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27話「ザロモン侯爵領、復興のお手伝い」



一カ月後



「まさか本当に来るとは思わなかった」


「お手紙でも今日行くとお伝えしたはずですが?

 フォンジー様からもそれでよろしいと返事をいただきました」


今日、私はザロモン侯爵領のフォンジー様の邸宅を訪れています。


フォンジー様は私の乗った馬車を邸宅の前で迎えてくださいました。


私が馬車から降りるのをフォンジー様がエスコートしてくれました。


そして馬車から降りた私に、フォンジー様が開口一番おっしゃったのが先ほどの言葉です。


「ごめんね、気を悪くしないで。

 手紙を出した後、エミリー嬢の気持ちが変わったかなと……淡い期待があったものだから」


「私の気持ちは変わったりしません!

 私の決意は硬いんです!」


「そのようだね。

 立ち話もなんだから歩きながら話そう。

 君の部屋は用意してあるよ」


「え? お屋敷に住んでもいいんですか?」


ご当主であるフォンジー様にご挨拶をしたら、町に宿を取ろうと思っていました。


「復興途中だから街の治安も最善とは言えないし、長期滞在するならホテル暮らしも疲れると思って。

 迷惑だったか?」


「いいえ、とんでもありません。

 こちらこそ、ご迷惑おかけしてしまって申し訳ありません。

 でもお気遣い頂いて助かります。

 フォンジー様にはたくさん伝えたいことがあったんです。

 同じ家に住んでいたら、たくさんお話できますね」


「えっ? 私と話したいことがそんなにたくさんあるの?」


フォンジー様とお顔がほんのり色づきました。


今日は暑いですからね。


「はい。

 領地の果物を使って新作のお菓子を作りたいのです。

 そのために領地の作物を見て回りたいんです。

 それから教会の日曜学校の後、私のお菓子を提供したり、ご婦人を集めて 刺繍の図案を見せたりしたいのです。

 その話をしたくて。

 ご当主であるフォンジー様が事前に教会や領民にお話を通してくれたら、計画がスムーズに進みますから」


「あーうん、そういうことだね。

 わかってた、わかってたよ」


フォンジー様は少しだけションボリしていました。


何か気に障ることを言ってしまったでしょうか?





◇◇◇◇◇





「それで、君がここに来ることを君のご両親は反対しなかったのかな?」


部屋に荷物を置いた後、リビングに案内されました。


メイドさんが美味しい紅茶を入れてくれました。


新作のお菓子を作ったら、お菓子に合う紅茶を取り寄せることも考えなくてはいけませんね。


やることが一つ増えました。


ワクワクします。


「はい。

 実家に帰って跡継ぎを妹に譲りたいと言ったところ、妹は自分が家を継ぐ気まんまんでおりました。

 両親もそのつもりで妹を教育していたようです。

 両親も妹も私が隣国に残って、王宮に仕えるなり、お店を開くなりすると思ってたみたいです」


「そうなんだ」


「妹はすごいんですよ。

 私と違って幼いうちから領地を見て回り、農民の話を聞き、野菜を自分で収穫したりしてるんですから。

 すごい行動力です。

 私の出る幕なんてありません」


「姉妹揃って行動力があるんだね」


「ですから私がザロモン侯爵領の復興を手伝いたいと言ったとき、両親は驚きはしましたが、反対はしませんでした。

 むしろ『フォンジー君なら大丈夫だろう。安心して娘を預けられる』と言って、応援されました」


「そこは『嫁入り前の娘をそんなところには行かせられん!』と言って全力で止めて欲しかったな」


フォンジー様は何だか疲れてるようでした。


「来てしまった以上、君が領地の復興に携わることは止めないし、応援しようと思う」


「ありがとうございます」


やはり領地の復興作業に携わるには領主様の許可がいりますから。


フォンジー様が応援してくださるなら百人力です。


「でもね一つ約束してほしいんだ。

 君が当地の領地にいることを誰にも言わないって」


「なぜですか?」


「君は弟の元婚約者だし、未婚だし、私も結婚してない。

 未婚の領主のところに、未婚の貴族令嬢がいると、あれやこれや噂してくる人間がいるんだよ。

 貴族の中には、次男との婚約がダメになったら……兄や弟と婚約し直す人間もいるしね」


確かに婚約中に弟さんが亡くなったので、代わりにお兄さんと結婚する方もいますね。


婚約は家と家との結びつきですから。


結婚する相手が弟から兄に変わっても、家にとってのメリットは変わらないということでしょう。


「だからね、未婚の君に変な傷がつかないようにこのことは内密に……」


「それは無理です。

 私がここに来ることを、カロリーナ様とマダリン様に話してしまいました」


フォンジー様が再び脱力されました。


「そっか、話しちゃったか……。

 しかも噂好きのブルーノ公爵令嬢とメルツ辺境伯令嬢に……」


フォンジー様は頭を抱えておりました。


だいぶお疲れが溜まっているようです。


「フォンジー様、実家からハーブティーを持参しました。

 だいぶお疲れのようですし、ハーブティーをお淹れしましょうか?」


「いや、大丈夫だよ」


フォンジー様は頭から手を離し、顔を上げました。


「あのね、エミリー嬢。

 今から私が話すことをよく聞いて」


「はい」


フォンジー様が真剣な目をしています。


きっと今から大事なお話をされるのですね。


私も集中して聞こうと思います。


「卑怯に思われたくないから先にちゃんと説明しておくね。

 君は弟の元婚約者だった。

 いろんな事情があって婚約は破棄されたけどね」


「はい」


「結婚は家と家の結びつきだ。

 先程も話したように当人に何かあったとき別の兄弟と、婚約し直すこともある」


「存じております」


「ここからが本題なんだけど、君も未婚だし、私も未婚だ。

 お互いに婚約者もいない」


「はい」


私もフォンジー様も一度目の婚約がダメになっています。


婚約を破棄した後、フォンジー様は領地経営が忙しかったですし、私は学園で勉強に忙しかったので、お互いに新しい婚約者を見つける時間がありませんでした。


「そんな状態で君が私の領地にいることを、他の貴族が知ったら……」


フォンジー様のお顔は真っ赤でした。


この部屋はそんなに暑いのでしょうか?


「その……君が私に……、だからその、嫁いで来るのではと………勘違いする人もいるだろう」


「えっ……、ええっ…………!?」


フォンジー様の言葉を理解するのに時間がかかりました。


今度は私が真っ赤になる番です。


「そんなの困ります!

 フォンジー様はお兄様のような方で、 そのような対象として見たことありませんのに!」


「そ、そうだよね……。

 私も君を……妹のように、思っているよ」


フォンジー様はなぜか、かなりしょんぼりしていました。


私はまた変なことを言ってしまったでしょうか?


「だからね。

 さっきは領地の復興に携わることを応援すると言ったけど、それは君がここにいることを、ご家族以外知らないと思ってたからなんだ。

 でも君のご家族以外の人間が、君がここにいることを知っているなら、話は変わってくる。

 領地にとどまることを考え直して欲しいんだ。

 君は一度、弟のせいで婚約を破棄している。

 これ以上君に傷ついてほしくないし、君の婚期をこれ以上遅らせたら、私はグロス子爵に合わせる顔がなくなってしまう」


そう……ですよね。


フォンジー様にとって私は、妹みたいな存在。


いつまでも領地にとどまったら、フォンジー様の婚約者を探す邪魔になってしまいます。


フォンジー様に妹みたいな存在だと言われた時、胸の奥がチクンと痛みました。


同時にフォンジー様の隣に、新しい婚約者が立っている姿を想像したら、胸の奥がモヤモヤしてきました。


何でしょう?


この形容しがたい気持ちは……?


「せっかく王都から訪ねてきてくれた君を、明日追い返すような真似はしないから安心して。

 しばらくはバカンスのつもりでここにいていいよ。

 その間に、君が見たい場所、行きたい場所を全部案内するから。

 だから気が済んだら、王都に帰ってくれるかな?」


「……はい」


領地の復興に貢献したいなんて、私は 思い上がってました。


そうですよね。


父のように復興支援金を出せるわけでもなく、屈強な男性のように田畑を耕せるわけでもありません。


華奢な私が一人増えてもお邪魔になるだけですよね。





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