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連載版・夫婦にはなれないけど、家族にはなれると思っていた・完結  作者: まほりろ
第十章「デルミーラの半生」デルミーラ視点
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51話「デルミーラ・アブト伯爵令嬢」デルミーラ視点

デルミーラ視点の番外編です。

デルミーラのざまぁが見たい人用の蛇足です。

ハピエンで終わりたい人は読まなくても問題ありません。



わたくしの名はデルミーラ・アブト、アブト伯爵家の長女で燃えるような赤い髪と真紅の瞳が特徴的な、自分で言うのもなんですがなかなかの美人ですわ。


わたくしの婚約者はフォンジー・ザロモン侯爵令息。


彼は侯爵家の長男なのですが、くすんだ金髪に灰色の目の平凡な容姿、成績も中の上程度。


侯爵家の跡取りということ以外に取り柄がない平凡な男です。


どうせならザロモン家の次男のリックと婚約したかったですわ。


リックは金色の髪に緑の瞳、美しい顔立ちで、頭脳明晰、おまけに魔力も高く、第二王子殿下のお友達。


将来魔術師団長になるといわれているほど才能に溢れた美少年。


どう考えても美しいわたくしに釣り合うのは、平凡なフォンジーではなく、才能豊かなリックですわ。


リックが三歳年下で次男でなければ、わたくしの婚約者は彼に決まっていたでしょう。


でも平凡な兄と結婚して、美少年の義弟を可愛がるというのも悪くありませんわ。


リックのことを気難しいと言う方もいますが、彼はわたくしのことを実の姉のように慕って、何でもわたくしの言うことを聞いてくれるとっても良い子ですわ。


いつか可愛いリックにも婚約者ができる日が来るのでしょう。


その方はきっと侯爵家より格上の貴族の令嬢で、見目麗しく、才能に溢れた方に違いないわ。


そうね、才色兼備と評判のブルーノ公爵家のカロリーナ様か、見目麗しく武勇に優れたメルツ辺境伯家のマダリン様、彼女たちにならリックを譲って差し上げてもいいわ。


それなのにリックの婚約者に決まったのは、グロス子爵家のエミリー。


彼女はありふれた茶色い髪に茶色い目の平凡な容姿をした下位貴族の令嬢でした。


こんな地味でなんの取り柄もない女が、賢くて可愛くて将来有望なリックの婚約者ですって! 許せないわ!


お父様が言っていたわ、グロス子爵は金儲けが得意な男だと。


グロス子爵はきっと、ザロモン侯爵家の窮地に付け込んで、侯爵家に融資する替わりに強引に自分の娘とリックの婚約を結ばせたに違いありませんわ!


だというのに、フォンジーもリックも「エミリーは親切で可愛らしい子だね」と言ってあの女に好感を抱いている。


ふたりともあの女の本性を知らないから騙されているのね!


父親が金で人を買うような悪人なら、その娘も悪人に決まっていますわ!


わたくしが二人の目を覚まさせてあげますわ!









ある日ザロモン侯爵家のお茶会に行くと、フォンジーもリックも、エミリーから刺繍入りのハンカチをもらってニコニコしていた。


どうやらハンカチに刺繍したのはエミリーらしい。


その上、お茶に出されているクッキーやマフィンを作ったのもあの女だという。


ふたりともエミリーから贈り物をされてデレデレしちゃって……!


これだから下位貴族の娘は嫌ですわ! 物で人の心を掴もうとするなんて最低の行為です!


ちょっと前まであの二人にちやほやされていたのはわたくしだったのに……!


悔しい……! あんな地味な子にわたくしの居場所が取られるなんて許せない!


見ていなさいエミリー・グロス! 目にもの見せてやりますわ!


それからわたくしはエミリーの好感度を下げる計画を練った。


お茶会の次の週はリックの誕生日だった。


エミリーはリックに魔導書を送っていた。


それはアブト伯爵家でも簡単には用意できない貴重な本だった。


リックはエミリーからプレゼントを貰ってニコニコとほほ笑んでいた。


本当に下位貴族の娘は卑しいですわ! お金で人の心を掴むのに長けていますね!


エミリーはフォンジーには刺繍入りのハンカチを送っていた。メイドに頼んでハンカチを持ち出してもらい、裏でこっそり切り刻んでおいた。


リックと婚約しておきながら、わたくしの婚約者にまで色目を使うなんて最低ですわ!


ハンカチと同じように、エミリーとリックの仲をズタズタに切り裂いてあげますわ!


跡継ぎ教育を受けたフォンジーは人の言葉に簡単に左右されませんが、次男で跡継ぎ教育を受けていないリックは、わたくしの言いなり。


ちょっと印象を操作すれば、エミリーのことなんかすぐに大嫌いになりますわ。


わたくしはリックの誕生日の翌日、ザロモン侯爵家を訪れた。


リックは分厚い本を抱えてニコニコしながら、

「義姉上! エミリーから誕生日プレゼントに珍しい魔導書をもらったのです!

 かなり前に絶版になっていてなかなか手に入らないものなのですよ!

 エミリーが子爵に頼んで遠い異国の地から取り寄せてくれたのです!」

と言って本を自慢してきた。


気難しいリックを高価な品で手懐けるなんて、金儲けだけが得意な子爵の娘がやりそうなことですわ。


「リック、知っているかしら?

 エミリーはあなたのことをこう言っていたのよ。

『貧乏貴族の令息を手懐けるのは、犬を手懐けるより簡単だ。骨の代わりに物をやればしっぽをふって飛びついてくる。奴らはそこらの野良犬より卑しい』ってね。

 きっとその魔導書もリックの心を得るための道具なんだわ。

 純粋なリックの心をもて遊ぶなんて酷い女ね」


その瞬間、リックの顔から笑顔が消えた。


リックは持っていた魔導書を床に叩きつけ、思い切り踏みつけた。


「あの女、心の底では僕を馬鹿にしていたのか! 許せない!!」


リックは思い込みが激しいから、プライドを刺激すれば簡単に操れる。


実の姉のように慕っているわたくしの言葉を簡単に信じた。


それからリックはエミリーに冷たく当たるようになった。


エミリーには常に塩対応、彼女とのお茶会やデートをすっぽかし、彼女から貰ったプレゼントは売るか捨てるようになった。


フォンジーが二人の仲を取り持とうと必死になっていたが、一度エミリーから離れたリックの心は彼女の元に戻らなかった。


婚約者のリックに冷たくされて、泣きべそをかいているエミリーを見るのは爽快だった。


下位貴族は上位貴族に蔑まれ、ぞんざいに扱われ、地べたに座って泣きべそをかいてるのがお似合いなのよ!


エミリーの泣き顔を見て、わたくしはようやく溜飲を下げることができた。








それから何年かして、わたくしとフォンジーは学園を卒業した。


わたくしたちが卒業した翌年、リックとエミリーが学園に入学した。


本当は卒業後すぐにフォンジーと結婚する予定だったが、昨年ザロモン侯爵家の領地が水害に見舞われ、彼が侯爵の代わりに領地の復興事業の指揮を取ることになったのだ。


ザロモン侯爵は魔術師団長の職にも就いているので、とても領地の復興までは手が回らないのだ。


フォンジーから「君との結婚を二年延期したい」といわれた時は婚期が遅れることに腹が立った。


しかしこれはある意味チャンスだった。


フォンジーは良く言えば質素倹約をむねとし慈善事業が大好きなお人好しの節約家、悪く言えばしみったれた人がいいだけの男。


口を開けば「誕生日プレゼントはいらないから孤児院に寄付してほしい」とか、「今年は日照りが続いて民が困窮しているからパーティへの出席を控え、華美な装いも慎もう」とか、貧乏くさいことばかり言う。


そんな質素倹約が服を着て歩いているようなけちくさいフォンジーから離れ、二年間も王都で過ごせるなんて天国だわ!


二年間羽目を外したあとは、堅物のフォンジーと結婚して侯爵夫人になってあげるの!


わたくしの人生設計は完璧だわ! わたくしの人生はバラ色ね!


フォンジーが田舎に引っ込んだら、おしゃれをしてパーティやお茶会に参加しましょう!


今なら彼が着るなと言っていた露出度の高いドレスを着放題よ!


彼が身に付けるのを嫌がっていた、派手なアクセサリーも付け放題だわ!


民の困窮してるだの、孤児の住居がどうたらだの、ノブレス・オブリージュの精神だの、「君も誕生日プレゼントも教会に寄付して見るといいよ心が安らぐから」だの……善意を押し売りされることにも、道徳の精神を説かれるのにもうんざりしていたのよね!


フォンジーがいない二年間は、彼の目を気にせず豪華なアクセサリーを沢山買えるわ!


「そのアクセサリー代で孤児の食事何食分が賄えるのか……」とか、嫌味を言われることがなくなるのね!


うんと飾り立てて、わたくしの美しさを貴族の令息たちの目に焼き付けてやる!


仮面舞踏会に参加し、フォンジーがいない間にひとときのアヴァンチュールを楽しむのも、良いかもしれないわね。


わたくしはフォンジーがいない間、王都での生活を満喫することにした。



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