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連載版・夫婦にはなれないけど、家族にはなれると思っていた・完結  作者: まほりろ
第八章「リック編後編・荒野にて」リック視点
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43話「誘拐犯の正体」リック視点



「えっ……とぉ……ここはいったい? 皆さんはどこのどなた様でしょう?」


馬車が止まり、僕は馬車から降ろされ、頭に被せられていた麻袋を取られた。


目を開けると、そこは粗末な家の中だった。


粗末な服を着た人たちが僕のことを取り囲んでいた。


さっきは感じなかったから今すぐ殺されるということはなさそうだ。


「ゼーゲン村のリック様とお見受けしました!

 どうか我らにお力をお貸しください!」


代表者らしき中年の男が床に膝をついて頭を下げると、彼の後ろにいた連中も同じように床に膝をつき頭を下げた。


えーっと、これは本当どういう状況??


とりあえずこの人たちは僕に危害を加える気はないらしい。


命の危機は去ったので、僕はホッと息をついた。


「…………縄を解いてもらえますか?

 話はそれからと言うことで」


僕の手は後ろで縛られたままだった。


「これは気づきませんでした」


代表者らしき男が合図すると、若い男が僕の縄を解いてくれた。


やっと 両手が自由に使える。


「わしはハイル村の村長をしておりますヴァッサーと申します。

 リック様に折り入って頼みがあります」


「なんですか?」


ゼーゲン村の村長さんが、他の村とは良好な関係を保っておきたいと言っていたから、取り敢えず低姿勢で対応しておこう。


「わしらにも文字を教えてほしいのです!」


「はっ?」


「ゼーゲン村の村長が年老いて目を悪くし、文字が読めなくなったことは存じております」


僕がグランツさんに保護された日、グランツさんはハイル村の村長さんに手紙を読んで貰いに行っていた。


ハイル村の人たちが、ゼーゲン村の村長さんが目が見えなくなったことを知っていても不思議ではない。


「しかしゼーゲン村の者はこの三か月、一度もわしのところに書状を読んでくれと頼みに来なかった。

 それどころか、わしが教えた書状の内容が間違っていると指摘してきた。

 他の村の者に書状を読んで貰っている様子もない。

 それで若い者に調べさせたのです!

 ゼーゲン村で何が起きているのかを!

 そしてゼーゲン村に三か月前から若い男が住み着いたことを知ったのです!」


「それで僕を拐ったのですか?」


なるほど彼らは、村で唯一文字が読めたゼーゲン村の村長が目が見えなくなったのに、書状の内容を理解しているということは、文字が読める者が新たに村に住み着いたと考えたわけか。


彼らの推測はほぼ当たっている。


「お願いします!

 リック様、どうかこの村に住み我々に文字を教えてください!」


「「「お願いします! リック様!!!!」」」


その場にいた人たちが全員に頭を下げられた。


「皆さん頭を上げてください」


「では、リック様!

 我々に文字を教えてくださるのですか?」


「こんなやり方をしなくても元々ゼーゲン村の村長さんは、近隣の村の人をゼーゲン村に集め、文字や薬草について教えるつもりでしたよ」


「えっ?」


「ヴァッサーさん。

 村の人を思う気持ちはわかります。

 でもこんなやり方は間違っています。

 こんなやり方ではゼーゲン村とハイル村の間に溝を作るだけです。

 相手の気持ちを尊重しなくては、まとまる話もまとまりません。

 僕もいきなり連れてこられて、少し不愉快です」


進級パーティーでやらかして、無実の婚約者を断罪し、その後も酷い態度を取った僕に、「相手の気持ちを尊重しろ」なんて説教をたれる資格はない。


どの口が言ってるんだ……と自分で自分を罵りたくなった。


「ゼーゲン村の村長がそのような寛大な心をお持ちとは知りませんでした。

 ゼーゲン村の者はリック様を独り占めし、知識で我々にマウントを取ってこようとしていると思っていました。

 ……我々は浅はかでした。

 申し訳ありません!」


「「「申し訳ありませんでした!! リック様!!!!」」」


村長さんとその他の村の人たちが、再び僕に向かって頭を下げた。


「あの、もういいですから。

 それよりも僕をゼーゲン村に帰していただけませんか?

 同居人が心配していると思うので」


僕は泣いて家を飛び出したあと、彼らに拉致されてこの村に連れて来られた。


急にいなくなった僕を、グランツさんたちが探しているかもしれない。


心優しい彼らにこれ以上心配をかけたくない。


「それはもう今すぐにでも、ゼーゲン村までお送りします」


ハイル村の村長さんが僕の申し出を了承してくれた。


その時……。


「リックーーーーー!!!!!」


と誰かが外で僕を呼んでる声が聞こえた。




◇◇◇◇◇





「リックーーーーー!!!!!」


声は徐々に僕のいる小屋に近づいてくる。


この声には聞き覚えがある。


僕は小屋の外に出た。


外に出ると僕のよく知っている人がいた。


「グランツさん!

 それにリヒトとシャインも!」


声の主はグランツさんとリヒトとシャインだった。


三人の乗った馬車がこちらに近づいてくる。


「どうしてここに……」


「リック、無事で良かった!」

「リックさぁぁぁぁん!」

「リックさん、いなくならないで!!」


グランツさんとリヒトとシャインが馬車から降りてきて、僕に抱きついてきた。


「えっと……みんなどうやって僕の居場所を……?」


「リックが家から飛び出したあと、なかなか帰って来ないからみんなで外を探したんだ!」

「それで不審な車輪の跡を見つけたから、跡を追ってきたの!」

「ボクたちとっても心配したんだよ!」


みんな僕を心配して探しに来てくれたんだ。


胸の奥がポカポカする。


目頭が熱い。


罪を犯して追放された僕のことを、心配してくれる人がいる……そのことが単純に嬉しかった。


もっとも、彼らは僕が犯した罪について知らないのだが……。


「リック先生泣いてるの? 誰かにひどいことされたの?」


「あ……いやこれは」


嬉しだけだなんて小さい子には言いづらいな。


「リックお前、ハイル村の奴らに誘拐されたんだろう?」


グランツさんが僕の手に出来た、縄で縛られた痕に気づいた。


グランツさんに問われ、僕はどう答えようか迷った。


ゼーゲン村とハイル村が、今後も良好な関係を保つためには本当の事を言わないほうがいい気がする。


「えっと……ハイル村の人が僕に文字を教えてほしいと頼みに来て、詳しい話を聞くために僕は自ら彼らの馬車に乗ったんです。

 みんなに黙って村を出てすみません。

 心配をかけないように、すぐに戻るつもりだったんです」


ハイル村の村長が小屋からこちらを見ている。


話を合わせてという意味を込めて、僕はハイル村の村長さんに目配せした。


ハイル村の村長さんは僕の目配せの意味に気づき、コクリと頷いた。


「リック……嘘をついてないか?」


グランツさんが僕の目を真っ直ぐに見つめてきた。


グランツさんに曇りなき眼で問われ、僕の心臓は一瞬ドキリとした。


「うっ、嘘なんかついてないですよ」


グランツさんが僕の手首にある縄で縛られたあとを見て、ため息を漏らした。


「まぁ、お前さんがそういうことにしたいなら、俺もこれ以上は何も聞かないでおこう……」


グランツさんには、僕がハイル村の人たちに誘拐されたことがバレている気がする。


「ハイル村の村長さん。

 リックはゼーゲン村の一員で、俺たちの大切な仲間なんです。

 これからは彼を連れ出すなら、ゼーゲン村の村長の許可を取ってからにしてもらいますよ」


グランツさんがハイル村の村長さんを見据え、強い口調で言った。


「リック様、グランツ殿、済まなかった。

 今後はそうさせていただく」


ハイル村の村長さんが、僕とグランツさんに向かって頭を下げた。








この一件はこれにて解決した。


グランツさんにはその後も「お前は人が良すぎる」とか色々言われた。


心配をかけてしまったことは本当に申し訳なく思っている。


だけど村の揉め事を大きくしたくないから、誘拐されたことはやはり言えない。


昔の僕なら他人のために自分が不利益を被ることは一切しなかった。


僕がこの村に来てかなり変わったんだな。


それは多分、善良な村長さんやグランツさんの優しさに触れたからだと思う。


恥ずかしいからみんなには内緒だけどね。




 


一カ月後。


みなの協力を得てゼーゲン村に小さな学校を作った。


ここに近隣の村の子供たちを集めて、文字や算術や薬草の名前を教えることになった。


各村の人たちが、子供たちが文字を教わっているお礼として、野菜やモンスターや野獣の肉を届けてくれた。


ゼーゲン村はちょっとだけ豊かになり、グランツさんの家の食卓にもお肉が出る回数が増えた。


育ち盛りのリヒトとシャインがいるので、お肉を出せる回数が増えるのは有り難い。




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