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49話「未来への希望」




色々なことがありましたがゼーゲン村を離れる時が来ました。


「ザロモン卿、王都のタウンハウスにある僕の部屋は今どうなってるでしょうか?」


「君がいなくなってからも、ずっとそのままにしてあるよ」


「罪人となった僕の部屋を、そのまま残していてくださるなんて、ザロモン卿らしいですね。

 でもそれを聞いて安心しました。

 もし差し支えがなければ、部屋にあった魔導書を送っていただけないでしょうか?」


「魔導書を?」


「こんなことを頼める立場ではないのですが、この村では本を一冊買うのも大変なのです。

 魔導書は特に高価で、とても手が出せません。

 僕は体に魔法封じの印を刻まれています。

 ですから僕自身は魔法を使うことができません。

 ですが村人の中には、魔術の才能がある人もいます。

 僕はその才能を伸ばしてあげたいのです。

 もし彼らが魔法を使えるようになったら、天候に関係なく植物に水を与えることができます。

 その他にも、今より効率よくモンスターを退治することができるようになります」


荒野であるこの土地では水は貴重なもの。水の魔法が使える人がいたら重宝しますね。


モンスターを定期的に 間引くことができれば、スタンピードの被害を減らすことができます。


「ですが初級の魔法ならともかく、難しい魔法は魔導書なしでは説明ができず、困っていたのです」


天才と称えられたリック様といえど、全ての魔術書の内容を覚えているのは困難だったようです。


「分かった。

 そういうことならすぐに魔導書を送ろう」


「ありがとうございます。

 それから差し出がましいお願いですが、僕の部屋はもう別の誰かの部屋にしてください。

 あの部屋は屋敷でも一番広く、日当たりのいい部屋です。

 ザロモン卿も結婚なさいますし、いつまでも僕の部屋にしておくのは申し訳ありません」


「うん分かった。そうするよ」


そういったフォンジー様の横顔は少し寂しそうでした。


フォンジー様は、追放されたリック様の部屋をそのままにしておくほど、彼のことを大切に思っていました。


彼の部屋を片付け、誰かの部屋にするのは、フォンジー様にとってお辛いことなのでしょう。


「魔導書といえば、グロス子爵令嬢には申し訳ないことをいたしました」


「えっと、何のことでしょうか?」


「幼い頃、グロス子爵令嬢は僕に貴重な魔術書をプレゼントしてくださいました。

 しかし、あの頃の僕はデルミーラに騙されていて、あなたは悪い人だと思い込んでいました。

 それであなたにひどい言葉を言ってしまった。

 あの魔術書がどれほど貴重なものかの知らず、本当に申し訳ありませんでした!」


リック様は深々と頭を下げました。


「もう気にしていないから、大丈夫ですよ」


リック様もデルミーラ様に騙されていた被害者ですから。


「リック、君のゼーゲン村での活躍は聞いている」


殿下がリック様に声をかけました。


殿下に声をかけられ、リック様は萎縮しているみたいです。


「領民に文字を教え、薬草園を作り、栽培した薬草から煎じ薬を作り民の怪我や病気を治した。

 さらに人々に魔術を教えてるそうだね。

 村人が魔法を使えるようになり、定期的にモンスターを間引けるようになったら、この国のスタンピード被害は大きく減少するだろう。

 そうなったら君には恩賞を与えなくてはいけない。

 その時は君の体に刻まれた魔法封じの印を解き、王都にも自由に出入りできるようにしよう」


「殿下、僕のようなものにそのようなもったいないお言葉……」


「僕もね、下々の者の話が聞きたいんだ。

 それに王都には図書館もあるし、珍しい魔術書を売ってるお店もある。  君のような優秀な人間が王都に出入りできないのは、もったいないからね」


「殿下、僕が拷問に耐えられず仲間の名前を話してしまったせいで、元側妃様や、アルド様や、ベナットにご迷惑をおかけしてしまいました。

 そのような僕が罪を許され、王都に出入りするなど恐れ多く……」


「君は彼らを罠にはめて、人生を破滅させたわけじゃないだろ?

 彼らが裁かれたのは、彼らが罪を犯したからだ。

 いわば自業自得だ。

 君の口から彼らの名前がもれなくても、彼らはいずれ捕まっていただろう。 

 彼らにも更生の機会を与えた。

 それをものにできなかったのは彼ら自身だ。

 君が気に病むことではない」


「殿下……もったいない言葉です」


殿下に頭を下げたリック様の頬は涙で濡れていました。


リック様もこれで心の枷が外れたことでしょう。


「王子様、お嬢様、あのね……リック先生をいじめないであげて。

 先生は私たちのとっても大切な人なの」


黒髪の十歳くらいの女の子が話しかけてきました。


リック様が私たちの頭を下げ、泣いているのを見た彼女は、私達がリック様をいじめていると勘違いしたのでしょう?


「大丈夫ですよ。

 私たちはリック様のことをいじめていませんよ。 

 寧ろ私たちはリック様の味方です」


「本当? 良かった」


女の子は愛らしい笑みを浮かべました。


リック様は本当に村の人たちに好かれてるみたいです。


「お兄さん、あのね……お兄さんはリック先生の実のお兄さんなんだよね?

 あのねボクお願いがあるの、リック様を連れてかないで……!」


フォンジー様が村の男の子に声をかけられていました。


男の子の容姿は、先ほど私に話しかけてきた女の子に似ています。二人は兄弟もしくはいとこでしょうか?


「ボクまだまだわかんない文字がたくさんあるし、知らない言葉や地名もたくさんあるし、魔法だってまだ使えるようにならないし、だからリック先生を連れて帰られたら困るの!

 ボクいい子にするから!

 水汲みもちゃんとやるし、植物のお世話もちゃんとするし、早起きもするし、寝る前に歯磨きもする……だからお願いします!

 リック先生を連れてかないで!」


フォンジー様は優しい笑みを浮かべ、膝を折って男の子に目線を合わせました。


「大丈夫だよ。

 君たちの先生を連れて行かないから、安心して」


フォンジー様は、優しく男の子の頭を撫でました。


「本当?」


「うん本当だよ。

 その代わり君がリックを守ってあげて。 

 弟は未だにピーマンを食べられないし、人参もすりつぶしてスープに入れないと食べられないし、魔導書を読むと時間を忘れて没頭してしまうし、お菓子でカロリーは取ったからご飯はいらないとか言うし、一つのことに集中すると寝ることも食べることもお風呂に入ることも忘れちゃうんだ。

 だから君がそばにいて、見ていてあげて欲しいんだ」


「うんわかった!

 ボク、リック先生のために人参をすり潰してスープに入れてあげるね」


男の子は満面の笑みを浮かべて頷きました


「兄上……いえ、ザロモン卿、僕の話はこのくらいで……」


リック様は耳まで赤くされていました。


そうですよね。


大人になっても、人参をすりおろしてスープに入れないと食べられないのを、子供達の前で暴露されるのは恥ずかしいですよね。


「すまないリック、君のことが心配で」


フォンジー様は立ち上がると、リック様の頭をよしよしと撫でました。


「僕はもう子供ではありませんから……」


本当にこの兄弟は仲良しです。


ジェラシーを感じてしまいます。


「リヒト、シャイン、僕はもう少し話があるから向こうに行ってて」


「「はーい!」」


お友達が村の人のところにかけて行きました。


「王太子殿下、ザロモン卿、このようなことをお願いできる立場ではないのですが、僕の話を聞いていただけますか?」


「何かな?

 フォンジーの弟のお願いだからできることなら聞いてあげるよ」


「私にできることは何でもしよう。話してくれ」


「ありがとうございます。

 先ほどの子供たちなのですが、黒い髪なのが理由で、元の村で忌み嫌われ この村に捨てられました」


まあ、地方ではそのような風習がまだ残っていましたのね。


ずっとずっと昔、今から何百年も前にはそのような風習があったと聞いたことがあります。


黒髪のマダリン様が、堂々と社交界に参加しているので、そのような風習はなくなったと思っていました。


「この国の子供達がそのような理由で迫害を受けるのは、王家としても望ましいことではない。善処しよう」


「私ももちろんそのような差別がなくなるように、できるだけのことをするよ」


「ありがとうございます!」


リック様はまた深々と頭を下げました。


他人のことを思いやり、他人のために涙を流し、他人のために頭を下げる……。


王都にいた時の自分勝手だったリック様はもういないのですね。


彼は成長し大人になったようです。








こうして私たちはリック様や村の方たちに見送られ、王都への帰路に就きました。




読んで下さりありがとうございます。

少しでも面白いと思っていただけたら、広告の下にある【☆☆☆☆☆】で評価してもらえると嬉しいです。執筆の励みになります。


次回本編最終話です!

最終話は今日の夜アップ予定です!

最後までお付き合い頂けると幸いです!


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