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連載版・夫婦にはなれないけど、家族にはなれると思っていた・完結  作者: まほりろ・ネトコン12W受賞・GOマンガ原作者大賞入賞
第六章「侯爵領改革編」エミリー視点

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29話「農園を見に行きたいんです!」



エミリー視点



「フォンジー様、私苺農園を見に行きたいです!」


「朝から元気だね。

 エミリー嬢、まずは朝食を食べようか」


「昨日、フォンジー様は私が行きたいと行ったところに、全部連れてって言ってくれるとおっしゃいました!」


ザロモン侯爵邸の朝は早いです。


私も早起きして、食堂の椅子に腰掛け、新聞を読んでるフォンジー様を直撃しました。


「確かに言ったけど。

 聞いてもいいかな?

 行きたい場所が何で苺農園なのか?」


フォンジー様に促され、私も席に着きました。


メイドさんがホットミルクティーを淹れてくれました。


さすが侯爵家のメイドさん、仕事が早いです。


「昨日私はベッドの上で考えたんです。

 ここにいる間に計画をいくつ実行できるか?

 それで季節のフルーツを使ったお菓子作って、今度の日曜学校の後に出すことにしました!」


「それで苺農園が見に行きたいんだ」

 

「はい、本当は夏に収穫されるぶどうや桃の畑が今はどんな状態なのかを見ておきたかったんですけど、今回は苺だけに絞ることにしました」


侯爵家の名産品は、春は苺、夏はぶどうと桃、秋は梨とりんごです。


今、収穫が盛んなのは苺。


滞在中に苺のお菓子だけは作りたいです。


レシピを領民に公開して、観光客用のお菓子として売り出す計画です。


ずっと滞在するのがダメなら、夏と秋にまた来ればいいんです。


その時にぶどうや桃を使ったお菓子を 考えようと思います。


「今回は……って言い方がなんだか気になるんだけど」


「そこはお気になさらないでください」


フォンジー様、鋭いです。


私が夏と秋にまた来ようとしてるのに気づいたのかもしれません。


「いいよ。今日は苺農園を見て回ろう。

 農園に先触れを出しておくね」


「ありがとうございます」


フォンジー様から、苺農園を見に行く 許可を頂きました。


その時 朝食のサラダが運ばれてきました。


みずみずしい野菜がお皿いっぱいに盛り付けられています。


「このサラダに使われてる野菜はどこから?」


「こちらは邸宅内の植物園で採取したものです」


食事を持ってきてくれたメイドさんに尋ねると、丁寧に答えてくれました。


「植物園があるんですね。わー見てみたいです」


「後で案内するよ」


「フォンジー様が案内してくださるんですか ?

 嬉しいです。

 ありがとうございます」


午前中は苺農園を見て回って、今後は苺を使ったお菓子を作って、夕方に植物園を見たいです。


今日は忙しくなりそうです。


「うん、なんか……そんなに喜ばれる と、照れくさいね……」


フォンジー様のお顔が赤くなっていました。


温かいスープを召し上がったからでしょうか?





◇◇◇◇◇






「えっ? フォンジー様が案内してくださるんですか?」


支度を整えて玄関に向かうと、馬車の前にフォンジー様が立っていらっしゃいました。


「領主自ら案内した方が、色々と話が早いと思ってね」


「ご当主自ら農園に出かけていただければ、農家の方にお話も通しやすいと思います。

 それは大変助かります。

 ですがフォンジー様もお仕事はお忙しいのではありませんか?」


さすがにそこまで、ご迷惑をかけられてきません。


「仕事のことは心配しなくても大丈夫だよ。

 ちゃんと終わらせてあるからね」


「そうでしたか」


「馬車は別々にするから心配しないで」


「はい?」


私は別にフォンジー様と一緒の馬車でも、問題ないですが。


「旦那様、申し訳ございません。

 控えの馬車が故障してしまいました」


「えっ?」


その時執事さんがやってきて、フォンジー 様に馬車の故障を伝えました。


「大変申し訳ございませんが、グロス 子爵令嬢と、一緒の馬車を使っていただけないでしょうか?」


「いやそれはさすがに……」


「私は別に構いませんよ」


「エミリー嬢?」


「同じ場所に行くのに馬車を二台も出すなんて、もったいないと思っていたんです」


「しかし君は未婚の令嬢で、家族以外の男と気軽に同じ馬車に乗るべきでは……」


「その点は心配ありません。

 お父様もお母様も、カロリーナ様とマダリン様も、フォンジー様となら二人きりになっても大丈夫だと、言っておりましたから」


フォンジー様はお兄様のような存在だから、安心できるっていう意味ですよね。


「君のご両親も友人も、純粋な君に何を吹き込んでいるんだ……」


フォンジー様が大きく息を吐き、ご自身の手で額を覆われました。


「わかった。

 一緒の馬車で出かけよう。

 私は御者席に乗るから」


「ご当主を御者席に乗せて、私が客席に乗って領地を回るなんて、そんなことできません」


フォンジー様は大変領民に好かれています。


そんなことをしたら、皆に失礼な子だと思われてしまいます。


「フォンジー様を御座席に乗せるくらいなら、私が御者席に乗ります!」


「君は 当家のお客様だ。

 しかもうら若き令嬢だ。

 令嬢を御者席に乗せ、自分だけ客席に乗れるわけがない。

 私の人間性を疑われてしまう」


「私が御者席に乗ります」


「いいや、私が乗る」


フォンジー様、意外と頑固な人だったんですね。


「あのお取り込み中申し訳ありませんが、今すぐ出発しないと、農園を訪れる予定の時刻が過ぎてしまいます」


執事さんに言われて ハッとしました。


このままでは農園の方に迷惑をかけてしまいます。


ただでさえ急に来訪することでご迷惑をおかけしているのに、その上遅刻なんてできません。


「ですがまだ、どちらが客席に乗るか決まっていません」


「でしたらこういたしましょう?」









「ごめん、狭くない。

 なるべくそっちに行かないようにするから」


「大丈夫です。

 むしろ広くて快適です」


執事さんの提案で、私とフォンジーが一緒に客席に乗ることになりました。


最初からこうしておけばよかったんですよね。


フォンジー様がなぜか私と一緒に客席に乗ることを嫌がるから。


「フォンジー様こそ窮屈ではありませんか?」


「私は平気だ」


フォンジー様は馬車の端によって、身を縮こまらせていました。


フォンジー様にご迷惑をかけてしまったようです。


何か彼の気を紛らわせるようなことをしなくては。


「見てくださいフォンジー様、麦畑です」


窓の外には一面の麦畑が広がっていました。


青々と茂った麦が風になびき、まるで海のようで、とても美しい光景でした。


「もう少ししたら麦が黄金色に変わる。

 そこを馬車で通るのも気持ちいいんだ。

 黄金の絨毯の上を歩いてるような気分になるよ」


「素敵な光景ですね。私も見てみたいです」


「君が王都に帰る頃には見えるかもね」


ということは麦が黄金色に変わるまでは、ここにいていいってことですよね?


だいたい一か月ぐらいでしょうか?


その間に新作のお菓子を作って、レシピをメイドさんや領民の方々と共有して。


それと並行して、刺繍の図案を皆に見せて、縫い方を教え、ご婦人方の冬の間の副業にできるようにしなくては。


お菓子も刺繍もこの地域の特産品として売り出したいですから。


「この先にね、リンゴ畑があるんだ。 今の時期は白い花が咲いていて綺麗だよ」


「まあ本当ですか?」


「ほら見えてきたあそこに見えるのが、ジャックさんの家のリンゴ畑だよ」


「どちらの方角ですか」


「ほらあそこ、馬車の進行方向……」


いつの間にかフォンジー様の距離が縮まっていて、お互いの手が触れ合っていました。


「すまない……!」


「いえ、私の方こそ」


お互いの手が触れ合ったのは一瞬で、フォンジー様はパッと離れてきました。


馬車に乗る時エスコートしていただくときも、フォンジー様の手に触れました。


だから慣れているはずなのに。


馬車の中でお互いの手が触れ合うのは、エスコートされる時とは違ったドキドキがあります。


何でしょう?


この胸のときめきは……?


「君に触れるつもりはなかったんだ」


「いえ、私の方こそすみません。

 外の景色が珍しくてついはしゃいでしまって……」


「…………」


「…………」


沈黙が気まずいです。


何か気が紛れることをしなくては。


そうだ! しりとりを提案するのはどうでしょう?


農園に着くまでのいい暇つぶしになります。


「フォンジー様、しりとりを……」


その時、馬車がガタンと音を立てて大きく揺れました。


気がつくと私はフォンジー様の胸に顔を埋めていました。


「旦那様、お嬢様、お気をつけください。

 この先、道が悪くなってるので揺れが激しくなります」


御者席から、御者の声が聞こえました。


「わかった。気をつける」


フォンジー様は短く返事をされていました。


「ごめん。しりとりはまた今度にしよう。

 揺れるから口を開かない方がいい」


「はい」


「君が怪我をしないように、目的地に着くまでは、私が支えているから」


「はい」


胸がドキドキします。


先ほどまで饒舌に話ができていたのに、今は返事をするのもやっとです。


顔を上げることができません。


今顔を見られたら、真っ赤になってるのがバレてしまうから。


フォンジー様の心臓の音が先ほどよりも早くなっています。


フォンジー様も緊張されているのでしょうか?


男の人に抱きしめられるなんて初めてです。


早くこの緊張から解放されたいのに、農園にいつまでも着いて欲しくないような……そんな不思議な感覚に襲われていました。





◇◇◇◇◇





「目的地に着きましたよ。

 旦那様、お嬢様」


馬車が泊まり、御者が馬車の扉を開けてくれました。


「お二人とも顔が赤いですが、何かありましたか?」


「な、何でもない。

 揺れがひどくて少し酔っただけだ」


「わ、私もです」


馬車が止まったタイミングで、私はフォンジー様から体を離しました。


まだフォンジー様に抱きしめられている感覚があります。


照れくさくて彼の顔が見れません。


彼の顔をチラリと覗くと、耳まで赤くしていました。


もしかして私も今そんな状況なのでしょうか?


これから農場の人と会うのに、赤面したままでは格好がつきません。


なんとかそれまでに心を落ち着かせないと!


「酔い覚ましに、新鮮な空気をしっかりと吸った方がいいですよ。

 帰りも同じ道を通るんですから」


御者に言われてハッとしました。


帰りもあるんですよね。


その時もまたフォンジー様に抱きしめられるのでしょうか?


想像しただけで顔に熱が集まってしまいます。




読んで下さりありがとうございます。

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