第二部 第二章 第一話 異変の島と、エージェントの試練
海竜号が次にたどり着いたのは、最初の島とは全く違う、荒涼とした岩と火山灰に覆われた島だった。
わたし達が上陸した瞬間、肌をピリピリと刺すような、濃密で、そして禍々しい魔力を感じる。
「なんだ、この空気……。前の島とは比べものにならないくらい、淀んでる」
わたしがそう呟くと、ナイが険しい顔で言った。
「俺は一足先に、この島のヤバさの正体を確かめてくる。お前らは下手に動くなよ。何かあれば、すぐに狼煙を上げろ」
そう言うと、ナイは、驚くべき身軽さで崖を駆け上がり、あっという間に姿が見えなくなった。
残されたわたし達が、彼の帰りを待っていた、その時だった。
「グルルル……」
目の前の岩陰から、一匹の狼が現れた。それは、地上世界でもよく見かける、ごく普通の魔物のはずだった。
「Dランク級のモンスターだ。俺がやる」
山川くんが一歩前に出て、魔術具の腕輪から光弾を放つ。しかし、狼はそれを俊敏な動きで避け、逆に、山川くんが張った防御障壁に、爪の一撃で大きなヒビを入れた。
「なっ!? この強さ、Dランクじゃない! 特級クラスだ!」
わたし達は全員で応戦するが、ただの狼一匹を倒すのに、ひどく消耗してしまった。
「どうなってるんだ……。この島のモンスターは、全部こうなのか?」
わたしが息を切らしていると、聞き覚えのある、軽やかな声が、頭上から降ってきた。
「……やっぱりな。この島全体が、異常なエネルギーで汚染されてやがる」
見上げると、岩の上に、偵察から戻ってきたナイが立っていた。その瞳には、世界を憂うような、真剣な光が宿っている。
「ナイさん! 何か分かったんですか!?」
「ああ。とんでもない厄介ごとが起きてるんでな」
ナイは、わたし達の前にひらりと降り立つと、事の次第を説明し始めた。
「地球の四隅に、突如として謎の『核』が出現した。そいつが放つエネルギーの影響で、この世界の全てのモンスターが、強制的に特級ランク以上に引き上げられている。このまま核を放置すれば、数年のうちに、この星は生態系の崩壊で滅びるだろう」
エージェント族である彼は、その核を破壊するために、星々を旅しているのだという。
「だが、核は、それぞれ『四天王』と呼ばれるウルトラ級の番人に守られている。俺一人じゃ、どうにもならねえ。そこで、あんたの力が必要だ、くろすけ」
わたしは、まっすぐに彼を見つめ返した。
「もちろん、協力します。わたしも、この世界が好きだから」
「……話が早くて助かるぜ」
ナイは、ほんの少しだけ、口元を緩めた。だが、すぐに厳しい表情に戻る。
「だがな、今のあんたの実力じゃ、四天王どころか、その城の門番にも勝てねえだろう。地下での戦いで、あんたは確かに強くなった。だが、ウルトラ級の世界では、まだひよっこだ」
彼は、わたしに向かって、一本の人差し指を立てた。
「まずは、あんたに『ウルトラ』ランクへと覚醒してもらう必要がある。そのために――俺から、試練を受けてもらうぜ」
ナイの、真剣な瞳。
それは、わたしがこの世界で、さらに一つ上のステージへ進むための、新しい戦いの始まりを告げていた。




