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連載版・夫婦にはなれないけど、家族にはなれると思っていた・完結  作者: まほりろ
第七章「王都パーティー編」エミリー視点
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35話「王太子エナンド・ロート」



「はぁ……」


「エミリー嬢、大丈夫? しっかり!」


殿下が去った後、フォンジー様の周りに集まっていた野次馬も、いつの間にかいなくなっていました。


ほっとしたら一気に力が抜けてしまいました。


よろめいた私をフォンジー様が支えてくれました。


彼の腕の中は、とても心地いいです。


「安心したら気が抜けてしまいました」


「私の為に気丈に振る舞ってくれるのは嬉しいけど、無茶はしないで」


「すみません。

 でもフォンジー様が責められてるの見たら、いてもたってもいられなくなって……」


「フォンジー様……」


「エミリー嬢……」


「あー、ゴホンゴホン!

 二人だけの世界にいるところ申し訳ないが、話しかけてもいいだろうか?」


振り返るとカロリーナ様とマダリン様が立っていました。


お二人には心配をかけてしまいました。


「別に二人だけの世界にいたわけでは……」


フォンジー様に抱きしめられているところを、お二人に見られていたのかと思うと気恥ずかしいです。


「カロリーナ・ブルーノ公爵令嬢と、マダリン・メルツ辺境伯令嬢ですね?

 初めましてザロモン侯爵家の当主、フォンジー・ザロモンと申します」


ここからしばらく社交辞令を交えた挨拶を交わしました。


私は友人二人にフォンジー様を紹介し、フォンジー様にはカロリーナ様とマダリン様を紹介しました。








「気がついたらエミリー様の姿が見えなくなっていて、探したらワインの瓶を持った酔っ払いの前に立っていたんですもの。

 わたくし気が気ではありませんでしたわ」


「助けに入りたかったのだが、ザロモン卿がエミリー様を守り、酔っ払いは王太子殿下が取り押さえていたので、わたしの出る幕はなかったな」


「すみません。お二人にはご心配をおかけしました」


「二年前進級パーティーで断罪された時は、生まれたての子鹿のようにプルプルと震えるだけだったエミリー様が、勇ましく酔っ払いの前に飛び出し、 婚約者は守りながら、あのような啖呵を切るまで成長するとは思ってもみなかった」


「エミリー様のような方は、ご自身のためではなく、大切な誰かのために動けるタイプなのですわきっと」


これらは褒められてるんですよね。


「それにしても驚いたな。

 ザロモン卿が王太子殿下の友人だったとは。

 エミリー様はこの事を知っていたのか?」


「いえまったく」


事実を突きつけられた今でも、にわかには信じられません。


フォンジー様が王太子殿下のご友人だったなんて。


「驚いたといえば、王太子殿下がかつらやコンタクトレンズを使って、変装して出歩いていた事にも驚いた。

 カロリーナ様は知っていたのか?」


「父からそれとなく聞いてはおりました。

 あの方はご自身の素顔を知ってる方に、正体がばれないように、認識阻害の魔法も使っていたようです」


認識阻害の魔法まで使うなんて、手がこんでますね。


「認識阻害の魔法を使い、偽名と偽の身分まで用意していたとはな」


殿下の正体が分かった今考えてみれば、殿下の偽名のナード・トロエンは、彼の本名のエナンド・ロートのアナグラムになっています。


「フォンジー様はトロエン子爵令息の正体が王太子殿下だと、いつから気づいていたのですか?」


王太子殿下とフォンジー様の会話から推測して、殿下はフォンジー様には正体を打ち明けていたみたいです。


「私も最初は気づかなかったよ。

  学園では殿下は影武者も立てていたしね。

 私は影武者の方をすっかり本物の王太子だと信じていた。

 同じクラスのナード・ トロエンとは、なんとなく仲良くなって、一年ぐらい過ぎた頃、『実は僕が本物の王太子なんだよね』と言われたんだ。

 あの時は本当に一年分の雷が一気に落ちたんじゃないかってぐらい、衝撃だったよ」


「いかにもいたずら好きの殿下がやりそうなことですわ」


フォンジー様の心中をお察しします。


「自分の口で正体を明かすまで、この事は秘密にしてくれと、言われたから言えなかったんだ。

 ごめんねエミリー嬢」


「いえ、そのような事情があったのでしたら仕方ありません」


そのような秘密、婚約者にも言えませんよね。


フォンジー様との秘密を共有していた 殿下には、ちょっとだけジェラシーを感じてしまいます。


「フォンジー様、殿下はどうしてこのような真似をしていたのでしょうか?

 ただのいたずらの延長とは思えないのですが」


「それは多分これから殿下の口から発表があると思う。

 おそらく彼は貧乏貴族のふりをして 、王室に敵対する貴族を探っていたんだろうね。

 王族の自分に対してではなく、貧乏貴族に変装した自分に、人々がどのように接するかで、相手の本性を見抜こうとしていたというのもあるかもしれない」


なるほど殿下は道楽で変装をしていたわけではないのですね。


「殿下にはそのような深いお考えがあったのですね」


そしてフォンジー様のお人柄は殿下のお眼鏡にかなった。


やはりフォンジー様は誰よりも素敵で、素晴らしい人格をお持ちの方です。


「東方の国に『ひとたび鳴けば人を轟かす』という言葉がある。

 三年鳴かず飛ばずでいた鳥に、『この鳥は何の鳥でございましょう?』 と尋ねた家臣に、さる国の王が答えた言葉だ。

 彼は三年間変装をして国中を巡り、人々の様子を探っていたんだ。

 彼が表舞台に立った今、この国は大きく変わっていくだろう。

 もちろん良い方向にね」


フォンジー様は確信を持った顔で、嬉しそうにそう語りました。


この後国王陛下と一緒に会場に入ってきた王太子殿下は、今まで変装していた理由と、表舞台に顔を出さなかった理由を述べました。


そして、これからこの国をどうしていきたいかも語ったのです。


それはフォンジー様の予想とだいたい合っていました。


そして不正を働いていた貴族は、王太子殿下によって一掃されたのです。


まさかその件に、思いもよらない人物が関わっているとは…………この時の私は知るよしもありませんでした。



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