婚約者を守るために
※誤字脱字の大量発生にご注意ください。
「お前が王妃となり、王子を生んだ時、お前はこの毒
で王を殺すのだ。」
お父様から放たれた言葉は冷たく、私に差し出さした手には毒薬の入った瓶が握られていた。
その日に、私は王太子殿下の婚約者に内定した。
私の9歳の誕生日パーティーの日でもあった。
誕生日プレゼントに王太子殿下の婚約者という立場と毒薬をもらった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ラーレ、会いたかったよ!」
私の努力のおかげか8年という月日のおかげか、王太子殿下もといフルトゥム様との仲は良好だ。今日私は王宮に妃教育のため訪れていた。
「私もフルトゥム様にお会いしたかったです。」
もはや定型文になりつつある挨拶を交わした。
「最近は、あまり時間が合わないからね。君に会えないのは寂しいなぁ」
フルトゥム様は少し変な方だ。普段はこんな風にふわふわしているのに、時々支配者の目をする時がある。わが父、ニグレド公爵のように。
ただの傲慢な王太子殿下であれば、阿呆であればこんなに罪悪感を感じる必要もなかったのに。
「フルトゥム様、私、成婚の日が待ち遠しいのです。」
嘘よ。来ないで。成婚して、あなたが王になって、子ができたらあなたは死ぬのよ。
「ラーレ。僕もだよ。あと1ヶ月だね。」
にこりと笑いかけるあなたが眩しい。あと1ヶ月であなたは王となり、私と結婚する。
この国には現在国王陛下はいらっしゃるが、政務ができる状態ではない。なので私のお父様のニグレド公爵が摂政として政務を行っている。王太子殿下が成人し、王になるまでの期間限定で。お父様はきっと権力を手放したくないのだろう。だから、フルトゥム様を殺しフルトゥム様と私の子を傀儡の王にしようといている。もしかしたら、国王陛下の状態がお悪いのもお父様の仕業かもしれない。そして、フルトゥム様はお父様の野心に気づいていないのだ。だから、私を婚約者として大切に扱ってくださる。とにもかくにもお父様の企てが暴かれると私のみならず、一族みな死罪になるだろう。それだけは避けたかった。
「ラーレ?どうしたの?浮かない顔だね。マリッジブルーっていうやつかな。」
「とんでもないです。ただ王妃という立場が不安でして…」
また嘘を重ねた。この人と話す時に私は必ず嘘をつく。それが苦しい。
「大丈夫だよ。ラーレならできる。」
フルトゥム様は優しい。この人を殺したくはない。
「フルトゥム様の期待に応えられるよう努力いたしますわ。」
「だから大丈夫だよ。」
そう言ってふふっと軽く笑う。そんなあなたを私がお守りしたいわ。もしも、許されるなら…
!!私がお守りすればいいのよ!
毒を盛る実行役は私なのだから、どうとでもなるわ。
私は覚悟を決めた。
「ラーレ、あのね、成婚の日の1週間前にお茶会をしない?そこで話したいことがあるんだ。」
フルトゥム様には珍しい真剣な声色だった。
「かしこまりました。では、またその日にお伺いしますね。」
私も今、決めた。その日に毒を盛ろう。私自身に。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
お茶会当日に私は人生の中で最も入念に準備をして王宮に参上した。毒薬は香水のような瓶に入れて袖に隠した。そして、フルトゥム様に宛てた手紙も一緒に忍ばせた。今日で全てを終わりにしましょう。
「フルトゥム様!お会いしたかったです。」
今日だけは私から挨拶がしたかった。
「やぁラーレ、会いたかったよ。」
フルトゥム様の雰囲気がいつもより、凛々しく感じる。気のせいかしら?
「今日は私がお茶を入れますね。」
熱いお湯と茶葉は既に用意されている。私のカップにお湯とともに袖に隠してあった毒薬を注ぐ。
フルトゥム様のはいつもどおりに。
「お待たせしました。完成ですわ。」
「ありがとう。じゃあ、始めようか。」
和やかな雰囲気でいつもどおり、フルトゥム様が始まりの合図をした。そうすると、メイドや護衛は少し離れた場所に移動する。
「僕は君に話したいことがあるって言ったよね。」
フルトゥム様の話を聞きつつ、カップを口に寄せる。
カップの液体が口に入った。
「そのことを今から話すよ。」
ごめんなさい、フルトゥム様。聞けそうにありません。喉が焼け付くような苦しさとともに、私は血を吐いて倒れた。
「ラーレっ!」
フルトゥム様が必死に駆け寄って、私を抱き上げる。
「毒だっ!毒消しを持って来い!速く!」
そんな泣きそうな顔しないでください。大丈夫ですよ。あなたのせいじゃありません。私はあなたに憎まれるのが嫌だった。そんな未来の作ることも。私はただこの現実から逃げたかっただけなのだ。
「フル⋯トゥム様⋯手紙⋯袖の中に⋯読んで⋯ください。」
「ラーレ?大丈夫だから。僕が絶対に助けるからっ」
あぁ、フルトゥム様の声は安心するなぁ。私はそのまま瞼を下ろした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
チュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえる。
目を覚まして、周りをみてみると私の部屋ではなかった。ここはどこ?そういえば私…毒を飲んだんじゃなかったかしら? ということは、ここは死後の世界?
いいえ。違うわ。この豪華さになんか既視感のある感じ、おそらく王宮の貴賓室ね。
ガチャ ドアの開く音がした。
「失礼いたします。」
それに若いメイドと思わしき声も。メイドと目が合った。
「ごきげんよう。あなた、今の状況を教えてくださるかしら?」
勤めてにこやかに言ったはずなのだが
「キャアァァァ―!ラーレ様がっお目覚めに!」
即クビになるであろう大声で、メイドは叫んだ。
そこからはてんやわんやで、たくさんの人が私の部屋を出入りした。
「ラーレ様。安静第一ですよ。」
これはお医者様の見解。どうやら私は死に損なったようだ。ご飯を食べ、寝る。こんな生活を2週間以上続けているが、フルトゥム様は一度もいらっしゃらない。私の手紙を読んだのなら、今頃お父様の策略にも気づいてくださって、対処しているのだろうか。
寂しい。死のうとしていたのに、寂しく思ってしまっている。こんなことを思う資格は私にはないのに。
「フルトゥム様…なぜ私を生かしているのでしょう。」
お父様の策略が暴かれるのならば、私は独房くらいに入れられているはずだ。もしかして、フルトゥム様は気づいていないのかしら?ちょっとおっちょこちょいなところがあるからなぁ。
「はぁ。もう遅い時間だわ。」
いつの間にか窓から見える空に月が昇っている。考えたって無駄だわ。寝ましょっと。
コンコン コンコン コンコン
ベッドに入った途端窓を叩く音がする。
「何なの…?」
ソロリソロリと窓辺に近づくと、、、
「フルトゥム様っ!?」
「シ〜ッ」
急いで窓を開けて、お出迎えをする。この格好で大丈夫かしら?
「ラーレ、体調はどう?」
「全然、フルトゥム様のおかげで大丈夫です。」
私が毒を飲んだ後、フルトゥム様が適切に処置をしてくださったと聞いている。
「それなら⋯良かった。」
「「⋯⋯⋯⋯⋯」」
気まずい沈黙が続く。
「ラーレ。どうして、君は毒を飲んだ?」
私に話があると言ったあの真剣な声と同じ。
「私はあなたを殺したくなかったのです。それに、『公爵令嬢』であり『婚約者』という『私』があなたにとって最も厄介で危険な存在でした。だからいなくなれば…」
私は口ごもった。フルトゥム様の雰囲気がかつてないほど張り詰めていたからだ。
「いなくなれば…僕が死ななくて済むと思ったの?」
「⋯そうです。ですが、それだけではありません。私は死にたかった。そういう気持ちも少しはあったと思います。」
「そう。今でもそう思ってる?」
「わかりません。今の状況が私にはわからないので。」
今話しているフルトゥム様のことが一番わからない。
「フルトゥム様。なぜ私を生かしているのですか?お父様の企てをご存じですよね?」
「君の父上の策略は全て知っているし、君が手紙で伝える前から命が狙われていることはわかっていた。」
頭をガツンと殴られたような大きい衝撃があった。この人は誰?目の前の人は、フルトゥム様ではなかったのか?私の知るフルトゥム様は優しくてでも、お父様の謀略に気づくような方ではなかった。
「まさか、君を使って殺そうとしてくるとは思わなかったけれど。ねぇラーレ、お茶会の日僕は君に話したいことがあると言ったよね。あの日に僕は僕の全てを君に伝えようと思っていたんだ。」
「え?フルトゥム様の全て…?」
「そう。僕の全て。公爵を失脚させようと思っていたこととか、まぁ他にもいろいろ。」
そういえば、お茶会の日のフルトゥム様はいつもより凛々しく、強さを感じた。
「だけど、一番伝えたかったのはね」
フルトゥム様は私の手を取った。
「君を愛しているってことだよ。」
そうして、私の手の甲にキスをした。頬が熱い。胸が痛い。目から、涙までこぼれそう。
「フルトゥム様、私は、あなたの命を狙っている公爵の娘ですよ?咎人です。」
「そのことなら心配しないで。僕が手を回して、公爵の罪は明らかにしてないから。」
「へ?どういうことですか?」
「ニグレド公爵は失脚させたけど。実の娘に毒を盛った非道の父親として。まぁ、半分公爵のせいだし。公爵以外の君の家族もお咎めはないよ。」
実の娘って私しかいないわよね?つまり、お父様は私に毒を盛ったことになっているのかしら。そして、お父様以外の家族に罰がない。
「だから君が良ければ僕の婚約者のままだよ。」
私はフルトゥム様のことを何もわかっていなかった。聡い方だったことも。私をみてくださっていたことも。だけど、素敵な方ということに間違いはないわ。
「ラーレ、このまま僕と結婚してくれませんか?」
こんなの答えは1つしかないじゃない。
「もちろんです。私もあなたを愛していますから。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「オギャーッオギャーッ」
愛しい泣き声が聞こえる。私は王妃となり、1年後に王子を生んだ。
「よしよし。いい子いい子。」
子育てにも慣れてきた。
「元気だなあ。誰に似たんだろう?」
フルトゥム様もにこにこ笑っている。
「フルトゥム様に似たんだと思いますよ。」
「そうかな~」
少しおどけたフルトゥム様に私もつられて笑った。