードGAIA-3、ウーラモス諸島。指定された原生生命体のサンプルを確保後、速やかに帰還せよ』 そこで、記録は途切れていた。
「ウーラモス諸島……」 それは、この大陸の遥か南に位置する、瘴気に包まれた危険な島々だと、聞いたことがある。 「俺には、そこへ行くしか、手がかりがないみたいだ…」 スカイは、消え入りそうな声で言った。
その、あまりにも頼りない背中を見て、わたしは、もう決めていた。 「だったら、わたし達も一緒に行くよ! 一人じゃ絶対に危ないし、それに、放っておけないもん!」 「ハッ、面白え! 未知の島に、異星のテクノロジーか! こいつは宝の匂いがプンプンするぜ!」 ナイも、すっかり乗り気だ。
山川くんは、ふいと顔をそむけて言った。 「フン……異星の生命体とテクノロジー、か。研究対象として、同行してやらんでもない」
こうして、わたし達の新しい目的が決まった。 記憶を失った少年スカイと共に、前人未到の魔境「ウーラモス諸島」へ。 そこに、彼の過去の答えはあるのか。そして、どんな生命体や冒険が、わたし達を待っているのか。
新しい仲間と、新しい謎を乗せて。 わたし達の旅は、再び、その一歩を踏み出した。